第516話 ほろよい
「……なるほど。若いのによく人が見えている。まさか一目見て看破されるとは思いませんでした……」
「人の求めるものなんて同じですよ。財力を手に入れた人が望むものは名声か名誉。穏やかな老後を求めるなら最初から出てきませんからね」
この人はまだ枯れてはいない。それは目を見ただけでわかる。まだ野望は失ってない目の輝きだ。
「今すぐ、とはいきませんが、ミロイド砦に店でも構えて実績を積んではどうです? うちも支部を出します。一緒に協力できたら幸いです」
セフティーブレットの名とともにローガス商会の名も刻んでいけば領主代理の覚えもいいはず。商人なら実績を積んでいくのは慣れているだろうよ。
「なんなら、ドワーフを使って葡萄でも栽培しては? 人が増えれば酒の量は増えるはず。もちろん、ドワーフが育てたものを買う形にして。今ならドワーフの信頼を得るのは簡単です。マガルスク王国が一手に憎しみを受けもってくれましたからね。ちょっと優遇するだけでローガス商会はドワーフの支持を得られますよ」
町を治めるには住民の支持は絶対に必要だ。
今ならちょっとの金でドワーフの信頼を得られるチャンス。他が動く前にローガス商会が動き出せ、だ。
「まるであなたがお膳立てしたような状況ですな」
「そんなことができるならもっとよい状況を作り出してますよ。できないから今あるものでよりよい状況を作り出しているんです」
ローガス商会、いや、ダスティンには野望がある。なら、その野望を利用してドワーフの面倒を見てもらう。どっちの得にもなるんだからウィンウィンな関係になれるだろうよ。
「どうします? あなたにやる気があるならオレが仲介役になりますよ。今、逃げてきたドワーフの面倒をみているのはうちの者ですからね」
この状況はオレが握っており、オレだけが動かせる。ローガス商会としては千載一遇の状況だろうよ。
「よろしく頼みます」
「即決できる方でなによりです」
「こうもお膳立てされたら断る術はありませんよ」
「それはあなたが覚悟を決めているからです。是非ともよりよい未来をつかんでください。微力ながらお手伝いさせていたいただきますので」
それはオレのよりよい未来にも繋がっている。多少の手伝いくらい何でもないさ。
もう暗くなるので、主だった面々を集めさせて夕飯を囲むことにする。
ナイダたち若手職員にロズたちを呼びにいっている間にマーダをアザドとバルサに紹介した。
「あの二人の父親ですか。まさか生きていたとは驚きです。運ばれている途中、魔物に襲われたと聞いていたので」
そうなの!? オレ、そんときの状況聞いてないんですけど!
いやまあ、あのくらいの年代の子となにを話したらいいかわからんけど!
「いや、世話になっているのはおれたちのほうだ。あの子らは下手な冒険者より強いからな。ロースランやロスキートから何度も救ってもらったよ」
「あの二人がロースランと?」
ロースランを知っているってことは獣人の領域にも出るってことか。何気に生息域が広いんだな、ロースランって。
「剣だと倒すのは大変だが、銃を使えばロースランなんて怖くもない。メビなんて頭に当てて瞬殺していたよ」
なんかオレより二人を知っているようなのでアザドに任せた。
三十分くらいしてナイダたちがロズや主要な者と思われるドワーフを五人連れてきた。あ、マッシュの弟もいるな。
「突然呼んで悪いな。ドワーフの今後を話し合いたくてな。まずは乾杯しようか」
ドワーフもエルフほどではないが結構酒を飲む。いきなりアルコール度が高い酒は慣れてないだろうからほろよいを出した。
こちらでは何歳から酒を飲めるとか決まりはない。飲めるなら飲めばいいって感じだ。なので、ミリエルやミサロが飲んでいるんだよ。オレの晩酌に付き合いたいってな。
「旦那。これ、オレらでも買えるものですか? これなら女たちも飲めると思うんですよ」
「ああ、買えるぞ。いろんな種類があるからいろいろ買ってみるといい」
てか、ドワーフの女は酒に弱いのか? 男はテキーラでも平気で飲んでいたが。
「これはわたしどもも買えるのでしか?」
ダスティンさんも酒は苦手らしいが、ほろよいなら全然平気で飲めるようだ。
「これはゴブリン駆除員や請負員だけが買えるもので、オレたちが十日触らなければ消滅の魔法が発動します。まあ、すぐ飲むのならドワーフから買うといいですよ。十人くらい請負員としましたから」
「請負員には誰でもなれるので?」
「なれますよ。ただ、ゴブリンを殺さないとなにも買えませんし、必死に稼いだ金を渡す者はいません。それに見合う金や物、立場を渡さない限りはね」
駆除すればするほど儲けは減る。少なくなれば他に売ったりはしないだろうよ。
「その辺はドワーフたちと交渉してください。ロズ。欲しいものがあるならダスティンさんを頼るといい。ミロイド砦に店を構えてくれるそうだからな」
「それは助かります。数が数なのでおれらの儲けだけじゃ服を揃えられなかったんですよ」
チャンスだとばかりにダスティンさんを見たら、了解とばかりに頷いた。
「ええ。お任せください。すぐに取り寄せましょう。代わりと言ってはなんなのですが、こちらにも酒を売ってもらえると助かります。これならわたしでも飲めるので」
「わかりました。いや~助かります」
どうやら初接触は良好のようだ。このままいい関係を続けられたらダスティンさんの野望もそう遠くはないようだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます