第103話 ミリエル
──ピローン!
また電子音が脳内に響いた。この伝え方、ほんと止めてくんねーかな~!
「一ノ瀬孝人さんのチームにミリエルさんが加わりました。セフティーホームに入室が可能となりました。これからもゴブリン駆除をがんばってくださいね~!」
「な、なんですか、今の!?」
「詳しいことは帰ってから話すよ。ここではしゃべれないことなんでな」
ダメ女神うんぬんをここで話すのも面倒だ。帰ってからで充分だろう。セフティーホームを見たほうが理解もしやすいだろうからな。
「今さらだが、自己紹介しておこうか。オレはタカト。そっちはラダリオンだ。よろしくな」
「は、はい。わたしは、ミリエルです」
名前が出ていようがお互い、自己紹介をし合うのは大事なこと。これから一緒のセフティーホームで暮らすんだからな。
「……だ、大丈夫ですか……?」
「大丈夫だ」
痩せこけていようと人一人抱えているのだから大丈夫なわけがない。だが、ここで泣き言を言うのは男として、大人としてのプライドが許さないのだ。
笑いたければ笑うがいい。男とはそのちっぽけなプライドのために意地を張れる生き物なんだよ。
なるべく顔に出さずになんとかパイオニアのところまでやってこれた。オレ、よくやった。誰が褒めなくともオレが褒めてやるよ。
ミリエルを後部座席に座らせ、オレはカップホルダーに入れていたペットボトルをつかみ、水をいっき飲みした。フー。美味い。
「ラダリオン。悪いが、タオルと水をくれ」
リュックサックからタオルと水を出してもらい、タオルを濡らして絞り、ミリエルに顔や腕を拭いてもらってさっぱりさせた。
「ミリエル。これを飲め。回復薬だ」
自らの回復魔法でやろうにもこれまでの生活で体が弱ってるはず。まずは体を回復させ、体力をつけてからだろう。
回復薬一粒を飲ませると、心なしか血色がよくなった。弱ってるほど効き目があるんだろうか?
「タカト。待たせたな」
四時くらいになってカインゼルさんが戻ってきた。
「いえ。そんなに待ってませんからお気になさらず」
「その子は?」
「ミリエルです。回復魔法が使えたので駆除員に勧誘しました。モリスの民と言ってましたが、忌み嫌われた民なんですか?」
「……いや、それほど忌み嫌われてるわけではないが、敗戦国の民だからな。あまりよくは思われないさ」
戦争を知らないオレには想像することもできないが、言葉に表せないものが渦巻いているってことくらいは理解できる。しばらくはセフティーホームとうちだけに止めておくとしょう。
「じゃあ、帰りますか。なんか雲ってきましたし」
本当に雨が降った分だけ晴れなんだな。不思議なものだ。
約束どおり、帰りはカインゼルさんの運転で帰ることにした。
「明日雨が降ったら剣の訓練をお願いしますね」
運転中だけど、意外と上手な運転をするので明日のことを話した。
「ああ。また午前中だけか?」
「はい。ミリエルに説明とか教えることとかありますから」
本格的にやってもらうのはもう少し先だ。それまではセフティーホームでの暮らしに慣れてもらったり体力をつけてもらったりして、その間、オレはカインゼルさんに鍛えてもらおう。
「片付けはまだ続きそうですね」
「あの数だしな。もうしばらくはかかるだろうよ」
「温まるよう焼酎でも用意しておくか」
ウイスキーより焼酎のほうが安いし、体が温まるだろう。オレは焼酎そんなに飲まんからよー知らんけど。
今回は寄らずにまっすぐ帰ることにした。
ラザニア村には入らず裏に回ると、まだマルグがクロスバイクに乗っていた。飽きないヤツだよ。
「師匠、お帰りなさい」
「ああ、ただいま。ちょっとの間に上手くなったな。あまり無理するなよ」
「うん。わかった!」
わかってない返事だが、自分の限界を知っていくのも勉強である。失敗と挫折を繰り返して立派な大人になるがよい。
小屋にパイオニアを収め、荷物を降ろした。
「カインゼルさん。今日はゆっくりして明日の朝から訓練をお願いしますね」
「ああ、わかった」
小屋でカインゼルさんと別れ、ミリエルを抱えてうちへと戻った。
「お、大きい家ですね?」
「ラザニア村が巨人の村ってのは知ってるか?」
「巨人は見たことはありませんが、そんな話は聞いたことがあります」
そういや、ミスリムの町って巨人が歩けるような道じゃなかったな。一番近い町なのに?
「ラダリオンも巨人でな、魔法で小さくなってるんだ」
うちの前で元に戻ったラダリオンにびっくりなミリエル。漏らすんじゃないぞ。
「人間はそこから入るが、今日はこっちから入るとしよう」
明日、訓練はここでやるし、ミリエルの訓練もここでやりたいからな。
「ミリエル。セフティーホームのことは頭に入ってるか?」
「は、はい。ゴブリン駆除員の避難所的なところだと……」
相変わらず雑な説明だよな。情報は正しく伝えやがれってんだ。
ミリエルを下ろし、セフティーホームへといくように伝えると、スッと消えた。オレもセフティーホームに帰った。
ダストシュートの上でポカーンとするミリエルを抱えて中央ルームに移る。
「ラダリオン。ミリエルを洗ってやってくれるか? 随分と汚れているようだからさ」
さすがにオレが、とはいかんでしょう。今後、ミリエルからセクハラオヤジと認識されて暮らすなどしたくないよ。三十代は繊細なんだぞ。
「ん。わかった」
ミリエルを抱えてユニットバスへと向かうラダリオン。しっかり洗ってくれよ。申し訳ないが、ミリエル、とっても臭かったからさ。
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