第287話 最強のコンビ
朝になり、職員やドワーフとともに門のところにいけば二十人くらいのエルフが集まっていた。
「おはようございます」
代表してサシリーさんのひ孫、アリサが挨拶してきた。
「おはようございます。後ろのは請負員になりたい方々ですか?」
「はい。昨日、タカト様が帰ってから話し合って若い者を請負員にすることにしました」
「様はいらないよ。別に上下関係があるわけじゃないんだから。オレもアリサと呼ぶよ」
お互い、失礼のない付き合いをしたらいい。エルフを配下に、なんてことは考えてないし、したいとも思わない。ゴブリンを駆除して、オレの生存圏を守ってくれたらそれで充分である。
……なんかそんな感じにならない雰囲気ではあるけど……。
「じゃあ、全員に請負カードを渡す。オレに名前を告げてくれ。承認すれは請負員となるから」
まずはカードを渡し、一人一人名乗らせて承認していった。
「これであんたらは請負員となった。穴を掘れるほどの土魔法を使えるヤツはいるか?」
そう問うと、三人が手を挙げた。
「じゃあ、どんな威力か見せてくれ」
ゴブリンが隠れている場所に向かい、穴を掘って──いや、ずらしたって感じだな。
昨日と同じく三十センチくらいの場所にゴブリンが一匹いた。
三十センチとは言え、その手でよく掘れるものだよな。皮膚が厚いんだろうか? 触りたくないから確認しないけど。
マチェットを抜いて土魔法を使ったエルフに渡して殺させた。
「これで三千五百円が報酬としてカードに入った。ビシャ、悪いが使い方を教えてやってくれ」
次の場所に移り、違うヤツに土をずらさせ、マチェットで殺させた。
そうやって次々とエルフたちにゴブリンを殺させた。
二十三人もいるとなかなか時間がかかって仕方がない。七時前から始めたのに一巡するだけで十時までかかってしまったよ。
ビシャが買い方を教えてくれたので、エルフたちがパンとワインを飲んでいる。てか、パンとワインて合うものなのか?
よほど飢えていたんだろう。パンとワインを貪っている。空腹にワインは酔うんじゃないのか? って思ってたら予想通り、酔いが回ってヘタリ込んでしまった。
「……これじゃ続けられないな……」
唯一無事なのはアリサだけ。こいつは火の魔法が得意なので土をずらすのは無理だろう。ゴブリンも見つからないよう穴を埋めてしまってるからな。
……ゴブリンは低酸素でも生きられるのか……?
「アリサ。午後からにしよう。オレが印をつけておくから酔いが冷めたら土をずらして駆除してくれ」
「申し訳ありません。せっかくタカト様のご厚意なのに」
「気にしなくていい。酷い状態が続いていたんだからな。ゆっくりやればいいさ」
冬はまだ始まったばかり。マイセンズに向かうのは一月後でも問題ないはずだ。
「タカト!」
オレらも一休みしてたらメビが駆けてきた。どした?
「カインのじいちゃんと巨人がきたよ!」
もう? 随分と早いな。出発したの四日前だろう? 通常でも五日はかかるってのに、この雪で四日? ワープでもしたか?
「巨人は何人だ?」
「六人だよ。前に館を造った人たち」
ロミーの親父さんか? 旅をするような年齢でもないと思うんだが。
アリサに戻ると伝えて門のところに向かうと、ロミーの親父さんの下にいた者とラザニア村の者がいた。名前は知らんけど。
「カインゼルさん、随分と早かったですね?」
「巨人が雪を払ってくれたからな、難なくスノーモービルを走らせられたよ」
まあ、ブルドーザーが六台あるようなもの。道なき道を進んでも問題ないか。登山用の靴を履き、ピッケルやら斧やらを手にしている。立ちはだかるものは薙ぎ倒してきたんだろうよ。
「ご苦労さんな。皆には悪いが、あちらの森に野営地を造ってある。そこを巨人たちの根城にしてくれ。ロズ、マッシュ、案内してくれ」
ロズにヒートソードを一本渡して道案内をお願いした。
「タカト。ショベルカーはどこだ?」
今到着したのにもう油圧ショベルのことかい。そんなに乗りたかったの?
「えーと。あっちですね。ゼイスが運転してるので教わってください」
「わかった──」
駆けていく五十代。ほんと、見習わないといけないパワフルさだな。
「メビ。ミリエルと支部にカインゼルさんたちがきたことを伝えてくれ」
「わかった、任せて!」
素直でよろしい。今夜はすき焼きにしてやろう。
「ビシャ。ちょっと早いが昼飯にするか」
十一時半前だが、やることいっぱいで昼飯を逃しそうだ。食えるときに食っておこう。
テーブルを出し、ミサロが作ったカレーパンをいただいた。
「辛くないか?」
甘口と辛口の二種類あるが、犬の獣人の味覚だと甘口でも辛いんじゃないか? てか、今さらだが、獣人に香辛料を食べさせてもいいのだろうか? 何日かに一回、回復薬を飲ませておくか。オレもなんの病気にかかっているかわからんから五日に一回は飲んでるよ。
「……お前たちも食べるか?」
いつの間にかエルフたちが集まっていた。
「いいんですか?」
「たくさんあるから構わんよ」
まだまだホームにあったし。
「ただ、エルフの舌に合うかわからないからちょっと食って合うか合わないか確かめろよ」
カレーを食ったミシニーが生きているんだからエルフが食べても大丈夫だとは思うが、念のため、確かめながら食ってくれよ。
「美味い!」
「ああ、こんな美味いの初めてだ!」
なにやら大絶賛。エルフは刺激物がお好きか?
「タカト様、もしかしてこれ、カレーですか?」
「あ、ああ。知っているのか?」
「お婆様がよく話してくれました。マサキお爺様はカレー屋をやっていたと」
工場作業員にゴブリン駆除をさせるのも酷いと思うが、カレー屋にさせるのも酷いな。もうちょっと格闘技なり銃器に詳しいヤツを選べよな。
「これがカレーなんですね!」
いや、カレーと言えばカレーだが、正確には……まあ、いっか。美味そうに食っているし。野暮なことは言うまい。
牛乳を取り寄せてやり、エルフたちに飲ませてやった。オレはカレーパンを食うときは牛乳を飲む派なんでな。
カレーパンと牛乳。最強のコンビである。
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