第214話 オレは巻き込まれ型
館まで戻ってくると、ちょっとした前線基地と化していた。
「タカト!」
どうしたもんかとパイオニアをゆっくり運転して車庫としている小屋までいくと、ギルドマスターがいた。武装して。
「ギルドマスターまできたんですか?」
「ミスズが溢れたばかりか山黒まで現れたら出張らないわけにはいかんだろう」
それはご苦労様です。
「状況は?」
「まずはお前から聞きたいところだ」
ってことで、家の──面倒だから最初に建ててもらった家を別館としよう。建物のサイズは館だしな。
別館の食堂には冒険者ギルドの職員が数人と、伝令役の冒険者がいた。
「すまんな。無理を言ってここを借りた。酒や食料には手を出さないよう言い含めてあるから安心してくれ」
「まあ、さすがに酒は不味いでしょうが、食料や飲み物は使ってくれて構いませんよ。非常時ですからね」
食堂に置いてある食料は酒のつまみだし、水はホームから汲んできたもの。コーヒーや紅茶なんて安物ばかり。使われても惜しくはないさ。
近くにいた職員にカセットコンロの使い方を教え、コーヒーや紅茶を出してもらった。
「すまんな。報酬に上乗せしておくよ」
「報酬出るんですか?」
「お前たちがいなければコラウスが傾くほどの被害が出たんだ。報酬など微々たるものだ。損失はミスズと山黒の魔石で補填できるからな」
それはなにより。がんばった甲斐があるってものだ。
淹れてもらったコーヒーを飲みながらギルドマスターに昨日からのことを語った。
「子供とは言え、二匹も倒すとはな。銀印の隊でも倒せるかわからんぞ」
「出費は甚大ですがね」
細かいことはわからないが、弾だけでも三十万円は使ってるし、リンクスを買うのに四十万円近く使った。おそらくなんだかんだと百万円は使ってるはずだ。
「山黒の子供の魔石はタカトに渡す。それで補填はできんだろうが、ギルドの運営資金にしてくれ」
まあ、今回はオレの居場所を作るための戦いと思えば損にはなってないはず。それでよしと納得しておこう。
こちらが終ればカインゼルさんたちのほうのことを教えてもらった。
アルート川に到着する前にミスズが逃げてきたが、カインゼルさんの指揮の下、横合いから襲いかかって倒し、ミスリムの町や街からきた冒険者と合流してから相当な数を倒したそうだ。
そこに山黒の親と子が現れ戦闘になり、やや遅れてラダリオンが到着。なかなか激しい戦いになったそうだ。
まあ、重戦車同士が戦っているようなもの。被害は出て当たり前。それで死者が出なかったのが不思議だわ。
「他に山黒がいないかを探索させる。お前は休んでおけ。あとは冒険者ギルドで引き継ぐから」
「ええ、お願いします。これ以上は動きたくないので」
調子こいて魔法の練習をしすぎた。アラサーが無理したところで体を痛めるだけ。じっくりゆっくり気長にやるしかないさ。
各町から主要な冒険者のチームが集まり、手分けして山黒の残りがいないかを探し出発した。
とりあえずオレはホームへ。ラダリオンとミリエルはおらず、ホテルのビュッフェが買ってあった。
まずはシャワーを浴びてさっぱりしたら我慢していたビールを一缶。いや、二缶。疲れた体が癒されていく感じがする。
「ビールを飲んで疲れが吹き飛んでいたのは水属性だったからなんだな~」
とは言え、栄養は口から摂ってこそ。テーブルに並べられた料理に手を伸ばして腹一杯食べた。
そのまま眠ろうかと思ったが、オレはゴブリン駆除ギルドのマスター。すべてをシエイラに任せてばかりにはいられないだろう。持ってきたミスズもそのままだしな。
「責任ばかり積み重なっていく」
まあ、自由気ままに、なんて生き方ができる性格でもない。命を背負うほどの責任じゃないのだからまだ気は楽だ。
腰回りの装備だけにして外に出る。
ギルドマスターはどこかにいったようで姿は見えない。職員は一人だけおり、声をかけて館に向かった。
外には冒険者もいたが、まだ若い冒険者で、予備兵力的な感じなんだろう。よくわからんけど。
「タカトさん!」
館に入るなりシエイラがいた。寝ずにいたのか?
「すまないな、心配かけて。なにか問題は出たか?」
「いえ、冒険者ギルドに協力していただけなので問題は出ておりません。ラズルたちは部屋で休ませています」
あ、少年少女たちのことを忘れていた。無事帰ってこれてなによりだ。
「ゴルグたちのことは聞いてるか?」
「皆さん村に帰りました。朝にまたくると言ってたのでもうすぐくるんじゃないでしょうか?」
時刻は八時過ぎ。もう働いてる時間か。
「ミスズを三匹持ってきたのでジョフとミラルを呼んできてくれ。せっかくだから職員にも食べてもらおう」
どう料理するかはジョフとミラル次第だけど。
「それはいいですね! わたしもミスズを食べるのは久しぶりです!」
「街の者は肉が食べれないのか?」
結構屋台で焼いてたような気がするんだが。
「食べれはしますが、ミスズは滅多に食べれません。高級肉ですから」
あれが高級なんだ。いや、少年少女たちは蟹を食うような勢いだったな。ここの者には高級な味なんだろう。
料理人夫婦にミスズを渡し、職員たちのために調理してもらう。
「マスター。巨人がきました」
どんな料理をするのかと見せてもらっていたら職員の一人がやってきた。
外に出て別館に向かうと、昨日のメンバーと籠を背負った女たちもいた。
「無事でよかった」
「それはこっちのセリフだ。山黒の子を二匹も相手しやがって。ラダリオンから無茶するなと言われてるだろうが」
「不可抗力なんだから仕方がないだろう。オレだって無茶したくなかったよ」
倒さなければ少年少女たちは殺されてたし、少年少女たちを救うために自ら囮になったミルディを見捨てるわけにもいかない。逃げられない状況なら戦って生き残るしかないんだよ。
「おれたちはミスズを取りにいくが、お前はここにいろよ。なんかお前が動くと騒ぎが大きくなるからな」
「別にオレが引き起こしているわけじゃないぞ」
人をトラブルメーカーみたいに言うな。こっちは巻き込まれてる側だわ。
「わかってるよ。とにかく、お前は残ってろよ」
ハイハイ、わかったよ。残ってるよ。
奥様連中にもなぜか怒られるオレ。がんばったのに報われないな~。
「皆さん、タカトさんが大事なんですよ」
だったら優しい言葉をかけて欲しい。ってまあ、それはそれでこっぱずかしいけど。
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