第75話 なんてラノベ?

 三人に一通り説明が終わる頃、二人が息を切らして戻ってきた。


 二人からカードを見せてもらったらミゼングさんは十二万六千円。ゾラさんは十一万二千円だった。このチーム、なんなの? なんてエクスペンダブルズ?


「なんだか今日中にこの一帯のゴブリンを根絶やしにしそうですね……」


 五人合わせて二百匹は駆除してる。まだ三時にもなってないんだぞ。


 やるせない気持ちを抑えて二人にカードの使い方を教えた。


「いい! 本当にいい!」


「確かに!」


 アタッカーなミゼングさんはともかく、魔法使いのゾラさんまでとは、どれだけ酷い靴を履いてたんだか。いやまあ、野郎が履いた靴など調べたくもないがな。


「タカト。なにか美味しいお茶はないだろうか? わたしは酒よりお茶が好きなんでな」 


「ん~お茶ですか? コーヒーはどうでした?」


「わたしはちょっと好みではないな。砂糖と牛乳を入れたら飲みやすくはなったが」


 ギルドマスターと同じく甘党か?


 ペットボトルの午後ティーを各種買わせてみて試飲してもらうと、レモンティーがお好みのようだった。


「これはいい!」


 他社のレモンティーも試したが、午後ティーが一番好みのようだ。異世界人を虜にする午後さん恐るべし。


「タカト。槍もあるか?」


「あるとは思いますが、今持ってるものではダメなんですか?」


「いや、ダメではないんだが、どんなものがあるんだろうと思ってな」


「それなら槍を思い浮かべれば出ますよ」


 調べたことはないが、剣があるんだから槍もあるはずだ。だが、気に入ったものはなかったようで、深いため息を吐いた。


「なら、こう言うのはどうです? 予備として持つと便利ですよ」


 自分のリュックサックに下げてた多機能な組み立て式スコップを出して組み立てた。


「掘り板か?」


 ここではスコップを掘り板と呼ぶようだ。


「まあ、穴を掘るものではあるんですが、武器にもなるんですよ」


 柄が一メートルくらいあるので槍にも斧にもなったりする。ミゼングさんくらいの腕があれば立派な武器となるだろうよ。


 ブンブンと振り回してたらミゼングさんにあっさりと奪い取られ、見事に振り回し出した。


「もう少し長さが欲しいが、狭い場所とかなら使えるな。これ高いのか?」


「ゴブリン二匹も狩れば買えるくらいの値段です」


「それなら一本持っておくのもいいかもな。穴掘りにも使えるし」


 と言うことでお買い上げ。気に入ったようで使い方を研究し始めた。


「なあ、タカト。わたしにもタカトが使っている武器は買えるか?」


 と、終わったと思ったらゾラさんが声をかけてきた。


「オレの使ってる武器? これですか?」


 今日はロンダリオさんたちがいるのでグロックとマチェットしか装備してない。戦うこともないだろうと思ってな。だからマチェットかと思ったらグロックのほうだった。


「魔法使いですよね、ゾラさんって?」


 銃と魔法使い。なんてラノベだ?


「まあ、魔法を主体とした戦いはしているが、魔力には限界がある。今も張り切りすぎて魔力切れだ。この杖で戦うしかない。だが、他の四人と比べたらわたしは非力だ。剣の腕など人並み以下だろう」


 人並み以下でもきっとオレよりは上なんだろうな。


 ゾラさんにいろいろと説明するより使ってみたほうが理解するだろうと、グロック17の構造を簡単に教え、マガジンの弾を一発にして撃たせてみた。


「うむ。魔矢よりは強いか……」


 魔法の矢ってことか? 9㎜弾より弱いなら普通の矢くらいか?


「もう一回頼む」


 グロックを返してもらいマガジンを抜いて弾を一発入れてグロックにマガジンを差してスライドさせて装填する。その一連の動きを食い入るように見るゾラさん。


「うむ。大体理解した」


 二発撃ってグロックを理解するゾラさん。ベレッタ92を数発で詰まらせ放り投げたオレはきっと低能なんだろう。こんな天才の前で自己嫌悪になるのもおこがましいのだろうな……。


 弾の入れ方を教え、全弾を撃たせた。


「弾は五発で銅貨一枚くらいですかね? 弾が詰まることもあれば手入れしないと動きが悪くなります。魔法で倒すほうが効率はいいと思いますよ」


「それは剣も魔法も同じ。欠点もあれば利点もある。状況によりけりだ。要はその武器を知り、どう使うかだ。わたしが見るに、タカトは欠点や利点を理解し、状況に合わせるのに優れていると思うぞ」


 そ、そう、だろうか? そんなこと初めて言われたよ……。


「これは買えるか?」


「え、あ、はい。買えますよ。あ、なんならそれ譲りますよ。もう長いこと使って新しいのを買おうと思ってましたから。まあ、弾がなくなったら自分で買ってもらいますがね」


 千発以上は撃ったグロックだ。譲っても惜しくはない。それに、このグロックでゴブリンを殺したとき、その報酬がどちらに入るかも知っておきたい。


「いいのか?」


「お気にせず」


 ベルトにつけてたマガジン二本もゾラさんに渡した。


「では、遠慮なくいただこう。この借りはあとで返すよ」


「ゴブリンを殺してくれるなら充分お返しになりますよ」


 殺せば殺すほどオレに上前が入る。サイフの紐が緩むってものだ。


「うむ。では、たくさん殺すとしよう」


 銃と弾の買い方を教えてたら三人が戻ってきた。息を切らして。


「なにもそこまで張り切らなくとも……」


 もう二キロ内にはゴブリンがいなくなってるよ。


 このままでは取り分で揉めるかと思って今日のゴブリン駆除は止めさせ、チーム内での取り決めを作らせることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る