第104話 バリアフリー

 さて。二人が風呂から上がってくる前にミリエルの下着と服を用意せねばならんと、タブレットをつかんだ。


 サイズはわからんが、痩せこけていたからラダリオンより小さいのでいいだろう。慣れてきたら好みのを買ってやればいいんだしな。


 ラダリオンのを買ってたからもう恥ずかしさもない。上下組みの下着とインナー、着やすいワンピースを二着買った。セフティーホームは気温が一定なので寒くも暑くもないだろうよ。


「ラダリオン! ドアの前にミリエルの下着と服があるから頼むな!」


「わかった」


 多少なりとも恥じらいは身についてきたのか、いきなり出てくることはしなかった。タカト臭い、とか言われる日が近づいてきているようでちょっと悲しくなるよ。


「一千万円はいってないか」


 あれだけ倒して大台にいかないとか悲しくなる。五千円なんて気前がいいと思ってたが、あれこれ買ってると一匹一万円でないとすぐに赤字になりそうだぜ。


「ジョイントマット、三十枚あれば足りるかな?」


 ミリエルは太ももの中頃から下はなく、這うか太ももを立てて移動しなくちゃならない。


 セフティーホームの床は硬いのでジョイントマットを敷かないと辛かろう。いや、逆に移動し難いか? まあ、ジョイントマットなんて安いし、邪魔なら捨ててたらいいさ。


 義足で調べていくと太ももからつけるものもあったが、あれってオーダーメイドって聞いたことがある。買っても使いこなせないだろうから車椅子でいいだろう。


「でも、その前にミリエル用のトイレと風呂を増設しなくちゃならないな」


 足がない生活なんて想像もできないが、バリアフリーって言葉くらい知っている。足がなければ便座に座ることなど拷問でしかない。便座はほんのちょっと高くしてオシュレット搭載。風呂は深さ二十センチくらいにして手すりをつけたら出入りも苦じゃなかろう。


 そうするとトイレと風呂は滑りやすくしたほうがいいか。あ、でも、滑りやすくしても危険か。となればタイル調にすれば問題なかろう。


 大体の予想をつけたら二百万円使ってユニットバスの右側(左側はラダリオンのトイレね)に部屋を増設した。


 手前は脱衣場にして右を風呂。左をトイレとした。


「……セフティーホームの上下水道ってどうなってんだろうな……?」


 なんて考えるだけ無駄か。ダメ女神製だしな。


 カビないよう空調システムと洗面台、棚を追加して、タオル、シャンプー、リンス、ボディソープ、ブラシとか女の子が使いそうなものを取り揃えた。


「タカト、どこ?」


 おっと。もう上がってきたか。うん。細かい調整はミリエルに聞いてやるか。


 ミリエル用のユニットバスから出ると、綺麗になったミリエルが座椅子(うちの座卓です)に座っていた。うん。今ならいい匂いがするだろう。いや、やらないけど。


「さっぱりしたところで悪いが、ミリエル用のユニットバスの使い方を教える。移動できるか?」


「は、はい。ちょっとの移動なら」


「あ、ちょっと待て」


 タブレットをつかみ、太ももにつけるカバー(テーブルの脚に履かせるヤツみたいなの)を買って、太ももに合う長さに切って履かせた。


「痛かったらもう一枚履くといい」


 あ、杖があればいいのか。


 介護用品を探し、伸縮できる四点杖を二つ買った。


 短くしてもちょっと長いが、まあ、ほんの少しの移動だ、そう苦にはならんだろう。町にいったときにちょうどいいのを職人に作ってもらおう。


 ミリエルに四点杖を使ってもらい、バリアフリーのユニットバスへと向かう。


「ここはミリエル用だから掃除はミリエルがやってくれ」


「こ、こんなによくしてもらっていいんでしょうか?」


 まあ、路上生活をしていたら破格の対応だろうが、ラダリオンの食費を考えたらこちらのほうが安いはずだ。毎日の食費、最低でも三万くらいだし。


「その分、個室は与えてやれない。セフティーホームで部屋を増設するのかなり高額になるんだよ」


 二百万円使って中央ルームを六畳くらい広くし、玄関も二百万円使って広くしなくちゃならない。とても個室など与えてやれん。一人になりたいときはミリエル用のユニットバスでやってください。


「風呂も自由に使っていいからな。消耗品がなくなったら気にせず言ってくれて構わないから」


 トイレと風呂の使い方を教えたら夕飯にする。


「タカト。今日は超特盛味噌ラーメンチャーシューとネギ大盛りが食べたい! 餃子とチャーシュー丼も! 食後はジャンボシュークリーム四つね!」


「お前は食事のときだけ饒舌になるよな」


 まったく、食いしん坊系無口キャラめ。


「ミリエルは、なにか食べたいものはあるか? と言ってもいきなり濃い味は胃に悪いか。今日は中華粥にしておくな」


 某有名中華店の中華粥セットを買った。


「食べられないものがあるなら無理して食わなくていいからな。好き嫌いは誰にでもあるんだから」


 オレ、椎茸が嫌い。ちょっとでも入ってたら食べないくらいにな。


 オレは昼間結構食ったから少しでいいや。お、揚げパンがある。確かミルクティーにつけて食うやり方があったな。これにしてみるか。


「う~ん。これはオヤツだな」


 美味いのは美味いが、夕飯に食うもんではないな。


「タカト。あたしもそれ食べたい!」


「今、味噌ラーメン食ってるだろう」


 そして、食後にジャンボシュークリームを四つ食うんだろうが。節操がないぞ。


「じゃあ、食後に食べる」


「はいはい。なんでも食うといいさ」


 ラダリオンは食うことがすべて。食うことが生きること。腹を壊さないていどに食いなさい。


 と、ミリエルが泣いていることに気がついた。


 まあ、これまで溜め込んだ思いを吐き出したらいいさ。もう一人じゃない。咎める者もいない。泣いて泣いてすべてを吐き出せ。明日から新しい人生が始まるんだからな。


                 第2章 終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る