第43話 遭遇
すき焼き、とても美味しゅうごさいました。またやりたいけど、またあんな状況には陥りたくないです。
安全第一。少ないながらも安定した収入。残業月に五時間。休日出勤たまにあり。二度のボーナスありとか、オレはなんて幸せな工場で働いていたんだろうな。あの日に戻りたいよ……。
なんて過ぎ去りし幸せを懐かしんでも仕方がない。今を生きることに目を向けましょうだ。ハァー。
体の痛みが抜けるまでに六日。若い頃の筋肉痛など一日二日で完治したのに三十過ぎたら六日もかかるとか、年齢とは斯くも残酷なものだとは知らなかったよ。
「ラダリオン。とりあえず南に進んでくれ。印は定期的にな」
「わかった」
先に装備を整えたラダリオンが外に出て、ガスマスクをしてからオレも外に出た。
「やっぱりまだ臭いな」
ゴブリンの死臭が凄いこと。六日くらいじゃ土には還らんか。
死臭が装備につくのは嫌なので、安いつなぎにP90用のベルトを回し、左側にマガジン三本のポーチ。右側にマチェットを取りつけ、ショルダーホルスターにはグロック19にマガジン二本。軽装備でこの一帯から抜けるとする。
昨日、ラダリオンに見回ってもらったのでオーグや他の魔物がいないことは確認済み。腐敗が進むと狼も食べないそうだ。
通りやすい場所を選んで麓に下り、方位磁石を使って南へと向かった。
ゴブリンの気配はまばらにあるが、六日前のようなヤバい気配はない。通常モードに戻ったって感じだな。
ラダリオンを追って南には向かうが、オレにはゴブリンの気配が命綱。ゴブリンが通常モードなら他に危険な存在はいないってことだ。
警戒しながら進むくらいなら多少遠回りになってもゴブリンの気配を辿っていくほうが安全だし速く進めるってもんだ。
ラダリオンもゴブリンを駆除しながら進んでいるようで、あまり遠くない距離でショットガン──ベネリM4の銃声が轟いている。
なんだかKSGより半自動のショットガンがよかったようで、ずっとベネリM4を使って、もうラダリオン用になってしまったのだ。
一応、七発入るのを新しく買ったが、身体的には六発入るサイズのヤツが一番使いやすいようだ。
オレも負けてはいられないと、銃声に逃げ出したゴブリンの出歩き隊を追いかけ、その背中へ弾丸を食らわせてやった。
サプレッサーをつけて五十メートルくらい離れているのでゴブリンたちは仲間が撃たれたことに気がついてない。一匹一匹狙いながら駆除していった。
「やっぱり出歩き隊を駆除するのが一番効率的だぜ」
六匹を駆除して弾は八発。一発五十円だから四百円の出費。労力や食費を引いても二万円以上の儲けだ。なんともボロい商売である。安定してたら、だけど。
昼になり、セフティーホームに戻り昼食。状況を報告し合い、またゴブリンを駆除しながらゆっくりと南を目指した。
「ミシニーとの距離はまだまだあるな~」
二日の距離のはずなのに少しも縮まった気がしない。四分の一も進んでない感じだ。
「ん? なんか警戒してる気配だな。なんかいるのか?」
いくつかいる出歩き隊の気配が警戒色を示している。
ラダリオンが近くにいて轟音を立てているのに警戒するなにかがいるのか? もうそう言うの止めて欲しいんだけど。
ゴブリンの気配を追いつつ周囲を警戒。P90を構えながらゆっくり進むと、道に出た。
草があまり生えておらず、轍があることからよく往来されているのがわかった。
「ミシニーの気配からしてあちらか?」
ラダリオンは道を渡ったようで、南のほうから銃声がしていた。
「知らないヤツが銃声を聞いたら驚くだろうな」
巨大化したことで銃声も大きくなっている。初めて聞いたら大洪水を起こしても仕方がないだろうよ。
「町の近くではサプレッサーつきでやらないと文句があがりそうだな」
ラダリオンも銃の腕が上がってきたし、サプレッサーつきのMP5なら扱えるだろう。弾も安い9mmを使えば三十発撃ち尽くしても四百円くらい。ゴブリン一匹駆除したら微々たる出費だ。
道を少し歩くと、ラダリオンがつけたスプレーの印がつけられてるのを発見。そこからラダリオンのあとを追った。
「ん? 生き残りか?」
ゴブリンの弱々しい気配を感じて向かうと、片足が千切れたゴブリンが地を這っていた。
「肉つきからしてちゃんと食べられてるゴブリンか」
これまでの経験からしっかり食べられていたらゴブリンは生命力が結構高かったりする。致命傷になる箇所に当たらないと死なないんだよな。まあ、出血多量で数時間で死ぬけどさ。
「万が一生き残られたら面倒だ。さっさと死ね」
頭に一発撃ち込んで息の根を止めてやった。
他にもラダリオンが撃ち漏らしたゴブリンの息の根を止めていくと、笛の音が響き渡った。
長く二回。少し間を開けて一回。集合を求める合図だ。
こちらも了解の合図で笛を長く一回吹いた。
笛の導きでラダリオンの下に向かうと、巨人の男がいた。
ジャックと豆の木に出てきそうな感じの髭モジャな男で、獣の皮で作ったベスト(?)に皮を継ぎ足したズボンを纏い、近くには石の斧が落ちていた。
「タカト。怪我人」
うん。右脚をなにかに噛みつかれたような傷があるね。でもね、オレにはどうしようもないよ。相手、巨人だし。
とは言え、放っておくこともできんか。町に住む巨人もいるとミシニーが言ってた。なら貸しを作っておくのもいいだろう。
そう考え、巨人へと近づいた。
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