第81話 別れと再会
ロンダリオさんたちに別れを告げて宿を出た。
今日も今日とて徴税人が待ち構えている。オレ、もしかしてカモられてんのかな?
「おじさん、おはよう!」
「ああ。朝から元気だな」
なんか心なしか肌や髪の艶がよくなってないか? 成長期か?
「おじさんのお恵みで毎日食べられるから元気です! ありがとうございます!」
いや、通行料を払って二日くらいだよね? そんな短い時間で変わるもの!? この世界の子供、どうなってんのよ?
「そうか。まあ、オレらは帰るから明日からがんばるんだな」
銀貨を三枚出して箱に入れてやる。もうこないだろうから餞別だ。銀貨三枚で生き延びるんだな。
「…………」
「今度からは冒険者にいってらっしゃいとお帰りなさいを言ってやれ。そのくらいならどんくさいお前でもできるだろう。愛嬌はタダだ。金を持ってそうな冒険者に媚びまくれ」
フェミが暴──元気な時代じゃい。女を利用したって構わないさ。男はバカだからな。愛嬌を見せてれば銅貨の一枚も入れてくれるだろうよ。
「じゃーな」
そう告げて支部へと向かった。
支部の中はピークが過ぎたのか、人はそれほどおらず、カウンターで声をかけたらルスルさんがすぐにやってきた。
「少しお話できますか?」
「ええ。今日は帰るだけなので」
乗り物がないと一日がかりの移動になる。やはり乗り物は買うべきだよな。
二階に通され、今日はお茶を出してくれた。不味くはないが美味くもない、なんだかよくわからないお茶である。
「ゴブリン狩り、ご苦労様です。かなりの数を狩ったようですね。職員総出でも数えられませんでしたよ」
「それだけいたってことです。よく被害がなかったなと不思議ですよ」
「いえ、被害は出てましたが、受けてくれる者がおらず手詰まりなだけでした。タカトさんたちには感謝しかありませんよ」
確かにあれだけいたら手詰まりどころか八方塞がりと言っていいだろうな。
「少ないですが、これはゴブリン狩りの報酬です」
銀貨三枚と銅貨数十枚を渡された。
「ゴブリンの耳はロンダリオさんたちの報酬では?」
届けたのは少年たちだし、少年たちのボーナスになるんじゃなかったのか?
「これはバズ村の報酬ですね。バイスから報告を受けてます」
あーバズ村ね。すっかり忘れてたよ。
「そう言うことでしたら受け取らせてもらいます」
まあ、宿に泊まるときに必要になるしな。もらえるものはもらっておくとしよう。
「これから帰るそうですね?」
「ええ。五日か六日働いたら二日くらいは休むようにしてますんで」
肉体もそうだけど、心も休めないとすり減っちゃいそうだからな。
「ラザニア村なら一度街へ向かい、ミスリムの町いきの辻馬車に乗れば早いと思いますよ。もう少しすれば辻馬車が支部の前から出ますよ」
そっか。乗り物はラザニア村に帰ってからゆっくり選ぶとするか。まあ、いくつか候補は決めてるんだがな。
ルスルさんの提案に乗り、辻馬車で帰ることにした。
乗り場まで案内してもらうと、もう辻馬車(と言うか幌馬車だな)は停車しており、街にいこうとする人がそれなりに乗車していた。
前のときもそうだが、結構街と町の行き来が活発なんだな。
「ギルドマスターにこれを。あちらでも報酬がもらえると思うので」
辻馬車に乗車したら丸めた羊皮紙を渡された。
「報酬ですか? 二重払いではないんですか?」
「タカトさんは、ギルド本部つき扱いですからね、あちらの依頼料を受けるのが筋でしょうが、数百もの耳を持ち込まれても処理に困ります。バズ村の報酬はマルスの町の予算から出して、昨日のは本部で払うよう手紙にしたためました」
「そうですか。わかりました」
どう言う仕組みかはわからんが、出せばいいのなら出すまでと、ルスルさんに別れを告げた。
辻馬車が出発すると、徴税人が駆けてきて「おじさん、さようなら~!」と笑顔で見送ってくれた。
なんの最終回だ? と思いながら軽く手を振り返した。
辻馬車は町を出て牧草地を走る。
道がよければのどかな風景を楽しむところだが、道が悪くて楽しむもない。この道を考慮した乗り物にしないとダメだな~。
乗り物に強いほうだから酔うことはないもののケツが痛くなってきた。十キロも乗ってなくちゃならないとか拷問だな。
十時くらいにバス村に向かう交差路に出た。
……廃墟に隠れているゴブリンは相変わらずか……。
左右の廃墟から数百匹ものゴブリンの気配を感じる。ここもそのうち駆除にこないといかんな~。街と町を繋ぐところにゴブリンがいたら不味いだろうしな。
ケツがバカになる前に街が見えてきた。あ、マスクしないと。
城門を潜り、冒険者ギルドまでいくのかと思ったら、辻馬車がたくさん停車しているところで停まり、乗客たちが降り始めた。ここが終点なんだ。
しょうがないとオレたちも降り、冒険者ギルドを目指した。
第三城門から第二城門までの間は大通りを歩けば一週できるので迷うことはない。
「あんちゃん!」
クッセーなーと思いながら歩いていると、浮浪者なじいさんが道を遮った。
「あ、あんときのじいさんか。よくわかったな?」
マスクしてるのに。
「草色の帽子に顔を黒い布で隠してるなんてあんちゃんくらいしかいないよ」
あ……うん。確かにそうでした。てか、今回はポンチョも羽織ってなかったわ。
「元気にしてたかい?」
「ああ。あんちゃんが美味い酒をくれるってからがんばって生きてたよ」
そう言えばそんな約束してたっけ。忘れてたわ。
「なら、そこでどうだい? オレらも休憩したかったからさ」
オープンカフェに誘い、ウェイトレスに銅貨を数枚を渡してワインとツマミを頼んだ。
「いいのかい? わしなんて誘って?」
「構わないさ。まあ、申し訳ないと思うなら街のことでも教えてくれるかい? その歳まで生きてきたなら街のことも詳しいだろう?」
平均寿命が短そうなところで六十年以上生きているっぽい。なら、生き字引と言っても過言ではあるまい。教えてもらうならうってつけだろうよ。
ワインとツマミがすぐに運ばれてきて、じいさんのコップに注いでやった。
「これは前払い。教えてくれたらこれが泥水と思えるような酒を渡してやるよ」
オレは飲む気がないのでアポートポーチから缶コーヒーを取り寄せ、封を切って掲げてみせた。ラダリオンは我関せずでリュックサックからジュースを出して飲んでます。
「ふふ。おもしろいあんちゃんだ」
じいさんもコップを掲げ、乾杯をした。
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