第78話 コエー!

 夜の十時頃、ラダリオンが戻ってきた。


「タカト。どう?」


「まだ動きはないが、眠っている気配はないな。真夜中辺りに動き出すんじゃないか?」


 夜襲するなら深く眠っているだろう時間だ。ラザニア村でも真夜中に動き出していたからな。


「交代する」


「頼むよ。ラインサーさんも少し眠ったほうがいいですよ。ラダリオンの嗅覚なら信頼できますから」


 そう言って横になる。眠れなくても休んでおいたほうがいいだろうからな。


「そうしよう」


 ラインサーさんも無駄な会話をせず横になった。


 眠れるかな? と瞼を閉じ、意識が飛んだと思ったらラダリオンに揺らされた。


「タカト。ゴブリンの臭い」


 ラダリオンにそう言われて腕時計を見たら午前一時を過ぎていた。いや、がっつり眠っちゃったよ!


 ロンダリオさんたちを起こさないと! と思ったらとっくに起きていて、臨戦態勢に入っていた。場数が違うってか。嫉妬するのもおこがましいな。


「タカト。ゴブリンは?」


 目覚めたオレに気づいて尋ねてくるロンダリオさん。頼もしい限りである。


「こちらに向かってます。顔を洗ってコーヒーをゆっくり飲んだ頃にはやってくる距離です」


 まともに食っているゴブリンの足なら一キロを十分で走破できる。この感じなら二十分くらいで到着できるだろう。


 眠気覚ましに人数分のコーヒーを淹れて頭を目覚めさせ、少年たちも起こされてコーヒーを飲ませてやった。


「強い魔力を感じる。どうやらホグルスの他にミダリーもいそうだ」


 ミダリー? また新たな種類ですか? ゴブリン、どんだけ種類がいるんだよ!


「魔法を使うゴブリンもいるんですか?」


「滅多にいるものではないが、冒険者をやっていれば年に二、三回は遭遇するな」


 いや、かなりの高確率で遭遇する存在ですよ、それ。


「攻撃技は?」


「主に魔矢だが、たまに火矢を射ってくる。威力はそこそこ。顔に当たれば死ぬこともある」


 ロケット花火を顔に当てられる感じか? それならフェイスガードをすれば防げるな。まあ、買ってないから今回はゴーグルで我慢しておこう。


「そろそろ配置につくぞ」


 ロンダリオさんの指示に頷き、それぞれの配置に移動した。


 山を正面にして簡易砦の外、右側にロンダリオさんとマリットさん。左側にミゼングさんとラインサーさん。盛り土の上にオレ、ゾラさん、少年三人。ラダリオンは元に戻ってしゃがんでもらってるよ。 


「……かなりの数がきてるな……」


 長年冒険者をやっているだけにゴブリンの気配が肌でわかるらしい。高位冒険者はおっかないぜ。


「山を出ます。少年たち。明かりを点けろ」


 明かり担当の少年たちが緊張する声で返事し、九千ルーメンのライトをスイッチオン。山へ向けた。これはもう攻撃だな。


 いきなりの光に勢いが削がれ、転ぶヤツ、目を押さえるヤツ、隠れるヤツとバラバラ。その中央に弾丸を食らわせてやった。


 逃げるようにゴブリンの群れが左右に別れた。


「ミギ、ラズ、ゴブリンに合わせて照らせよ」


 ゾラさんの命令に少年たちが動いた。


 ちなみに少年たちの名前は、ミギス、ラズル、ボブスと言い、十四歳の幼馴染み同士とのことだ。


「二百以上、三百以下、ってところですね」


 最初にロンダリオさんたちが狩ってなければ五百匹近くはいた感じだな。


「もう召集される数だが、請負員になると、もっといてくれればと思ってしまうよ」


「そうですね。一人なら逃げているところですが、ゾラさんたちがいてくれるから安心して相手できますよ」


 何十匹と左右に別れて四人に襲いかかるが、なんて無双? ってくらいゴブリンどもを駆逐していた。


「わたしもやらないとな」


 手のひらから火を吹き出して堀に落ちたゴブリンどもを焼き払った。魔法、コエー!


 次々とゴブリンが狩られていき、二十分もしないで第一波が壊滅されてしまった。なんてエクスペンダブルズはコエーな!


「第二波、山の中で停止! ミゼングさんとラインサーさんのほうにホグルスが移動してます!」


 正面は不味いと踏んだのか、回り込もうと左側へと移動していった。


 明かりを山に向けさせると、赤い肌のホグルスゴブリンが飛び出してきた。


「あれがホグルスだったのか」


 猪狩りの少年たちを襲った赤い肌のゴブリンの倍はあるが、見た目は同じ。もしかして、あいつの子だったのか?


「二人に任せて大丈夫ですか?」


「問題ない。ホグルスくらいならミゼ一人でも余裕だ」


「それは頼もしいことです」


 オレなら瞬殺されてることだろうよ。


 どんな戦いをするか見物したいところだが、ミダリーゴブリンが魔矢を撃ってきた。


 ただ、距離があるからか、それとも威力がないからか、魔矢は盛り土の下のほうに着弾している。


「あんなもんですか?」


「まぁ、そうだな。だが、森の中でいきなりやられると厄介なんだよ」


 それを厄介で済まされるゾラさんたちのほうがゴブリンにしたら厄介だろうな。まあ、銃で駆除しているオレらが一番の厄介者だろうけど。


 射程の長いゾラさんの魔矢に、ミダリーゴブリンの頭が吹き飛ばされている。威力高っ!


 四匹いたミダリーゴブリンが瞬殺。魔法使いと言うよりガンマンだな……。


 オレやラダリオンの出る幕なし。第二波も殲滅してしまい、山に隠れていた第三波とも言えない数のゴブリンが逃げ出してしまった。


「もうちょっと踏ん張ってくれたら十万円を超えたのに」


 支援だけで十万円近く稼げれば充分でしょう。配分はしっかりやるみたいなんですからな。


 左右に分かれたゴブリンも狩り尽くされ、三十六万円くらいがプラスされた。ってことは……二百数十匹くらいはいた感じか。まあ、まずまずの稼ぎだったな。


「お前たち。朝になるまで交代で山を照していろ。今回の報酬とは別にボーナスを出してやるから居眠りするなよ」


 ゾラさんの言葉に色めき立つ少年たち。できる男たちは下の扱いも上手いものだ。オレも見習おうっと。


 盛り土から下り、戻ってきた四人に労いの言葉をかけた。

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