第79話 ZZZ……。

 何事もなく朝日を見ることができた。


「……太陽が黄色く見える……」


 人は朝起きて夜に寝る。それが正しい営みってことがよくわかる時間である。


「タカトさん! ロンダリオさんたちが起きました」


 太陽の光を浴びていたらラズルに声をかけられ、下に目を向けたらロンダリオさんたちが起き出していた。


 もう太陽が出たらゴブリン以外の魔物も出ないだろうと、盛り土から下りた。


「コーヒーでも飲みますか?」


 眠気はあるが、そこまでの眠気はない。濃いブラックコーヒーを飲めば目も覚めるだろう。


「ああ。もらおう」


 と言うので人数分のコーヒー(インスタントね)を淹れてやった。


「コーヒーを飲んだらカレーでも温めますか」


 まだポータブルバッテリーは生きてるからご飯は温かい。バッテリーが切れる前にカレーとカレー雑炊を食っておこう。


 少年たちに火を起こさせ、温まるのを待つ。


「ゴブリンはもういないのか?」


「元のところに戻った感じですね。まだ百匹以上はいます」


 たぶん、メスと子だろう。気配がそんな感じがする。


「どうします? ロンダリオさんたちの足ならそう遠くはないと思いますよ」


「いや、少し張り切りすぎた。今回は帰るとするよ。これからを考えないといけないからな」


「これから、ですか?」


 請負員としてやっていくことをかな?


「ああ。これからはゴブリン狩りもするだろうから移動用の馬車を買おうと思ってな。こいつらに運ばせるのも限界があるだろうからな」


 移動か。確かに町から町の移動は時間がかかる。時間短縮のためにも乗り物は必要か。


「オ、オレら、首ですか?」


「なに言ってんだ。お前らの仕事は格段に増えるんだぞ。首になんてするかよ」


 首にならないことにホッとする少年たち。よかったな。


「ほら」


 と、ロンダリオさんが三人にナイフを渡した。


「ゴブリンの耳を集めてこい。冒険者ギルドに持っていけば金になることを忘れたのか? たくさん集めてこい。その報酬はお前たちのにするからよ」


 二百匹以上いるんだから重労働になりそうだ。


「まずはカレーを食ってからな」


 飛び出そうとする少年たちを引き止め、朝飯を食わせた。


 ラダリオンも起きてきてカレー雑炊のほとんどを食われ、少し休んでからロンダリオさんたちと一緒にゴブリンを堀にほうり込んでもらった。


 オレは悪いが昼まで寝かせてもらう。帰るのに半日かかるんだからな。


 昼まで眠らせてもらい、起きたら帰る支度を始めた。


 ラダリオンに一度元に戻ってもらい、ラダリオンのリュックサックに荷物を入れてもらってまた小さくなってもらう。うん。最初からそうしろって突っ込みはしないでね。


 帰る支度が整ったら昼はそれぞれが買ったもので済ませた。


「じゃあ、帰るか」


 町に帰るまでがゴブリン駆除。油断せず、帰路についた。


 何事もなく夕方にはマルスの町に到着。まずは冒険者ギルドを目指した。


「ゴブリンの耳、出してきます!」


 少年たちがギルド内に入っていった。


「あの若さが羨ましいです」


「そうだな。おれらも疲れが抜け難くなってきたよ」


 ロンダリオさんとの体力差は天と地くらいかけ離れているが、三十過ぎたら二十代と違うことに気づくもの。まったく、歳は取りたくないものである。


「オレらは先に宿に帰りますね」


 別に少年たちの精算を待つ必要もないし、依頼を受けたわけでもない。最後まで付き合うこともないだろうよ。


「ああ。ゆっくり休めよ」


 ではと別れて宿へ向かった。


「おじさん、お帰り!」


 あ、忘れてた。宿にいくには徴税人の前を通らないとならないことに。


「朝から晩までやってるのか?」


 どんだけ奪い取ろうとしてんだよ? 戦国時代の関所並みに悪どいぞ。


「うん。お恵みがないと食べ物が買えないから」


 孤児、なのかどうなのか知らないが、厳しい環境で生きてるんだな。まあ、だからと言って同情する気はない。厳しいのはこちらも同じ。他者を気遣う余裕などないのだからな。自助努力でがんばれだ。


 銀貨を一枚取り出して箱に入れてやる。


「ありがとう、おじさん!」


「あいよ」


 もう面倒なので素直に礼を受け取り、宿へと向かった。


 宿にはまだ人はおらず、女の子がカウンターで縫い物をしていた。


「あ、お帰りなさい」


 お帰りなさいなんて久しぶりに言われたな。なんか涙が出そうになるぜ……。


「ただいま。また一泊頼むよ。空いてるかい?」


「はい。昨日と同じ部屋が空いてますよ~。そこでいいですか?」


「ああ、そこで頼むよ」


 金を払って昨日と同じ部屋に向かい、入ったら鍵をかけてセフティーホームへと帰った。


「ラダリオン。先にシャワー浴びてこい。あ、夕飯はうな重でいいか?」


「特上?」


「ああ、特上だ。あと、焼き鳥つけるか?」


 なんか砂肝が食いたい気分だ。


「うん。焼き鳥より牛串がいい」


「ラダリオン用のは牛串にするよ」


 満面の笑みを浮かべてユニットバスへと向かっていった。


 ラダリオンが出たらオレも軽くシャワーを浴び、ビールとジュースで乾杯。いっきに飲み干して特上うな重と焼き鳥をたらふく食べた。


「ラダリオン。明日、ラザニア村に帰るから」


 二缶目を飲みながら明日のことを話した。


 そういや、ラザニア村を出て何日過ぎたっけ? 四日? 五日? まあ、十五日は過ぎてないんだから何日でもいっか。


 帰る前に移動用の乗り物を買わないと。てか、セフティーホームから出せるのか? なにか試しに買って確かめてみるか。


 あれこれと考えていたら酔いが回ってきた。


「ラダリオン。先に寝るな」


 もう考えが纏まらなくなり、マットレスへと向かう──途中で力尽き、そのまま夢の世界へと旅立った。ZZZ……。 

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