第77話 剣で充分
簡易砦は大体できているので、残りはロンダリオさんたちに任せ、オレは少年たちと夕飯作りに取りかかった。
と言ってもカレーには決まっているので、少年たちにはジャガイモ、ニンジン、タマネギの皮を剥いてもらい、寸胴鍋二つへと入れてもらう。
他にもしめじとトマトを入れ、水を入れて煮込んだ。
「上手いもんだな」
少年の一人がラインサーさんがいつの間にか狩ってきた鳥を見事に捌いている。
「いつもやってますから」
この少年たちはロンダリオさんの専属みたいな感じで、遠出するときはいつも雇われたりするそうだ。
他の有力な冒険者も荷物持ち兼料理人を雇っており、次世代の冒険者の育成を行っているそうだ。
「しっかりしてるんだな、ここは。他のところなんて新米冒険者など使い捨てにされるのに」
オレの知る物語の中では、だけど。
「ここは辺境だから冒険者がいなくなると魔物が増えるんです。だから冒険者を途切れさせるわけにはいかないんですよ」
「魔物を退治するのは兵士の仕事じゃないのか?」
兵士、なにやってんのよ?
「ここの兵士は街を守るためにいますから、周辺の町は守りません。冒険者にやらせてるんです」
ふ~ん。あくまでも兵士は街を守るためにいて、魔物は冒険者にやらせるってことか。辺境ではそうしないといけないんだろうな。
土地は豊かでもそれを他領へ売る力はそれほどない。外貨(?)が稼げないのだから辺境伯領から上がる税でなんとかしなくちゃならない。そうたくさん兵士を抱えられないんだろうよ。
「あ、鳥肉は焼いてから入れるからこちらにくれ」
火にかけていたフライパンにバターを入れ、鳥肉を焼いて寸胴鍋へと入れていく。
煮たってきたら火を小さくし、灰汁を取ってカレールーを入れる。隠し味的なものは入れない。市販のルーはなにも入れなくたって美味いからだ。
「……いい匂い……」
「シチューもいい匂いだったけど、おれはこっちのほうが好きだ」
「早く食いてー」
少年たちの腹の虫を鳴らす日本のカレーの偉大さよ。異世界より作り出した方々に感謝の念を送ります。
「いっぱいあるから遠慮なく食っていいからな」
セフティーホームからラダリオンに炊飯器を持ってきてもらっている。もちろん、巨人サイズで持ち出してもらったから食い切ることはないはずだ。
……まあ、米が豆くらいまでデカくなってるけどな……。
「こんなもんだろう。誰か一人、ロンダリオさんたちを呼んできてくれ。二人は灯りの用意をするから手伝ってくれ」
あと少しで太陽が山に沈んでしまう。ランタンを設置しておこう。
五つのランタンのスイッチを入れて地面に突き刺した枝にかけてもらった。
作業していたロンダリオさんたちが戻ってきたので、ラダリオンに皿を持って元に戻ってもらい炊飯器からご飯を盛ってもらった。
「ラダリオン! オレたちが食ってる間に警戒に出てくれ」
「わかった」
一旦小さくなってから簡易砦を出ていった。
「いいのか? 巨人とは言え一人でいかせて?」
「ラダリオンはオレより強いし、鼻がいいので大丈夫ですよ」
ついていかれたらセフティーホームに戻れないからな。納得してください。
「それより食べましょうか。カレーは温かいうちに食べないと美味しくないですからね」
オレは冷たいカレーはカレーと認めない。あ、炊飯器はポータブルバッテリーで保温してました。
「各自、その白いのを皿に盛ってカレーをかけて食べてください。好みでチーズと福神漬けを添えてください」
と言ってもわからないだろうからやってみせた。
米はアレだけど、カレーの美味さは変わらない。ロンダリオさんたちもシチュー同様、一口食ったら凄い勢いで食べ始めた。
皿に盛ったご飯はなくなり、カレーも寸胴鍋一つ分がなくなった。ど、どんだけ食えるんだよ。
「もう一つは明日にしますか。カレーは一晩寝かせるとさらに美味くなりますからね」
残ったご飯は空になった寸胴鍋に入れ、水と新たなカレールー、サバの水煮六缶、顆粒出汁を入れ煮込んだ。明日には美味しいカレー雑炊ができているだろう。お好みでとろけるチーズか卵をかけるとさらに美味しいんだぜ。オーブンがあればカレードリアにもなりますぜ。
「今のうちに交代で休みますか。まずオレらが起きてますから五人は休んでください。ゴブリンが現れたら起こしますんで」
戦いのメインはロンダリオさんたちになるのだから先に休んでいたほうがいいだろう。
「ゴブリンの気配は感じるのか?」
「まだ遠くにありますが、なにか、ちょこまかと動いている感じはします。おそらく夜襲の準備でもしてるのでしょう」
まあ、なんの準備をしているかはわからんけどよ。
「わかった。ライ。タカトに付き合ってくれ。ミギ、ラズ、ボブも休め。戦闘になったら起こすからしっかり眠っておけ」
そう指示を出すと、堅い地面に横になって眠ってしまった。よく眠れるな。オレはマットを敷いても眠れる自信はないぞ。
ラインサーさんと焚き火を囲み、眠気覚ましにとコーヒーを淹れた。
「おれはこのコーヒーが好きだな。苦味の奥にある豆の香りがなんとも安らぎを与えてくれるよ」
違いがわかる男、ラインサー。コーヒーのCMに出たら人気が出そうだ。
……このチーム、無駄にイケメンばかりだよな……。
「そうだ。これで矢は買えるか? 手持ちの矢では足りなそうなんでな」
「矢ですか? たぶん、あると思いますよ。弓矢か矢で思い浮かべてみてください」
「……お、出た。いろんな種類があるんだな。いくらだ?」
「矢は買ったことがないんで、安いのを探してみてください」
まだ数字がわかってないので地面に値段を書いてもらい、安いのは一本三百円で高いのは六千円とかあった。矢だけでこんなにするの?
「ここでは矢はいくらなんです?」
「安いのは小銅貨一枚で買えるが、やはり銅貨四枚くらいのものじゃないと怖くて使えない」
「使い捨てはできませんか」
「やってたらすぐ破産だな」
弓矢も金食い虫か。その苦労はよくわかるよ。
「でも、ものは考えようです。ラインサーさんの腕ならゴブリンくらい弓を使わなくても倒せるんでしょう?」
「まあ、そうだな」
「だったら剣で充分でしょう。一匹狩れば安い矢が十一本は買えるんですからね」
弓士が矢で殺さなくちゃならない決まりがあるわけじゃない。剣で殺せるなら剣で殺せばいい。ラインサーさん、小剣を装備してるってことは使えるんだろうからな。
「そうだな。ゴブリンくらい剣で充分だな」
小剣を抜き、砥石を出して研ぎ始めた。
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