第44話 ゴルグ

「おれはゴルグと言う。木を伐りにきたらミドに襲われてしまったのだ」


 ミド? また巨人を襲うバケモノか? ほんと、勘弁して欲しいぜ。


「そのミドは?」


「吹き飛ばしてやったら逃げたよ」


 よかった。巨人でも対抗できるレベルならショットガンで殺せるレベルだ。オレは即死レベルだがよ。


「傷は深いのか?」


「ああ。かなり深く噛まれて動けない。血も多く流れた」


 力なく木によりかかり、汚れた顔がいくぶん青く見えた。


「ラダリオン。救急セットを持ってきてくれ」


 巨人にどこまで効果があるかは知らないが、なにもしないよりはマシだろう。


「わかった」


 ラダリオンが持ってくる間に噛まれたところの皮をナイフで切っていくと、なるほど確かに深く噛まれていた。


「巨人の肉を噛むとか恐ろしいものがいるんだな」


「普段ミドはおれたちを襲ったりはしない。子育て中のミドに近づいたおれの失態だ」


 凶悪、って感じではないのか。あとでどんなものか聞いておこう。


 ラダリオンが持ってきた救急セットのジッパーを開けて、抱えないといけないマ○ロンを出した。


「結構滲みるが我慢してくれ」


 そう言ってマ○ロンを傷口にかけた──と言うより噴射させた。


「うぐっ!」


「傷口を綺麗にする薬だ。我慢してくれ」


 オレの拳くらいになった綿棒で固まった血を落とし、またマ○ロンをかけて毛布くらいあるガーゼを当て、ラダリオンにガーゼを巻いてもらった。


「食欲はあるか?」


「あまりない。ただ、喉が乾いた。水をもらえるか?」


 オレのでは無理なので、ラダリオンのペットボトルを渡してやった。蓋を外してからな。


「ふー。美味い。手間をかけさせたな」


「構わんさ。こちらも人のいるところにいきたかったからな。この借りは案内で返してくれ。まあ、とりあえず眠りな。起きるまでオレたちがいるからさ」


「ああ。そうさせてもらう」


 そう言ってすぐに眠りについてしまった。この世界のヤツは寝つきがいいこと。


「ラダリオン。周囲を探ってくれ。もし、ミドとかいたら殺してくれな」


 オレのためによ。


「わかった」


 ラダリオンが周囲を探っている間にオレは枯れ枝を集めて火を起こした。


「なんかオレ、助けてばっかりだな」


 ラダリオンに始まり、ミシニーと続き、またゴルグを助けてる。人助けするためにこの世界に送り込まれたわけじゃないのによ。


 いやまあ、ゴブリン駆除よりは人間らしい行動で有意義な行為か。だからって生き甲斐にしようとは思わんけどな。


 また暇ができたのでP90の弾込めをすることにした。


 辺りが暗くなる頃、ラダリオンが戻ってきた。


「周囲になにもいなかった」


「ご苦労様。毛布と水、あと果物の缶詰めを持ってきてくれ」


 そうお願いして持ってきてもらい毛布をゴルグにかけてもらった。


「夕食の用意するからしばらく見張っててくれ。なんか食べたいものあるか?」


「んー。カレー全部乗せがいい。あと、メロンが食べたい」


「またメロンか。よく飽きないもんだ」


 ラダリオンの最近のお気に入りになったメロン。毎日毎食メロンを十個は食べているのだ。


「リンゴより美味しいから飽きない」


 それはリンゴに可哀想だから同じくらい好きと言っておきなさいよ。


 セフティーホームに戻り夕食とゴルグ用の食い物を買い揃え、キャンプ道具と食材、ワインを二本持って外に出た。


「ラダリオン。交代だ。食べたらゴルグ用に用意した食い物を出してくれ。あとは休んでいいからな」


「うん」


 ラダリオンがセフティーホームに戻り、オレはキャンプの準備に取りかかった。


 筋肉痛に苦しみながらDVDでキャンプ映像を観て学習したし、そう本格的なことをしようとも思わないので、三十分くらいで完了。三脚に鍋をかけてシチュー作りを開始した。


 男一人暮らし。多少なりとも料理の腕は持っている。それでなぜやらないかと言えば料理する時間がもったいないから。その時間を訓練に使いたいからだ。


 野菜を切って鶏肉を入れ、市販のルーで味つけ。たわいもない普通のシチュー。だが、外で食うとなぜか美味しく感じてしまう不思議。これがキャンプマジックってヤツか?


 厚切りのベーコンを炭火で焼いたのもまた美味い。異世界にきてキャンプに目覚めそうだな、オレ。


 まあ、ここでのキャンプは命懸けになりそうなので、目覚めてもすぐに眠らせるけどな。


 ぐぅ~。と近くから腹の虫が鳴いた。


「すまん。いい匂いだったもんで……」


「食欲が出たなら回復してる証拠さ。もう少し待ってな。もう少ししたらゴルグの分を持ってくるから」


 言った側からラダリオンが出てきた。


「ラダリオンが食えるものを用意したが、食えないのがあったら外して食ってくれ。酒は傷口が完全に塞がるまではダメだぞ。酒は筋肉を緩めて血の巡りをよくする。傷口も開いて血が止まらなくなるからな」


 にわかな知識だが、酒で治るのは酔っぱらいの妄想だ。


「その包みは食えないから注意しろ」


 味に好みはあるだろうが、モスなバーガーなら万人受けする。ラダリオンも気に入ってたから食えるはずだ。


「美味いな、これ!? なんなんだ?」


「ハンバーグってもんだよ。刻んだ肉を固めて味の濃い野菜の汁をかけたものだ」


 説明不足で申し訳ございません。オレにはそれが精一杯なんです。


「もっと食いたいところだが、腹一杯だ」


 巨人がすべて大食漢ってわけじゃないようで、四つ食べて腹は膨れたようだ。ラダリオンが異常なだけみたいだな。


「残りは明日食べたらいい」


 温かいものを温かいまま食える時代でもなさそうだし、冷めても問題なく食えるだろうよ。


「本当にすまんな。この礼はするよ」


「ああ、頼むよ。遠くから流れてきたからこの辺のことはなにも知らないんでな。教えてくれるならこのくらい安いものさ」


「お前さん、タカトと言ったか? 冒険者なのか?」


「いや、オレらはゴブリンの駆除を生業としているんだよ。一匹狩ると一食分の稼ぎになるんだよ」


「そんな商売があるんだな」


「どこかの大魔法使いが始めたことらしいが、オレは会ったことはないんで詳しくは知らん」


 と言う設定にしておく。ダメ女神からと言っても信じられるかわからんしな。大魔法使いがって言っておくほうが真実味があるだろう。


「まあ、今は回復することに集中して眠りな」


「そうだな。そうさせてもらうよ」


 ゴルグが寝たら長い夜を弾込めで過ごした。

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