第102話 三人目
「ラダリオン。あの子を駆除員としようと思うんだが、どう思う?」
これはオレ一人では決められないこと。ちゃんとラダリオンと話し合わなくちゃならんだろう。
「タカトが決めたらあたしは構わない」
「これは大事な決断だ。セフティーホームに一人加わるんだぞ。そのことを考えて答えを出すんだ。お互いが納得するためにな」
ラダリオンは従順ってタイプではないが、どうでもいいことには頭を使わないのだ。せめて大事なことを決めるときは頭を使ってください。
「食事が減るそれなら反対。減らないなら構わない」
ハァー。ラダリオンらしい簡潔な理由だよ。
「わかった。オレはあの回復魔法とセフティーホームでの管理をしてくれる者が欲しい。まあ、あの子が断ったらそれまでの話だが、駆除員として誘ってみる」
「わかった」
じゃあ、あとはよろしく、とばかりにアポートポーチからキノコの山を出して食べ始めた。
少女のところに向かい、銀貨一枚を織物の上に置くと、ギョッとした顔になってオレの顔を見た。
「指が痛いんで治してもらえるかい?」
右手を少女に差し出した。
「あ、あの、わたしの魔法では銀貨一枚分も治せません」
痩せこけてる割にははっきりとしゃべる子だ。言葉遣いも悪くないし、元はいいとろの出なのか?
「構わない。君のできる限りでいいから治してくれ。回復魔法がどんなものか知りたいんでな。銀貨はその礼も含んでいる。遠慮なく受け取って欲しい」
今日は徴税人に遭遇してない。通行税だと思えば安いものだ。
「わ、わかりました」
少女がオレの手を取り、手のひらを指に向けた。
ほわんっと指が温かくなり、指のマメが少し和らいだ感じだ。
魔法はゾラさんがやってるところを見てスゲーと思ったが、自分で受けるとちょっと感動する。これが魔法か……。
「すみません。これが限界です」
「いや、ありがとう。これが回復魔法か。素晴らしい力を持ってるんだな。聖女の癒しだ」
この世界が乙女ゲームならこの子は聖女かもしれんな。オレじゃ王子様の前まで連れてってやれないけど!
「せ、聖女だなんて、わたしはモリスの民だから……」
「モリスの民? すまない。見た通りここの生まれじゃないんでモリスの民がなんなのか知らないんだ。なんなんだ、モリスの民って?」
差別される民族なのか?
「……この国に滅ぼされた国の民です……」
「そう言えば、カインゼルさんが戦争にいったとか言ってたな。あれのことか」
この子の年齢を考えたらそう昔のことでもないんだな。
ぐぅ~。と、少女の腹の虫がなった。
「す、すみません。魔法を使うとお腹が減るんです……」
自らの魔力で奇跡を起こすタイプの魔法か。まあ、なんのリスクもなしに発動できる力はないか。
「ちょっと待ってろ。ラダリオン。その子にスポーツ飲料を飲ませてくれ」
ラダリオンのような鋼の胃を持っているわけじゃないだろうから、スポーツ飲料で胃を慣らしておこう。
その場をラダリオンに任せ、胃に優しそうな豆のスープを買ってきた。パンはコ◯トコのディナーロールでいいだろう。
「食べてくれ」
「あ、ありがとうございます」
ちゃんと礼を言えるし、差し出した豆のスープもディナーロールもがっつくことはない。やはり、あるていどの教育はされてるようだ。
「……美味しかったです……」
「それはよかった」
コンロで沸かしたお湯をカップに注ぎ、スティックタイプのココアを入れてやった。
「美味しいです」
「それはよかった。もっと飲みたいなら遠慮なく言ってくれ」
すぐ飲めるようにと、コーヒーや紅茶、ココアのスティックを持ち歩いてるのだ。
「親はいないのかい?」
「はい、いません。一人で生きてます」
この歳で一人で生きるとか、オレなら確実に死んでるな。三十過ぎてからゴブリン駆除員にさせられるのも納得──はできねーよ! いくつになってもゴブリン駆除員にはなりたくないわ!
「オレらはゴブリンを駆除して生きている。冒険者からしたら底辺な仕事に見えるようだが、命のやり取りをしていることに違いはない。怪我をすることだってある。そうなると稼ぐこともできず、食うこともできなくなる」
少女を見ながらゆっくり話す。ちゃんと理解できるように。
「もし、君さえよければ仲間になって欲しい。もちろん、嫌なら断ってくれて構わない。いつ死ぬかわからない身だからな」
この少女は賢いし、察する能力も高そうだ。人の憎悪やウソに敏感なんだと思う。こうして一人で生きているんだからな。
「わたし、歩けませんよ」
そう言うと、ボロ切れを取って足を見せると、両太ももから下がなくなっていた。
……どんなことが起こったかわからんが、脚をなくすようなことがあってよく生きてるな? 回復魔法のお陰か……?
「問題ない。別に君に戦うことは求めちゃいない。オレたちを支えてくれればいい。まあ、覚えてもらうことは結構あるが、それはゆっくり覚えてくれて構わない。すべてを押しつけるわけでもないしな」
触ってくれるだけでも助かる。ラダリオンに最初に買ったショットガン、すっかり忘れて消しちゃったし。
「突然、こんなこと言っても戸惑うだろうし、答えも出せないだろう。ゆっくり考えてもらって構わない。自分の未来のことなんだからな」
断られたらそれまで。縁がなかったと諦めるさ。仲間に引き入れたらこの子の人生も背負わなくちゃならないんだからな。
「話を聞いてくれた礼だ。次にきたときに答えを聞かせてくれ」
銀貨をもう一枚出して敷物の上に置いた。
「ラダリオン。帰るか」
待ち合わせの時間まであと二時間くらいあるが、のんびりと戻ってゆっくりしてたらいいさ。
荷物を片付けて立ち上がったら、少女がオレのズボンにしがみついてきた。
「な、仲間にしてください! なんでもします! ここから抜け出せるならなんでもします! だから連れてってください!」
ボロボロ泣く少女。今まで堪えていたものが決壊した感じだった。
リュックサックをラダリオンに渡し、少女を抱き上げた。
「よし。これから君はオレらの仲間だ」
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