第247話 安全地帯

 とりあえず、余市十二年のボトルを空にして夢の世界へ逃げ出した。


 逃げ出した代償は大きかったが、なにも考えずに眠れたのだからおっ、おっ、おぇー。


 ユニットバスに二時間くらい立て籠り、シャワーヘッドから水を飲んで回復させた。うっ、腹が……。


 なにやってんだオレ? と考えながら四時間が過ぎ、ドアを強く叩かれた。


「タカトさん、大丈夫ですか!」


 ミリエルか。もう帰ってきたんだ。どうやら一日以上眠っていたようだ。


「……大丈夫。回復中だ……」


 だから入ってこないでね。さすがに年長者としての威厳が保てなくなる状況なんでさ。


 一時間ほど湯につかり、落ち着いたらユニットバスを掃除してから出た。もちろん、文明人になってからね。裸族ダメ、絶対!


 中央ホームには全員が揃っており、なにか空気が張り詰めている感じがした。


 ダメ女神の(*゚▽゚)ノが視界にチラつくが、今はそれが気にならないほど満ちる空気に押し潰されそうです。


「説明してください」


 この場を支配したミリエルの言葉に心が折れそうになる。が、この状況を招いたのはオレ。心を鼓舞してテーブルについた。


「まずは二人に相談しなかったこと、すまなかった」


 二人に謝罪してから我関せずのラダリオンとピリピリするミリエルにミサロが元魔王軍の幹部だったこと、初遭遇のこと、先の戦いのこと、ダメ女神が言ったことを正直に話した。


「ミサロを駆除員にしたのは同情からしたことじゃない。いや、多少なりとも同情はあったかもしれないな。だが、オレたちの得になると考えてのことでもある。魔王軍の情報を持つ者は価値があるからな」


 そもそもラダリオンやミリエルを仲間にしたのだって、それだけの価値を持っていたからだ。誰彼構わず仲間にしようとは思ってない。


 まあ、ラダリオンには駆除員になるリスクを教えなかった負い目があるが、今は自分の意思で駆除員をやっている。ならば、オレたちは一心同体。チームとして生きていかなければならないのだ。


「ミサロは仲間にするだけの価値がある」


 オレは誰かを無条件で受け入れることはない。相手に価値があるから受け入れられるんだよ。


「もちろん、ラダリオンにも、ミリエルにも価値があると判断したから仲間にしたんだ」


 じゃあ、お前にはどんな価値がある? とか問われたら土下座謝罪するところだが、オレが三人に与えられるのは居場所。そこで生きていけるようにしてやれることだけだろう。


「あたしは、タカトが決めたなら認める。あたしはタカトの槍だから」


 うん。その意味を教えてから言って欲しいな。どう返していいかわかんないよ。


「……はぁー。なんの相談もなかったのは悲しいですが、セフティーブレットのリーダーはタカトさんです。そう決めたのならわたしも認めます。次はちゃんと相談してくださいね」


「は、はい。わかりました……」


 なんだろう。リーダーなのにリーダーっぽい娘から説教されている感は? ま、まあ、二人が認めてくれたんだからよしとしよう。うんうん。


「ミサロも理解してくれるか?」


「タカトの側にいられるならどんなことでもするわ」


「ミサロ。オレに依存するような生き方はするな。自分の足で立ってこそ自分の人生が歩めるんだ。己の信念で生きていけ」


 三人にはゴブリン駆除に一生を費やすより己の道を歩んで欲しいのだ。未来ある十代の女の子なんたからよ。


「駆除員が四人になったことだし、ホームでのルールを決めておこう」


 特に裸族は禁止だ。オレも男なんだから目がいってしまう。仲間をそんな目で見たくないわ。まあ、二人はアレだから気にもならないがな。


「ミサロにはホーム管理をやってもらうが、暇な時間は料理や勉強をするといい。オレもここの文字を覚えたいが、時間がない。ミサロが覚えてくれるなら助かる」


 ミリエルとミサロが覚えてくれるなら連絡も楽になるし、オレとラダリオンに教える負担も減る。この世界で生きていくなら文字習得は必須だ。


「料理か。いいわね。わたし、料理に興味があったの」


「それはいい。オレも簡単な料理はできるから教えるよ」


 五年くらいら一人暮らししていたから簡単な料理はできる。まずは台所の使い方からだな。


「とは言え、四人ともなると手狭になるな」


 中央ルームは約二十畳。そこに業務用冷蔵庫が二台と冷凍庫。流し台と炊飯器を三つ並べたラック。それぞれのタンス。そこにマットレスが三つ。ソファーと四人用のテーブルと、足の踏み場もないくらいになっているよ。


「ラザニア村にいるときは館の部屋で寝ることにするか。トイレや風呂はホームに入ればいいだろう。あ、風呂、少し大きくするか」


「お風呂、一つに纏めてはどうです? わたしはもう段差は気になりませんし、順番に入れば問題はないかと。トイレは四人もいるので二つは必要ですが」


「リフォームか。それならそんなに金はかからんかもな」


 ミリエルが使っているユニットバスとオレとラダリオンが使っているユニットバスを合体させれば八畳くらいにはなる。


 湯船を大きくすれば三人でも入れるだろう。もちろん、オレは一人で入りますよ。


 ミリエルの要望を聞き入れ、湯船は二畳くらいにしてシャワーを二台にして洗面所とは別にする。トイレは二つにして、玄関にも水道とトイレを増設した。


 二百万円くらい使ってしまったが、ホームはオレらの安全地帯。居心地がよくなければならない。二百万円くらい安いものだ。


「……銃の補充もしないとならないから三百万円は切るな……」


 あの苦労はなんだったろう? って思うくらいの減りであった。


「よし。ミロイド砦で挽回するぞ」


 職員とドワーフを連れていくからそんなに稼げないだろうが、それでもいくらかはプラスさせておきたい。


「いつ出発ですか?」


「明日、いや明後日、カインゼルさんとサイルスさん、ラダリオンが職員を連れて先行してもらう。次の日に第二陣。ミシニー、ミリエル、ビシャが向かってくれ。さらに次の日に第三陣、オレ、メビ、ドワーフを連れていく」


 詳しい計画はカインゼルさんたちにミサロのことを話してからだ。

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