第106話 肉を食え
「タカトさん、どうしたんですか!?」
玄関で弾込めしていたミリエルがボロボロになったオレに気づき、体を引きずって近寄ってきた。やはり滑りやすいほうが移動しやすいみたいだな。
「カインゼルさんに鍛えてもらっただけだよ。オレは弱いからな」
オレがヒーヒー言ってるのにカインゼルさんは息も切らさない。最後まで平常だった。
あそこまではなれなくともゴブリン十匹を余裕で倒せる体力と技術を身につけたいものだ。もちろん、十一匹以上は全力ダッシュで逃げるけどな!
「シャワーを浴びてくる。出たら昼飯にしよう」
三時間くらいの訓練だが、全力で動いて汗びっしょり。女子たちに臭いと罵られる前にユニットバスに向かった。
痛む体をしっかり洗って出ると、ミリエルが構えていた。な、なに?
「そこに座ってください」
なにか凄い圧に負けてミリエルの前に正座する。君、怖いよ……。
オレの両手を握ると、ホワ~ンと体が熱くなって痛みが消えていった。前より威力が上がってるな……。
「回復魔法を使って大丈夫なのか?」
疲れた様子はないが回復効果が上がったってことは、魔力を前より消費したってこと。魔力かどうかはわからんけど。まだ体が回復してないだろうに。
「……大丈夫です。たくさん食べられて、ゆっくり眠れましたから」
にっこり笑うミリエル。まあ、あんな生活してたら出る力も出るわけもないわな。人生から退職しなかっただけミリエルは強いヤツだよ。
「ありがとな。痛みが消えたよ。また頼むな」
回復薬の節約にもなるし、ミリエルの力が増せば怪我で死ぬ確率も減る。たくさん食べてすくすく育ってくださいませ。
「はい! 任せてください!」
頼りにされて嬉しいんだろうな。利用してるだけなのに心が痛む笑顔である。
昼飯を買い、三人で食卓を囲んでいただいた。
食べ終われば食休み。いや、ちょっと昼寝しよう。ミリエルに回復してもらっても体力が元に戻ったわけじゃない。それどころか体のエネルギーを使ったようで昼飯もお代わりしたくらい。ミリエルの回復魔法はもしかして治癒魔法なのかもしれんな……。
なんて考えてたら眠ってしまい、起きたら午後の四時になっていた。がっつり眠っちゃったよ。
中央ルームには二人の姿はなく、玄関にいったらそこにもいなかった。外に出たのか?
窓から外を覗くと、奥様たちがお茶をしていた。あの雨の中よくきたものだ。
女子会(?)に入る勇気はないので外に出ることはしない。ゆっくり楽しんでください。
「あ、電動車椅子のバッテリーが充電されたか」
充電器からバッテリーを外して車椅子にセット。電源を入れて車椅子を操作してみる。
「凄いな、これ」
ウィルの性能に驚いてしまった。今の電動車椅子ってこうなの!? 足があるオレでもこれで移動したくなるわ。
玄関を前に横に動き回り、ウィルの使い方は理解した。
「ミリエル、利き手どっちだったっけ?」
ウィルのコントローラーは右についている。けど、この電動車椅子はどちらにも付け換えられて、椅子や肘掛けの高さも変えられた。
なので工具を買い、椅子を一番下まで下げた。これなら台が二つあれば自力で座れるだろう。
五時になったら二人が戻ってきた。あの女子会に堪えられるとは同じ女だけはあるな。羨ましいとかは思わないけどな。
「いいところに帰ってきた。ミリエル。お前の足になる電動車椅子だ。扱い方を教えるから座ってみてくれ」
「椅子、ですか?」
「ああ。ミスリムの町から帰ってくるときに乗ったものを室内で使えるようにしたものだ。これなら玄関での移動や外に出てうちの周りくらいなら移動できるだろう」
巨人が踏み締めているからか地面は硬く、草も大して伸びていない。ウィルの性能なら大丈夫なはずだ。
二段の踏み台をウィルの横に置き、自力で座ってもらった。
長いことその体で生きてきたようで、座るのにそう苦ではなさそうだ。ステップのところに一段置けば踏み台がなくてもいけそうだ。
「ミリエルの利き手、どっちだ?」
「右です」
じゃあ、コントローラーを動かさなくてもいいな。
電源ボタンから教え、スティックでの移動。棚の間を走ってもらった。
最初は戸惑いでぶつけてばかりだが、一時間もやると慣れてきたようで棚にぶつからなくなった。
「しばらく練習してろ。ラダリオン、しばらくついててやってくれ。オレは夕飯の用意するからよ」
「わかった」
踏み台に座り、お菓子を出してミリエルを見守った。うん。そう言うことじゃないんだな~ラダリオンさん。危険なときは止めるなり助けるなりしてってことなんだよ。
ラダリオン、ちゃんと教育しないとダメかな~? と思いながら中央ルームに戻り、夕飯の用意をした。
今日の夕飯はサイ○リアにして、ミリエルの好物や苦手なものを探すことにした。てか、サ○ゼリアは安いよな。一万円で飛んでもない量になったよ。まあ、ラダリオンにかかれば一人前だろうがな。
「おーい。準備できたぞ~」
二人を呼ぶと、ラダリオンがミリエルを小脇に抱えてやってきた。お前、ミリエルの扱い雑だな。
座椅子に座らせ、ウェットティッシュで手を拭き、ハンバーグから食べ始めた。
「ミリエル。ラダリオンに遠慮しないで好きなもの食べていいぞ。足りなければ足りるまで買うからな」
「す、凄く、食費がかかるのでは?」
「そうだな。だが、考えなしにラダリオンを仲間に誘ったオレの責任だからな、いくらかかろうがラダリオンにひもじい思いはさせないさ」
それが責任を果たすってこと。自分の犯した罪の重さだ。甘んじて受け入れて、ゴブリン駆除に勤しめ、だ。
「まあ、食った分は働いてもらうさ。仲間なんだからな」
「うん。いっぱい食べれるよういっぱいゴブリンを駆除する」
その辺はラダリオンも理解している。この生活ができてるのはゴブリン駆除をしてるからだってな。
「ミリエルにも働いてもらうんだからしっかり食べろ。その回復魔法を頼りにしてるんだからな」
ミリエルの前にリブステーキを移動させる。若いのだから肉を食え。肉は明日を生きるエネルギーだ。
「明日を生きるためにいっぱい食べるぞ」
オレもリブステーキを追加して腹一杯食べた。
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