第515話 老衰で死ねる社会

 やはり獣人の身体能力は凄まじいものだ。苦もなくKLX230についてきている。


 マルスの町とミロイド砦の間くらいで一旦休憩をする。


「マーダ。足は痛くなってないか?」


 取り寄せたペットボトルを渡しながら尋ねた。


「大丈夫だ。とても走りやすい。これならどんな石の上でも走れそうだ」


「それはよかった」


 獣人の足も人の足と変わりはない。まあ、人間より肉厚かな? ってくらいだが、獣人も足に革を巻く文化のようで靴は履かない。ビシャもメビも最初は違和感があったと言っていたっけ。


「ゴブリン駆除請負員となれば足に合った靴も服も買える。食料だって買える。やると言うなら請負員とするぞ」


 獣人ならたくさん駆除できそうだし、仮に山に帰ったとしても続けられる。なっていて損はないだろうよ。


「なにか決まりはあるのか?」


「特にない。強いて言うなら一年ゴブリンを駆除しなければ請負員じゃなくなるだけだな。まあ、それもまた請負員になればいいだけだ」


「そうか。なら、やらせてくれ」


 と言うのでマーダを請負員とした。


「この近くにゴブリンが数百匹はいる。今すぐやりたいならやってきていいぞ。この道の先に砦がある。オレは二日くらい滞在するから飽きたらくるといい」


「いや、ついていく」


 即答か。なにか考えがあるのかな? この流れなら駆除にいくんだが。


「そうか。まあ、砦に着いてからでもできるしな」

 

 十分くらい休んだら出発した。


 何事もなくミロイド砦に到着。マーダはやはり息も切らしていない。こんなのをよく捕まえたよな。なんか毒とか魔法を使ったのか?


 扉の前でKLX230をホームに片付け、中に入った。


 それほど長い間空けていたわけじゃないのに、荷物や人が増えていた。ルスルさんが迅速なのか商人が迅速なのか、優秀な人とは行動が早いもんだ。


 領主代理からまだ指示は出てないが、もうここはルスルさん管轄でいいかもしれんな。オレが推薦すれば領主代理は認めてくれるだろうよ。


「マスター」


 砦の中を見回していたらアザドとバルサがやってきた。


「商人がきたみたいだな」


「はい。マルスの町を本拠地としているローガス商会です。鉱山を所有しています」


「鉱山を所有? 普通、領が持つものじゃないか?」


 売上がどれほどのものかわからんが、領地を支える産業じゃないのか?


「コラウスは広く浅くなんですよ。商会に任せて税を払わせる。そう言うやり方です」


 言われてみればコラウスって特産がないな。強いて言うんなら魔物から取れる魔石か? なんか魔石を買取る資金はありそうな感じだったし。


「失礼。セフティーブレットのタカトさんでしょうか?」


 話していると白髪の男が現れた。見た目からして商人とわかる人だ……。


「はい。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットの一ノ瀬孝人です」


「わたしは、ローガス商会のダスティン・ローガス。商会は息子に譲り、会長と言う立場におります。この度、ルスルより紹介を受けました」


 隠居はしたが口は出す、ってことかな?


「迅速な対処、ありがとうございます。ルスルさんが任せて欲しいと言っただけはありますね。まさかこうも早く動いてもらえるとは考えていませんでしたよ」


「あなたとの繋がりが欲しかったので商会総出で動きました」


 随分とはっきり言う人だ。だが、こう言う人はこちらがどうこうしなくても動いてくれるから頼もしいんだよな。


「ふふ。買い被りすぎもいいところですよ。オレはこうなったらいいな~ってくらいの考えで動いているだけですからね」


「それであの領主代理を動かせれたら誰も苦労しませんよ。わたしなど城に呼ばれたこともありません」


「あの方を動かすなら無欲になってコラウスの利を与えることです。つまり、損して得取れですよ」


 オレは海までの道が欲しい。迅速な移動ができるならその儲けなどいらないし、苦労も厭わない。まあ、さらに苦労するのは領主代理だけど。


「この地をドワーフに任せるのも領主代理の利となります」


 そして、オレの利ともなる。


「ドワーフはこの地を豊かにするために開墾し、侵略されないよう自ら動くでしょう。もしかしたら一大穀物地になったりするかもしれませんね。ただ、この地はコラウス辺境伯領。都市を治めるなら領主代理に認められた方となるでしょうね」


 領地が広がれば広がるほど信頼できる者を配置するだろう。そのとき、提示する報酬はなんだ? 金か? 身分か? はたまた爵位か?


「この国で男爵になるには伯爵級の推薦があればよかったんでしたっけ?」


 これを聞いたのはアシッカでのこと。伯爵との雑談でだ。


 この国で男爵の位は安い。まあ、与えるのも簡単だが、取り上げるのも簡単らしいけど。


「オレはなんの権力もなければ身分もありませんが、アシッカ伯爵とは仲良くさせてもらってますし、領主代理に口利きくらいならできると思いますよ。ローガス商会にミロイド砦を任せてみては、とね」


 今、領主代理に必要なのは人材。それも優秀な人材だ。わざわざ苦労を買ってくれると言うんだから紹介状くらい書いてくれるだろうよ。


「……あなたは、なにを求めているのですか……?」


「平和な町ですよ。戦争している世ではゴブリン駆除も大変ですからね」


 オレが求めているものはオレたちが安全に暮らせる領域だ。名誉や誇り、それが生み出す利益すら興味はない。老衰で死ねる社会が欲しいだけだ。

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