第76話 上位種

 ロンダリオさんたちが集まって今後のことと金の配分の方法を話し合ってる間、オレは周囲の警戒をすると言って簡易砦を出た。


「ラダリオン! そのくらいでいいぞ! 周囲の警戒するから!」


 掘りを作っているラダリオンに叫んだ。


「わかった」


 スコップを盛土に刺して小さくなった。


「オレはあっちからいくからラダリオンはあっちから頼む。中間で落ち合う」


 アポートポーチからベネリM4を取り寄せ、山へと入った。


 ゴブリンの気配はないので、十五分くらいでラダリオンがやってきてくれた。ロンダリオさんたちの気配はわかってもラダリオンの気配はわからない。なのでラダリオンのほうからやってきてもらったのです。


「今のうちにシャワーと食事をしてこい」


 昼はあまり食べれなかっただろうし、今夜は外で寝ることになる。今からシャワーを浴びれば明日の夜までは大丈夫だろう。


「わかった」


 ラダリオンがセフティーホームに戻ったらオレは木に登り、缶コーヒーを取り寄せて一服する。


「ん? ゴブリンの気配が騒がしくなったな」


 察知範囲の外だが、ざわめいている気配を感じ取れた。


「……この強い気配、なんだ……?」


 王、ではないな。通常の三倍くらいだし。王と呼ぶには遥かに弱い。群れのボス、って感じかな?


「群れるゴブリンもいるのか。また厄介な」


 小集団だからオレでもなんとかやれてるのに十匹以上とかになったら逃げるしかない。なにか対策を考えないと逆に駆除されそうだ。


「まだこちらにくる感じはないが、そのまま大人しくはしててくれないだろうな~」


 ロンダリオさんたちに狩られていることはさすがのゴブリンでも理解してるはず。そのまま逃げてくれるならいいが、群れのボスとしてナメられたらアカン! とか思って夜襲とかされたら徹夜になりそう。


「まあ、ロンダリオさんたちがいるから問題はなさそうだが、このことは話しておいたほうがいいな」


 察知範囲外のゴブリンの気配に集中し、一時間くらいしたらラダリオンが戻ってきた。


「なにかあった?」


 オレが木の上にいるのに気がつき、元に戻って尋ねてきた。


「ゴブリンの群れがいる。もしかすると夜に襲ってくるかもしれない。MINIMIとP90を持ってきてくれ。弾倉箱も二つな。ラダリオンはベネリM4で援護を頼む。暗視メガネもな。あ、弾も買ってある分持ってこい。アポートポーチはオレが使うから」


「ケーキ、持ってきてもいい?」


「ああ。好きなだけ持ってきていいぞ」


 ラダリオンに下ろしてもらい、用意を始めた。


 何度かセフティーホームを行き来し、ラダリオンが荷物を持って簡易砦へと運んでもらう間にオレは缶詰めを取り寄せ、封を切って辺りにばら蒔いた。


 自分でも不思議なのだが、ゴブリンのことにはやたらと勘が働く。そんなに勘は鋭くもなかったのにだ。たぶん、ダメ女神がなにかしたんだろう。


 まあ、真実はわからない。が、それならそれで利用するまで。今回はエクスペンダブルズな冒険者たちがいる。それなら数百匹が押し寄せようと前回、前々回のように苦労はしないはずだ。


 広範囲に缶詰めをばら蒔いて簡易砦に戻る頃には夕方になっていた。


「なにかあったのか?」


 オレがロンダリオさんの気配がわかるようにロンダリオさんたちもオレの気配をわかるようになった。その気配の動きからなにか異常と察したのだろう。ラダリオンは人見知りが激しいから訊かれても答えないだろうしな。


「まだ遠くてはっきりしませんが、ゴブリンが群れる気配を感じました。感じからして集団を仕切る大きな存在がいます。もしかするとここにやってくるかもしれません」


「それは恐らく、ホグルス、ゴブリンの上位種だな」


「ホグルス? 上位種?」


 ヤダ、そんなのいたの!? 聞いてないんですけど!! ちゃんと説明しとけや、ダメ女神ィィィッ!


「知らなかったのか?」


「ゴブリンはゴブリン。王だろうが子供だろうが等しく駆除する対象です。見た目や大小の差で区別したことありませんてしたから」


「ゴブリンを専門に狩るヤツの言葉だな」


 なんの矜持も詰まってない強制された恨みの言葉ですけどね。


「それで、ホグルスの特徴は?」


「大体は赤い肌をしているが、さらに上位種になると赤黒くなり、背丈も人の倍にはなるらしいな」


「王は人の三倍はあったから大体二メートルってところか」


 まさにゴリラを相手にするかのようだな。アサルトライフルじゃ効かないかもしれんな。


「そう言えば、ゴブリンの王を倒した者がいたとウワサに聞いたが、タカトが倒したのか?」


「止めを刺したのはラダリオンですね。オレは行動不能にするのがやっとでしたよ」


 今考えればガスボンベをラダリオンに持って出てもらえればもっと効果が出せたのに。そこまで考えが至らなかったあのときの自分を罵りたいよ。


「追い込むだけでも異常だよ。王が立ったらもはや災害だ。並みの町なら一夜で滅ぶぞ」


「ラダリオンがいてくれたからできたことですよ。それより、迎え撃つ方向で対策しましょう。今回は上位種が率いる集団。ロンダリオさんたちとオレたちがいれば問題ないでしょうしね」


 前衛が二人いて、撹乱できる遊撃がいて、後衛には弓と魔法が使えるヤツがいる。そこにオレと巨人のラダリオンが加われば二百匹でも苦戦はしないはずだ。


 あ、少年たちもいたっけ。まあ、明かり担当になってもらえばいいか。


「ロンダリオさんが指揮してください。オレは大人数を率いたことないんでロンダリオさんの指揮に従います」


「タカトのほうが適任だと思うが、わかった。ゴブリンはもっと狩りたいからな」


 もちろん、オレたちは援護に回りますとも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る