第42話 すき焼き 2022スタート

 安心したら体中が痛くなった。


 足が痛い。腕が痛い。指が痛い。頭が痛い。痛いところばかりで泣きたくなる。なんでオレがこんな目に遭わなくちゃならないんだよ! 理不尽すぎんだろう。この世に神も仏も……いたんだったな。ハァー。


 這うように中央ルームに向かい、タブレットで湿布を大量に買った。


 貼る前に汗を流すか。汗臭いままではラダリオンに嫌われるからな。


 根性を出して装備を外し、ユニットバスへ。軽く汗を流し、新しい下着に着替えて体中に湿布を張りたくり、冷えピタを買い足して腕や指に貼りつけた。


 マットレスに倒れたらなんがグーグーと言う音がした。な、なんだ?


「……タカト……」


 目の前にラダリオンの顔があった。


「……あ、眠ってたか、オレ……?」


「うん。もう夜」


 確か午後の三時くらいにセフティーホームに入った記憶かある。って、もう十時過ぎてるじゃないか。がっつり眠っちゃったよ。


「す、すまん。腹減っ──」


 起き上がろうとしたら全身の筋肉が悲鳴を上げた。


「無理しなくていい。あるもの食べたから」


 その腹の虫さんは全力で食い物寄越せって言ってますよ。


「タブレットを取ってくれ。なに食べたい?」


「……肉がいい……」


 元気な胃でなによりだ。


 チャレンジメニューの俵ハンバーグ(三キログラム)を二つに、超大盛り  ご飯、鳥の唐揚げ特盛り、冷めても美味しいピザを十ホール買った。


「ジュースとケーキはまだあるか?」


「食べちゃった」


 だよね。二日と保ったことないんだから。冷蔵庫、もう一台買おうか悩んでたし。


 いつもの倍は買い、冷蔵庫に入れるのはラダリオンにお願い。今のオレにはタブレットを操作するだけで精一杯なんです。


 ガツガツ食べるラダリオンを見てたら睡魔が襲ってきて、いつの間にか眠りへ。次に目が覚めたときは午前十時を過ぎていた。


「……タカト。大丈夫?」


 また目の前にラダリオンの顔が。もしかしてずっと見守っててくれたのか?


「ああ。昨日よりマシになったよ。悪いが水をもらえるか?」


 用意してあったのか、すぐにペットボトルの蓋を切って飲ませてくれた。ガフゴブガフ。も、もっとゆっくりお願いします。


 なんとか水を飲んで一息つけた。


「朝は食えたか?」


「うん。食べた」


 ラダリオンの胃は今日も元気のようだ。


「すまないが、湿布を交換してくれるか? 背中とか手が回せないんで」


 まだ筋肉が悲鳴を上げている。前はいいが、背中は無理だ。起き上がるのも辛いぜ。


 ラダリオンに湿布の貼り換えを手伝ってもらい、ゼリー状の栄養食を買って食した。今はこれが精一杯だ。


「外はどうなってる?」


「弾があるだけゴブリンを駆除した。オーグもどこかにいった」


 外に出ないとカウントされないから何匹倒したかわからんが、五百発は買ったから八百匹は倒しているだろうよ。


「ほぼ壊滅はできた感じだな」


 オレも二百匹近くは倒し、合わせたら千匹くらいは倒したのだから壊滅と呼んでも構わないだろう。これならしばらく駆除業を休んでも支障はないさ。


「ざっと計算しても五百万円か。また焼き肉ができるな」


「焼き肉やるの!?」


「今回はラダリオンががんばってくれたからな。すき焼きでもいいかもしれんな」


「すき焼き? それ美味しいの?」


「ああ、美味い。焼き肉と並ぶ美味いものだ。オレ的にはすき焼きが上だと思っている。甘い汁で焼いた高級な牛肉をといた卵に絡めて口の中に入れる。そうすると舌の上で肉がとろけるんだ。もう口の中が幸せで満ちる」


 一万五千円のコースは伊達じゃなかった。なんなら三万円のコースにいっちゃっても構わないはずだ。


「……そ、それは、神の食べ物……?」


「人が作りし最高の料理だよ」


 あのダメ女神を見てからオレの中で神は死んだ。もう二度と神に祈り、讃えることはない。と言うよりしたくないわ。


「ただ、オレの体がよくなってからな。すき焼きは自ら焼かないといけないものだからよ」


 完成品でもいいが、最初は甘い汁で焼いた肉を食うのがすき焼きに対する礼儀であるとオレは思っている。


「わかった。最高の料理を食べるためにもっとゴブリンを駆除してくる!」


 ラダリオンのやる気スイッチがオンとなり、中央ルームを出ていってしまった。いや、そこまで張り切らなくていいからね……。


「──あたしの調子よくないからタカトのショットガン使う」


 あちらもお釈迦間近か。まあ、酷使してんだから当然か。それにラダリオンの力で使ってるんだしな。


「ああ。でも使い方知ってたっけ?」


「わかる。練習した」


 いつの間に? セフティーホームには一緒にいるのに、まったく気がつかんかったぞ。


「そっか。オレは威力のある弾使ってるから注意しろな」


「わかった」


 にっこり笑って出ていった。ラダリオンが笑ってるとこ、初めて見たよ。


 また横になり、装備の新調を考える。


 軽機関銃は買うとして、アサルトライフルもFN−SCARにするか。こっちも値段はよろしいが、5.56mmと7.62mmのがあってLとHに分かれてるっぽい。民間仕様のもあるが、特殊部隊が使ってるんだから軍用のがいいだろう(素人考え)。


 Lのほうはゴブリン用。Hは強力な魔物が出たとき用と使い分けよう。


 まあ、慣れてきたP90がメインウェポンだがな。


「体が治ったら人のいるところにいってみるか」


 なんか山にいるとゴブリンの群れと遭遇する率が高い気がする。人のいるところでちまちま駆除してるほうが長生きしやすいだろう。


 でもその前にすき焼きで慰労会だ。オレもいっぱい食って力をつけるぜ!


           2022.0101

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