第3章
第105話 また雨
「……凄い雨だこと……」
早く起きてしまったので、外の様子を見にきたら数日前と同じく土砂降りの雨だった。
カインゼルさんもだけど、ミリエルもよくこの雨を堪えられたよな。オレなら心挫けてこの世から早期退職してるところだわ。
「オレも見習わないとな」
もっとハングリー精神を鍛えなきゃ五年どころか来年まで生きれるのかも怪しい。オレは無事定年退職してやるぜ。
セフティーホームに戻り、玄関──いや、もうそんな広さじゃなくなってるか。二百万円使ってさらに拡大させたからな~。
「玄関であり倉庫であり車庫でもある。なんて呼べばいいんだ?」
まあ、別に拘りがあるわけじゃないし、玄関でいっか。
中央ルームにいくと、二人はまだおネム中。四時起きは早過ぎたな。
二人が起きるまでタブレットで車椅子や電動カート(シニアカー)を探した。
「……いろんなものがあるんだな……」
車椅子なんて病院で見るようなものしか思い浮かばなかったが、タブレットで探すと何百種類とあり、電動カートがカッコよすぎた。見てたら自分用にも欲しくなってきたよ。
とは言え、電動車椅子も電動カートも高額だ。4WDの電動車椅子が百八十万円とか普通車が買える値段だ。ダメ女神。補助金を要求するぞ。
だが、ピローン! は鳴らない。クソ。もっと弱者に優しい世界にしやがれってんだ。
「まあ、移動するのは玄関と外のうち周り。そう高いのじゃなくていっか」
さすがにセフティーホームに閉じ込めておくのも不健康だ。ゴルグにウッドデッキでも作ってもらうか。
「これにするか」
WHILL(ウィル)C2ってオシャレな電動車椅子で、台を用意すればそう苦はなく座れるだろう。バッテリーも取り外し簡単だ。四十二万円くらいだし、MINIMIを一丁買うようなものだ。
電動車椅子と付属品を買い、バッテリーを充電。説明書を読んだ。ふんふん、なるほどなるほど。そう言うことね。
「……タカト、おはよ……」
ラダリオンが起き出し、そのままトイレへと向かった。ハイ、おはようさん。
「タ、タカトさん。おはようございます」
ミリエルも起き、なぜか恥ずかしそうにしている。昨日、夕飯食ったら眠ってしまったことを理解したのだろう。
「ああ、おはよう。顔を洗ってきな。使い方忘れたら遠慮なく言えよ」
「は、はい。大丈夫です」
器用に四点杖を使ってユニットバスへと向かった。ミリエル、賢い上に器用だよな。回復魔法も使えるし。なんでこうオレの周りって主人公クラスばかりなんだろう? オレはモブとして慎ましやかな一生を終えたいよ。
「ハァ~。朝飯の用意をするか」
まっ、慎ましやかな
ミリエルにはコ○ダ珈琲店のモーニングセットを買い、ラダリオンには超大盛りのオムライスナポリタン添えを買う。オレはサバ味噌定食ね。
朝食を食べたら食休みしながらミーティングを行う。
「ミリエルはしばらく体作りだ。回復薬も食後に一粒飲むこと」
自ら回復魔法を使えるとは言え、衰弱したまま行っても効果が出るとは思わない。健全な肉体に健全な魔法が宿るだ。いや、テキトーだけど。
「なにかやれるならやりたいです。動いたほうが体も作られると思うので」
「それもそうだな。なら、簡単な弾込めをお願いするか。サブマシンガン系はすっからかんだしな」
アサルトライフル系は三十本くらい入ってるはず。9㎜弾が慣れたらやってもらおう。
「ラダリオンはやり方を教えてやってくれ。終わったら洗濯を頼む」
「わかった」
ちなみにオレは掃除担当。まあ、クイックルで床を拭くだけなんだけどね。
「そう急ぐことはない。ゆっくりやっていけよ」
掃除が終わったら訓練用の装備に着替えて外に出ると、カインゼルさんがきていた。雨の中、ご苦労様です。
「おはようございます。朝飯は食べましたか?」
「ああ。昨日作ったシチューを食ったよ」
「料理するんですね?」
「昔はしなかったんだがな、酒のツマミを工夫してたらいつの間にか料理のおもしろさに嵌まっていたよ」
なんとも充実したセカンドライフを送ってる。あ、いや、ゴブリン請負員が充実してるかは知らんけど。
「今日はどうする?」
「剣をお願いします」
十分かけて準備運動をして体を温め、剣の訓練を開始した。
毎日やっているわけでもないから最初は体がついていかなかったが、二セットもやれば体も慣れてきた。
「これまでにしよう」
十セットやって限界がきて地面に倒れ込み、立ち上がることができない。オレはちゃんと強くなってるんだろうか?
二十分くらいしてなんとか起き上がられ、回復薬を一粒飲んだ。
「また明日、お願いします」
「ああ。そうだ。午後からちょっと出かけてくるよ。パイオニア、使っていいか?」
「え、ええ。構いませんが、濡れますよ」
屋根はつけたがフロントガラスはない。メッチャ濡れますよ。
「雨具を買ったから問題ないさ。リハルの町までいくだけだからな」
リハルの町は確か北にある町だったか? ミスリムの町と同じくらいの距離とか言ってたはず。
「そうですか。金はありますか?」
なにをするかわからんが、金はあったほうがいいだろう。確かまだ銀貨が何枚かあったはずだ。
「あるから大丈夫だよ」
そう言うと、雨の中を出ていってしまった。なんだ?
まあ、プライベートを詮索するつもりはない。ごゆっくり~、だ。
まだ痛む体を引きずり、安全な場所からセフティーホームに戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます