第45話 ラザニア村

 三日過ぎたらゴルグの傷も癒えてきて松葉杖で歩けるようになった。治癒力高いな。


 とは言え、数百メートルも歩けないので、キャンプ地から動いてはいない。なのでマチェットの訓練をしてたのだが、暇だからとゴルグが作ったマチェット用の的がなかなか立派なものだった。


「巨人は皆器用なのか?」


 ナイフで削るスピードがとにかく速く、ナイフ一本で木人形まで作ってしまった。十分もしないでだ。


「そうだな。大体の者は器用だな。おれは職人だから他よりは器用だと思う。それに内職で剣や槍の訓練に使う標的も作っている」


 へー。職人なんだ、ゴルグは。だからそんなに器用だったんだな。


「しかし、よく切れる刃だな。これ、売ってもらうことはできるか?」


「売ってやっても構わない。だが、オレらが使うものは特別だから大魔法使いが他に渡らないよう十五日過ぎると消える魔法をかけてるんだよ。たった十五日しか使えんものを買うのは止めておいたほうがいい」


 まあ、石斧を使うレベルのところで工業製品たるナイフは神の武器にも匹敵するだろう。欲しいと思うのは無理ないことだ。


「まあ、コラウスでオレたちの後ろ盾になってくれるなら鉄の斧も鉄のナイフも安く譲ってやれるぜ」


 ここでちょっとセフティーホームの裏技。オレがこの世界のものを持って入り、ラダリオンに持たせて外に出ると巨大化される。この世界のものだから十五日縛りもない。ただ、これもチートではなく、ラダリオンが所有と思ってないとダメなようなのだ。


 ココラの羽根が思ったより綺麗なので持って帰り、オレとラダリオンの装備につけてみたのだが、外に出たときラダリオンの装備につけた羽根だけが大きくならなかった。


 まだ検証の段階だが、ラダリオンが所有物だと認識しなければこの法則は働かないようなのだ。


 あ、コラウスはゴルグが住んでいる地域の名前ね。コラウス辺境伯の領地なんだとさ。


 ……いくらゴブリンの弱いところだからって辺境に放り出すなや、ダメ女神め……。


「それでいいのなら後ろ盾になるさ。鉄の斧は夢だったからな」


「じゅあ、承諾ってことで、戻るまでそのナイフは貸しておくよ。あと斧も」


 ラダリオンがいれば安全だが、巨人がもう一人いたらさらに安全だ。オレの命が買えるならナイフと斧を貸し出すくらいう○い棒を買うより安いものだ。


 ……それだとオレの命、う○い棒と同等と言っているようなものか……?


 それから二日。ゴルグの治癒力は凄まじいもので、傷口は塞がり、急がなければ充分に歩けるくらいになっていた。


「明日、調子がよかったら出発するか」


「ああ。家族も心配してるだろうから早く帰りたいよ」


 ゴルグ、三児のパパで、年齢は三十二歳なんだと。四十半ばと思っててごめんなさい。


 出発の日は生憎の霧雨だったが、ラダリオンに抱えてもらえばなんてことはない。ゴルグが住む村に向かって出発した。


 ……うん。今日の夜はラザニアにしよう……。


「結構大きな村だな」


 ラザニア感はまったくないが。


「ああ。おれら巨人が住む村だからな」


 あ、なんか家が大きいな~と思ってたら巨人の家だったんかい! 距離感が狂いそうだな!


「巨人、結構いるのか?」


「そうだな。おれはいったことないが、巨人の国があるらしいぞ」


 まだ人がいないから可能としてるんだろうな。


「ゴルグ!?」


 山の中腹からラザニア村を眺めていたら下からゴルグの名前が呼ばれた。


 ラダリオンの腕から下を見ると、槍を持った……たぶん、巨人の男がいた。ほんと、距離感がわからなくなるな。


「ヤード! 久しぶりだな!」


「久しぶりじゃねーよ! 帰ってこないから死んだかと思ったじゃねーか! ロミーが泣いてんぞ!」


「すまんすまん。ボロドの木を探してたら深く入っちまってな、ミドに噛まれて動けなかったんだよ。すまんなが先にロミーへ伝えてくれ!」


「ああ、わかった。しっかり怒られろよ」


 そう言うと、巨人とは思えない身軽さで山を下りていった。


「今の、巨人だよな? やけに身軽じゃないか?」


「ああ。やつは巨人でも身が軽くてな、辺境伯に探索者として雇われてるのさ。この辺はよくオーグやらゴブリンやらが出るんでな」


 オーグは勘弁して欲しいが、ゴブリンが出るのは歓迎だな。まあ、大量に出られたら嫌だけど。


 見晴らしのよいところから大きく迂回し、昼休憩を挟んでから三時くらいにラザニア村へ到着できた。


 巨人三十人くらいが村の入口に立っており、見た目二十代半ばの女がこちらへ駆けてきた。


「あんた!」


「ロミー!」


 ってことはあれがゴルグの奥さんか。随分と若い見た目だな。ゴルグが老け顔なだけか?


 ひとしきりの抱擁が終わり、村の連中に声をかけられ、なんの最終回だ? と思っていたらやっとオレたちのことを思い出してくれた。


「タカト、ラダリオン、きてくれ」


 ラダリオンに抱えられたままのは恥ずかしいが、巨人の足下に立つなどオーグの前に素手で立つようなもの。恥じより命優先である。


「ロミー。こいつはタカト。オレの命の恩人だ。こっちはラダリオン。タカトの相棒でマーダ族のラダリオンだ」


「どうも、奥さん。抱えられての挨拶申し訳ない。タカトだ。よろしく」


「あたし、ラダリオン」


「ありがとうね、バカ亭主を救ってくれて。感謝するよ」


 なにか肝っ玉かーちゃんって感じだな。


「オレは怪我を手当てしただけ。無事なのはラダリオンがいてくれたからさ。もし、礼をしたいならラダリオンに頼むよ。女のことは女にしかわからんだろうからな」


 巨人にもアレはあるはず。この数ヶ月アレがなかったからまだなんだろうが、なったらオレにはどうしようもない。女の先輩にお願いしますだ。


 察しただろうゴルグの奥さんが頷いてくれた。


「そうだね。任せな」


 わかる奥さんでなによりだ。


「さあ、まずはおれんちにきてくれ。歓迎するよ」


 ってことでゴルグの家へ向かった。

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