第80話 5S

 目覚めはすっきりなものだった。


 部屋が暗いことからしてまだ朝ではないようなので、タブレットを持って玄関へと向かった。まだラダリオンは夢の中だったのでな。


「……そろそろラダリオンの部屋を作ってやらんとな……」


 ロミーさんの話ではラダリオンは十三、十四歳とのこと。いつまでも中央ルームで一緒には不味いだろう。まあ、色気より食気なので本人は下着姿のまま動き回ってるけどな。


「ここも手狭になったな」


 玄関も金が貯まる毎にちょっとずつ広くしているので、今は十二畳くらいになっており、銃を置く棚やマガジンを置く棚、道具棚がいっぱいになってきている。


 今は八百万円くらいの貯蓄がある。準備金十万円の頃から比べたら激しく余裕はあるが、この商売(納得はできないけどな)、なにが起こるかわからない。二千万円くらいないと安心できんわ。


 とは言え、貯め込んで死んだら洒落にならない。使うべきときに使わないと生き残れない。状況に合わせた武器を使わないといけない。まったく、金がかかってばかりで嫌になるよ。


「移動用の乗り物を買うとなると倍は広くしないとダメか?」


 買い物はセフティーホームの中でしかできない以上、乗り物に合わせた空間がないとダメになる。あ、三メートルの単管パイプを置けるくらいの広さは欲しいな。また櫓が必要なときがあるかもしれないしな。


 一、五メートルの単管パイプを繋ぎ合わせるの面倒だし、せめて三メートルの単管パイプが欲しいところだ。


「そうなると倍じゃ足りないか?」


 まずは五十万円使って広くした。


「倍まではならないか」


 十二畳が二十畳になった感じか? 五十万円でこれとなると二百万円くらい使わないと望む広さにはならないみたいだな。


「あ、そうなるとラダリオンの部屋を作るとなると二百万円はかかるのか? ルームにかかる金、ちょっと高くないか?」


 プレハブなら二百万円も出せば立派なもんが買えるぞ。


「さすがに五百万円は残しておきたいし、もうしばらく二人で中央ルームに暮らすしかないな」


 まあ、オレはロリコンではないし、ラダリオンに欲情するわけでもない。ラダリオンが恥じらいを覚えるようになってからでも問題ないだろうよ。


 缶コーヒーで一息ついてからAPC9と一緒に買ったサブマシンガン、MP9のマシンガンに弾を入れ始めた。


 マガジンローダーがあるのでそんなに手間はかからず十本に入れられた。


「しかし、マガジンって地味に高いよな」


 なんで一本三千八百円もするかね? SCARのマガジンより高いよ。アポートポーチで取り寄せても捨てることもできない。結局、使い切ったらセフティーホームに戻って交換するしかないのだ。


「マガジンを大量に買おうにも管理が難しくなるしな~」


 裏技で工場出荷時のパレット積みのを七割引きで買うって手もあるが、それだけの量を使い切るのに十五日じゃ足りない。一年かかっても無理だわ。精々、五十本がいいところ。P90にショットガン、サブマシンガンとあるんだからよ。


「まっ、今さら剣で戦うこともできないしな。このスタイルを極めていくしかないか」


 一対一なら勝てるかもしれない。一対二でもなんとかなるだろう。だが、一対三になったら逃げの一択だ。そんなオレには銃で戦うしか道はない。金はかかってもやるしかないさ。


 一通りあるものに触っていき、足りないものを補充しているとラダリオンがやってきた。もう起きる時間か。今度一日使って模様替えしないとな。


「タカト、おはよう」


「おはようさん。朝飯の用意するから顔を洗ってろ」


 ちょっとのつもりが熱中してしまった。5S習慣が働いてしまったよ。

  

 ショットガンの弾の箱に日付を書き、棚に置いてから中央ルームにいき、朝飯を用意した。


 冷蔵庫を確かめたら空に近かった。たった二日でこれじゃ冷蔵庫が三台になる日もそう遠くはなさそうだ……。


 適当に買って入れるのはラダリオンに任せる。なんか入れ方に拘りがあるようでオレが入れるとやり直されるのだ。


 朝飯を食ったらオレは軽く装備して宿の部屋に出た。


 時間は七時半。冒険者には遅い時間だが、食堂に降りたらロンダリオさんたちがコーヒーを飲んでいた。


「おはようございます。今日はお休みですか?」


 てか、冒険者って休みのときなにするんだ? 寝て曜日か?


「ああ。話し合うことが多いしな」


「そうですか。冒険者は体が資本ですからね、ゆっくり休んでください」


 オレらもラザニア村に帰ったら二日くらい休むとしよう。


「タカトたちはやはり今日帰るのか?」


「はい。ロンダリオさんたちの縄張りを漁るわけにもいきませんしね。別の狩り場に向かいます」


 もうここはロンダリオさんたちの縄張り。オレらがいたら稼げないだろうしな。


「タカトたちはラザニア村に家を構えているんだったよな?」


「ええ。と言っても家は村の裏側になりますけどね」


「そうか。手が開いたら会いにいってみるよ。道具の使い方とか聞きたいからな」


「いつでも、とは言えませんが、オレがいないときは自由に家を使ってください。村には伝えておきますんで」


「そのときは使わせてもらうよ。宿代が浮かせられるしな」


 高位冒険者なのにしっかりしている。オレも見習わないといかんね。


「オレらは準備が済み次第、宿を発ちます」


「あ、ルスルさんが帰る前に寄ってくれだとさ」


 そうだった。ルスルさんのこと忘れてた。確かに挨拶していったほうがいいな。


「わかりました。いってみますよ」


 そう返事をして部屋に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る