第178話 ドクターストップ
速い! ゴブリンとは思えない速さだぞ! こちらが正面に立つ前に森から出てきそうだ!
「ビシャ! ゴブリンの群れが出てくる! 正面に出て撃て!」
「わかった!」
足の速いビシャに正面は任せ、オレはその場で伏せ撃ちの体勢を取った。
三秒後、森の中からゴブリン──マーヌが現れた。
ムバンド村で見たマーヌくらいあり、長いこと生きてるのがわかった。
正面に立ったビシャがP90を構えて撃ち、先頭を走っていたマーヌを文字通り蜂の巣に。オレは驚くマーヌの横っ腹に連射でぶっ放してやった。
数匹は倒せたが、長く生きただけにマーヌもただ殺られることはなかった。
ボスだろうマーヌが唸ると生き残った者らが散開。だが、MINIMIの射程内。まだ百発以上残っている。
残りで四匹を行動不能にしてやり、すぐにスコーピオンに切り換えた。
ビシャも倒しているようで残り半分。とは言え、強いのが残ったようで動きが速い。当たっても怯みもしないぜ。
それでもマーヌを撃ち、少しずつ減らしていき、残りはボスらしき個体となった。
スコーピオンの弾がなくなったのでグロックに持ち換え、構えながらビシャと合流する。
「弾は?」
「グロックとククリナイフだけ」
「オレが出る。回り込んだら隙を突け」
ビシャの返事を待たずにボスらしき個体に突っ込む。
怖い。メッチャ怖い。だが、あのくらいのを倒せないではこれから現れるだろう上位種や特異種、ゴブリン王と対峙して生き残るなんて無理だ。このくらいで負けてらんねーんだよ!
グロックにつけてたライトをフラッシュ。眩しさに目を逸らしたボスらしき個体に弾を撃ち込んでやった。
が、あまり効いてない感じ。やはり9㎜弾では弱いか。
それでもまったく効いてないわけじゃない。すぐにマガジンを交換。また全弾を食らわせてやった。
ビシャも加わり、四、五十発を食らわせてボスらしき個体がやっと倒れてくれた。
「……死んだ?」
それは禁句。死亡フラグを立てるんじゃないよ。
すぐに最後のマガジンを交換し、五発、ボスらしき個体に撃ち込んだ。うん。動かない。ただの屍のようだ。
「ビシャ。トレーラーから武器を持ってきてくれ」
ゴブリンの気配は近くにないが、他の魔物が現れないとも限らない。すぐに態勢を整えなければならん。
「お見事」
横からのんびりした声にびっくり。音もなく近づいてくんなや。ミスター東郷なら殺されてるぞ。オレはびっくりしてチビりそうになったがな!
「才能がないと言う割りには上位種のそれも群れのボスを倒すんだからな」
「一人で倒せたら誇られもするが、ビシャがいてくれたからできたことだ。なんら自慢にはならんよ」
別に一人で倒したからって誇りたいたわけでもない。オレがやってることは命の強奪。オレが生きるためにやっていること。そこに誇らしさなどなにもないわ。
「タカト!」
ビシャが戻ってきてくれたDスナイパーとマガジンをプレートキャリアに差した。グロックは予備だからマガジンは持ってこなかったんです。
「まずは生きてるマーヌに止めを刺すぞ」
あれだけ撃ってんのに生きてるのが結構いる。まず、そいつらに止めを刺さなければ安心できん。
頭に一発ずつ撃ち込んでいき、最後に念のためとばかりにボスらしき個体の頭にも撃った。
「用心深い男だ」
「後ろからガブリは嫌だからな」
死亡フラグは完全に叩き折っておく。
「ミシニー。ゴブリンの気配はないが、周囲の警戒を頼む」
「任せろ。世話になった分は返すさ」
男前なミシニー。惚れそうだ。
「ビシャ。マーヌから魔石を取るぞ。これだけのサイズなら魔石はあるだろうからな。あと、マガジンを拾い忘れるなよ。グロックのマガジン、あまりないからな」
もちろん、スコーピオンのマガジンも忘れない。マガジンはほんと地味に高いから嫌になる。
二十一匹から魔石は出てきたが、すべてをかっさばいていたら昼を過ぎてしまった。
「まずは昼にしよう」
血で汚れた手やナイフを洗ったらホームに向かった。
「タカト、なにかあった?」
玄関に心配そうなラダリオンとミリエルがいた。
「ああ。マーヌの群れが突然襲ってきて今まで戦ってたよ。すぐに昼飯を用意するな」
タブレットをつかみ、億劫なのでビジネスホテルの朝食ビュッフェを買った。
「タカトさん。回復しますね」
と、ぼんやりしていたオレにミリエルが体力回復の魔法をかけてくれた。
「ありがとう。少し楽になったよ」
「少しなら相当疲れているってことです。無茶しないてください」
「ああ。そうするよ」
オレはドクターストップを無視してまで働きたくはない。今日はこれで終わりにするよ。
朝食ビュッフェを大皿に替えて外に運んだ。
「待たせたな。いっぱい食え」
オレもいっぱい食って体力をつけよう。
昼飯が終われば片付けを開始。その間、ビシャには魔石を洗ってもらう。
「帰るのか?」
「いや、今日は村に泊めてもらって、明日の朝に帰るよ」
片付けもお願いしたいし、まだ洞窟の中で生きているのが数匹いる。明日まで待って死ななければドライアイスを五十キロくらい投入しよう。
片付けが終わり、パイオニアとトレーラーを仕舞い、装備を再点検。銃よし。弾薬よし。荷物よし。
「忘れ物はないな?」
「うん。ないよ」
最終確認よし。では、村に撤収だ。
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