第514話 さすシエ

 長屋を見にいくと、簡単な造りではあるが、獣人を受け入れるのは問題なかった。


 共同台所? も長屋に一つ備わっており、食料は各自で調達するか、館の食堂を利用するかのどちらかになっているそうだ。


 まあ、ここはゴブリン駆除ギルド。最低限の生活は保証するが基本はゴブリンを駆除した稼ぎで生きてくれ。いい生活がしたいのならがんばれ、だ。


 一応、アシッカまでいったマンティア商会が売店を開いてくれるそうだ。どんな商会だったっけ?


 休憩や夜の一時に話した記憶はあるが、どんな商会かまでは覚えていない失礼。あとでどんな商会かシエイラに聞いておこう。


「ギルドの資金って足りているか?」


 オレはもうカラッケツですわ~。


「はい。そう使い道はないですから」


 ホイホイ金をばら撒いているオレ。もしかして、サイフの紐を握っている人がいないと破滅するタイプだったりする?


「お金、ないんですか?」


 あっさり見破るシエイラさん。まったくもってその通りでございます。ごめんなさい。


「マルティーヌ商会に持っている金をすべて渡した。有能そうな組織だったからな」


 現状も読めるし先も見られる。さらに行動力もある。なら、早々に領主代理の手駒としよう、だ。


「ギルドとしてなにか商売するか?」

 

 どんな商売かまでは思い浮かばないけどな。


「それにはまず人を集めないと無理ですね。動かせる職員はほとんど出払ってますからね」


 そうだった。職員を動かしすぎていないんだった。いろいろありすぎてすっかり頭から抜け落ちていたよ。


「まあ、また魔石でも売るよ。ワイニーズと山黒の魔石があるからな」


 ビシャたちが取り出した魔石が凄いことになっていた。あれを売れば結構な金になるだろうよ。


「それならギルドで売っておきますよ」


「ん? 冒険者ギルドを通さなくていいのか? 縄張りを荒らす的なことにならんのか?」


「他の都市と取引する商会なら問題ありません。うちは冒険者ギルドとは別組織。専属商会を持っても文句は言われませんよ」


 そ、そういうものなんだ。さすがシエイラ。さすシエです。


「じゃあ、頼むよ。魔石はホームにあるから。売上のいくらかはミサロに渡しておいてくれ」


「すっかりミサロに尻に敷かれてますね」


「外ではシエイラに敷かれているけどな」


 と言うか、シエイラなしではギルドは回らない。ギルドのことを言われたら従わざるを得ない。実質、シエイラがボスだ。


「ふふ。ベッドの中では敷かれてますけどね」


「下ネタとかオヤジか!」


 まったく。SかMかよくわからん女だよ。


「街に戻る。獣人たちが回復したら連れてくるよ。ただ、山に戻るかもしれんがな」


「残りますよ。ちゃんと考えられる頭を持っていたらね」


 なにか確信したようなシエイラ。どんな事前情報を持ってんだよ?


「そ、そうか。なら、残る算段で進めるとしよう」


 シエイラがそう言うならそうなのだろう。オレも残るだろうと思っていたしな。


 シエイラから金貨二枚と銀貨十枚をもらい、街に戻った。


 倉庫にくると、ミシニーとジョゼットが酒盛りしていた。君たち、そんなに仲よかったっけ?


 酔っぱらいに自ら関わるつもりはない。うざ絡みされたら嫌だし。そのまま倉庫に向かった。


 朝食を出してから五、六時間だろうか? 寸胴鍋のハー…なんとかかんとかはなくなっていた。


「遅れてすまなかったな。昼を用意するよ」


 結構な量があったが、獣人には少なかったみたいだな。まあ、ビシャとメビもよく食べてたから獣人は大食いなんだろう。


 ホームに入り、山黒の肉を使った……なんだろう? また異国風の煮物料理を運び出した。


「口に合わなければ別なのを持ってくるよ」


 厨房には寸胴鍋が五つくらい作り置きしてあった。どれかは口に合うだろうよ。


 新しく持参したヒートソードで温め直し、獣人たちに配ってやった。


 獣人たちが食っている間に空になった寸胴鍋を片付け、夜の分も持ってきた。


「体力が回復したら場所を移す。ただ、オレはやることがあるので一緒にはいられない。あとのことは外にいるエルフのミシニーに任せる。大人しく従ってくれ」


 いつまでも獣人たちにつきっきりとはいかない。ドワーフのほうの様子も見なくちゃならないからな。


「おれも連れてってくれ! 外を見たいんだ!」


 と、マーダが立ち上がった。


「わかった。ついてこい」


 人間の世界をまったく知らないって感じでもないし、無闇に暴れたりする性格とも思えない。こちらもマーダの人となりを見たい。ここで暮らしていくなら獣人の纏め役になって欲しいからな。


「その前に装備をなんとかしよう」


 背は百九十くらいあるが、アルズライズに用意した装備がある。タクティカルブーツも靴下を重ねれば合うはず。


 取り寄せて着替えさせ、靴下で調整させてタクティカルブーツを履かせた。


「あと、これも渡しておく。ビシャの予備だ」


 背負う形のククリナイフを取り寄せて渡した。


「……いいものだな……」


「惜しみなく使うといい。必要ならまた用意する」


 鞘から抜いて具合を確かめるマーダ。やはり大人の獣人はパワーが段違い。今の振りならゴブリンなんて一刀両断だな……。


「さあ、いくぞ」


 時刻はもう十六時近い。急がないと暗くなる。


「わかった」


 ウルヴァリンに乗せ、マルスの町に向かってエンジンを吹かした。

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