第286話 血族

 エルフの老婆はサシリーと言い、サシリーさんから見たタチバナマサキさんの戦いは波乱に満ちていた。


 マサキさんは、早くから自分が火属性の魔法を使えることに気がつき、魔石と併用した戦い方を極めていったそうだ。


 ……魔法に気がつかない己の鈍さに嫌になるな……。


 その頃からホームも使えたようで、なんとゴブリンの報酬は一万円だったとか。なんで下げてんだよ、クソ女神が!


 サシリーがマサキさんと出会ったのはマサキさんがこの世界にきて半年くらい。今はもうない貴族の領地で出会ったそうだ。


 その頃には数十の群れでも相手できていたそうで、可燃物を使った戦いでは百匹もの群れを駆除していたそうだ。


 銃器に頼らず百匹の群れを駆除するか。銃の凄さがわかりマサキさんの凄さがよくわかる。二段階アップし、一年生きた今でも素手でゴブリンに勝てる気になれない。マチェットを持ったとしてもオレは三匹いたら即撤退するぞ。


 サシリーさんと出会い、エルフと関わるようになり、エルフを従えてゴブリン駆除に励み、この土地に住み着いたそうだ。


 エルフたちとともにゴブリン駆除に励んだが、今回のようなことが起こり、たくさんのエルフが死に、そして、マサキさんも激戦に次ぐ激戦で死んでしまったそうだ。


 才能があり、エルフを従えたマサキさんですら二年と半年。これまでの自分の戦いを思い出し、マサキさんの話を聞いてつくづく思う。オレらは使い捨てだったんだとな……。


 ふざけんな! オレらはゴブリンを駆除するバル○ンじゃねーんだよ! 神ならゴブリンにだけ効く病気でも流行らせろってんだ!


「……ありがとうございました。マサキさんの戦いを聞けて今後の計画に活かせます」


 金貨を詰めた小袋を取り寄せてサシリーさんの前に置いた。


「マサキさんの話は千金に勝るものですが、今のオレにはこれが限界。これで許していただければ幸いです」


 駆除員の話は本当に貴重だ。ましてやその生き証人がいる。千金でも足りないくらいだ。


「……ああ、ありがたくいただいておくよ……」


 小袋を取り、横にいる若い娘に渡した。


「それと、ここから本題なのですが、あなたたちの中からゴブリン駆除ギルドに入りたいという人がいたら仲介してもらえませんか? オレにはゴブリン駆除を他者に請け負わせられる権限を与えられました。ゴブリン一匹駆除すれば三千五百円、大銅貨三枚と銅貨五枚が払われます。マサキさんと過ごしていたならそれがどういう意味かおわかりでしょう?」


 可燃物を使ってたのならタブレットを使って買い物してたってこと。なら、他にも買ってサシリーさんにも与えていたはずだ。


「……何人でもよいのか……?」


「人数制限はかけられていません。なんなら、ここにいるすべてを請負員とすることもできます」


 それはすなわちギルドにエルフを受け入れると言っているようなものだが、ゴブリンを駆除しなければ金は入らない。それぞれの自助努力で豊かになっていくのだからオレに負担は……ないと思いたい……。


 ま、まあ、魔法に長けたエルフなら攻撃魔法でゴブリンを駆除できるはずだ。ミシニーだって銃は使わず魔法だけでやっているからな。もしかすると、マサキさんが魔法戦を確立したのかもしれんな。


「よくわからないのならまずは何人かにやらせてみてはどうです? 請負員は一年ゴブリンを駆除しなければ請負員ではなくなります。オレらと違い、嫌なら辞められますからね」


 ……辞められないのならせめて定年制を導入して欲しいぜ……。


「まあ、すぐに答えを出せと言いませんが、町の外にはゴブリンが潜んでます。稼ぎ時を間違えないようにしてください」


 とりあえず、聞けることは聞けて、話すべきことは話した。あとはエルフたちの判断。ゆっくり待てばいいさ。


「まずはわたしがなります」


 席を立ち、この場を去ろうとしたら若い娘が声を上げた。


「わたしは、アリサ。お婆様のひ孫です」


「マサキとわたしの血を受け継ぐ子だ」


 子供を作ったのかい。マサキさん、やることやってんな! 


「そうですか。では、アリサさんを請負員にします」


 カードを生み出し、アリサに渡して名前を告げさせた。


「これでアリサさんは請負員です。ちょっと町の外に出てゴブリンを駆除してみますか。明日の朝、門のところで落ち合いましょう」


 外では今もアルズライズがゴブリンを駆除してるが、二万二千匹にならないところをみると苦戦しているのだろう。オレのように気配がわかるわけじゃないしな。


「わかりました。お願いします」


 マサキさんの教えか、それともサシリーさんが教えたのか、アリサさんの言動がなんか日本人っぽい。見た目はスレンダーで薄い金髪ばかりだけど。


「ビシャ。アルズライズのところにいくぞ」


 もう六日? いや、七日か? オレらが町に入ってからずっと雪を解かし、ゴブリンを探している。なにもそこまで、と思わなくもないが、アルズライズには竜と戦う望みがある。好きにやらせたらいいさ。


 地下を出て町の外に出る。


 あれから何度か雪が降ったが、死体片付けで人が動いているからかそんなに積もってはおらず、ヒートソードで解かしているから辺りは泥だらけ。働いている者も泥だらけである。


「アルズライズは……あっちか」


 門から出て北の方向にアルズライズの気配があった。


 泥に足を取られながら向かうと、下半身が泥にまみれにし、ヒートソードで解かされた雪の水蒸気でびしょ濡れになったアルズライズがいた。


「アルズライズ。ビシャと交代しろ」


 振り向いたアルズライズに取り寄せた、先を尖らせた金テコバールを放り投げた。


「暗くなるまでゴブリンを駆除するぞ」


 あと二時間くらいで陽が沈む。ざっと見渡した限りで二百匹。アルズライズなら問題あるまいて。


「……すまない」


「ほら、やるぞ」


 マチェットを抜き、ゴブリンがいる場所を差してやった。

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