第288話 黒髪

 規則正しい生活は続いているが、ゴブリン駆除をしているより忙しいとか、なんなんだ、これは?


 朝は職員たちと進行状況の話し合い。終わったらエルフたちのゴブリン駆除手伝い。合間にホームに戻ってコラウスの状況を聞く。終われば伯爵のところにいって夕飯を摂りながらの話し合い。終わればホームでミーティング。二十二時には眠れてるが、なんか気持ちが鬱屈してってる気がする。


 今日も今日とてゴブリン駆除の手伝いを終わらせ、支部に戻り、ホームに戻ってシャワーを浴びてきたら伯爵からの使いがきていた。


 伯爵への報告は日課なので使いがこなくても十八時にはいっている。なにかあったのかな?


「周辺の寄り子たちがやってきたのでタカト様にきて欲しいとのことです」


 オレに? 別に寄り親寄り子の話し合いにオレ関係ないじゃん。なんて言うだけ無駄か。寄り子とは言え、まだ若い伯爵には荷が重い。誰か頼れる者がいて欲しいんだろうよ。オレに頼られても迷惑だけど!


「わかりました。すぐいくと伝えてください」


 寄り子が何人きたかわからんが、もてなし用にワインでも出してやるか。


 使いには先に戻らせ、ホームにいってワインを買った。


「あ、ミリエル。オレと一緒に館にきてくれ。周辺の寄り子たちが集まってきたらしい。記録を取ってくれ」


 ここを中間拠点とするからには周辺の寄り子たちの情報を仕入れておくべきだろうよ。


「わかりました。服装はどうします?」


「いつものでいいよ。パーティーするわけじゃないんだしな」


 オレたちは貴族でもなんでもない。着飾ったところで仕方がない。侮るなら勝手に侮ってろ、だ。


「アポートウォッチは渡しておく。いざとなれば武器を取り寄せろ」


 オレにはチートタイムがある。武器を取り寄せるより発動させたほうが早い。ワインは二人で持っていけばいいだろう。


 館にいくと、馬が十何頭と繋がれていた。この雪の中馬できたのか? てか、周辺の寄り子に連絡を入れたのか?


 使用人が待っており、ワインを渡して伯爵のところに案内された。


「すまない。寄り子ちが示し合わせてやってきてな。もし、ゴブリンのことを振られたら説明して欲しいのだ」


「わかりました。寄り子の中で厄介な人はいますか?」


「エビル男爵だ。妻の兄であり、寄り子の中では領地が広く富んでいる。数年前から頭が上がらない存在だ」


 まあ、この落ちぶれ具合ではな。取って代わられても仕方がないだろう。


 事前情報が欲しいところだが、待たせるわけにもいかない。臨機応変にやるしかないだろう。オレの寄り子ではないし、領民でもない。いざとなれば計画を放棄して逃げ出すだけだ。


 ……まったく、あれもこれもと命懸けで嫌になるぜ……。


「食事は済ませたんですか?」


「いや、食事をしてから酒でも飲みながらと考えていた」


「それはよかった。ワインを持ってきたので出してください」


「すまぬな。タカトには助けられてばかりだ」


「お気になさらず。見返りを求めてやっていることなんですから」


「ふふ。そうはっきり言ってくれるからタカトは信用できるよ」


「持ちつ持たれつがいい関係ってね。一方的な関係は早々に破綻しますよ」


 毎日会っているからか、つい砕けた口調になってしまう。ちょっと気をつけたほうがいいな。対等にはなれない関係なんだから。


「伯爵がオレに協力してくれるならオレも伯爵に協力致します。それをお忘れなく」


 寄り子に侮られようとも伯爵は伯爵。十二分に後ろ盾と成り得る地位だ。なら、力をつけてオレを守ってもらいましょう、だ。


「ああ。忘れないとも」


 少し気落ちしていた伯爵に元気が戻り、伯爵に相応しい立ち振舞いになった。


「失礼します。旦那様。夕食の用意が調いました」


 使用人頭のモーリスさんがやってきた。


「ミリエルの席は?」


「奥様の横に用意しております」


 できる使用人頭だ。ちなみに、貴族なら執事になれてそうでないときは使用人扱いなんだってさ。身分制度があるところは大変だ。


 モーリスさんに先導され食堂に。そこには四十代前後の男が十数人いた。どいつも力で治めてきた、みたいな男ばかり。魔物がいる世界じゃそうでないと下はついてこないんだろうかね?


 ……てか、黒髪のヤツが何人かいるな。茶色や薄い金髪がほとんどを占めているのに。まさか、マサキさんの血が流れているとかか……?


「遅れてすまない。まずは食事をしよう。ゴブリン駆除ギルドのタカト殿がアシッカの闇を払ってくれたばかりか食料も運んできてくれたばかりか美味い酒を提供してくれた。このあとの話し合いでも出すの」


 オレの名が出てきたので一礼だけしておく。まだ出番ではないようなので。


 ミリエルは奥様(てか、初めて見た。まだ十代じゃね?)の横に。オレは伯爵の横に。二人を挟むように座った。オレらが伯爵の後ろ盾だと知らしめるために。


 寄り子たちの視線がオレに向けられるが、竜や山黒と言ったバケモノを見た今では人間の睨みなど屁でもない……こともない。さすがにこれだけの人数に睨まれたら多少は怖いわ。こっち見ないで!


 女の使用人が寄り子たちにワインを注ぎ、伯爵の音頭で緊迫した夕食が始まった。

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