第248話 救いようがない

「……そうか。タカトが決めたと言うならわしは従うさ」 


 投げやりでもなく、盲目的でもなく、カインゼルさんがそう判断したのは、短い付き合いでもよくわかった。オレが間違っていたらちゃんと言葉にして教えてくれる人だからな。


「ビシャとメビもいいか?」


 ここは、カインゼルさんの部屋(パイオニアを停めるための小屋ね)に集まり、食事をしながらミサロのことを説明したのだ。


「……うん……」


「……わかった……」


 二人は不承不承と言った感じである。


「二人のことは気にするな。駆除員のことはタカトたちで決めればいいんだ。わしら請負員らとは制約が違うんだからな」


 制約か。まあ、確かに駆除員はダメ女神に縛られる。請負員なら一年ゴブリンを駆除しなければ失効する。このクソったれな状況から逃れられるのだ。駆除員より請負員でいることがマシであろうよ。


「ありがとうございます」


 理解して、支えてくれる人がいると言うのは心強いものだ。万が一のとき、任せられるんだからな。


「明日はゆっくり休んで明後日はミロイド砦に移動してもらっていいですか? あちらも放っておくこともできないんで」


「あちらには魔王軍はいるのか?」


「いえ、女神の話では轟雷のロドスを倒せばこの辺の問題はなくなると言っていたので、魔王軍はいないでしょう。ただ、纏める者がいなくなったので逃げてしまった恐れもあるでしょうが」


 処理肉をばら蒔いて餌付けはしたが、もう十日はばら蒔いていない。エサを求めて散り散りになった可能性もある。いってみなければわからないな。


「ミロイド砦ではサイルスさんと職員に稼がせます。備品とか職員に買わせないといけませんからね」


 ペンとか紙は職員に買ってもらって管理してもらいたい。いちいちオレらが触るのは面倒だからな。


「巨人は連れていかないのか?」


「今回は外して、簡易砦で駆除させます」


 そもそも巨人は職人だ。ゴブリン駆除ばかりはさせられない。家族持ちも多いんだしな。


 詳しいことは明日の夜にミーティングすることにして、お疲れ会として用意したすき焼きを食べることにした。


 酒も一万円くらいの吟醸酒を出し、獣人姉妹には食後にデラックスなパフェを出してやった。


 お疲れ会が終われば館に向かい、オレの部屋に向かった。


 六畳ほどの狭い部屋だが、寝るだけの部屋。飲み物を入れたクーラーボックスと装備を置く棚があるだけ。


「暖炉か。どう使うんだ?」


 部屋には暖炉をつけてもらって、薪は各自で運ぶようにしてある。オレも一応、薪は運んである。が、暖炉とは無縁に生きてきた。薪を放り込んで火をつけたらいいのか?


 とりあえず、細い枝を入れて火をつけ、火力がついてきたら太い薪を入れた。


「お、意外と簡単だったな」


 煙も部屋に流れてこないし、想像より暖かい。安楽椅子に揺られてウイスキーをロックで飲むとかいいかもしんないな。


 まあ、今はそんな余裕はない。MINIMIの掃除が最優先だ。今日中に三丁は終わらせたい。


 職員を動員すればいいんだろうが、ミロンド砦から戻るだけでも二日の移動だ。明日休んですぐにミロイド砦に移動してもらう。さすがに休みなしはブラックギルドになってしまう。うちは職員に優しいホワイトギルドなんだよ。


 ……それでマスターたるオレが社畜になってりゃ世話ないがな……。


 二丁目が終わり、一休みにフロム・ザ・バレル様のハイボールを飲んでいると、ドアがノックされた。


 アポートウォッチを見れば二十三時前。夜回りか?


 一応、火の番的な見張りを二名配置してある。それかな? と思って返事したらシエイラだった。


「どうした? トイレは外だぞ」


 トイレと間違えて入ってきたのか? 案外、ドジ子なヤツだな。


「……そんなことあるわけないでしょう……」


「じゃあ、どうしたんだ? 夜も遅いんだから早く寝ろよ」


 居残り組とは言え、すべてのことはシエイラたち数人の職員たちがやらなくてはならない。まあ、激務じゃないにしても夜になれば眠くなるくらいは忙しいはずだ。


「マスターは眠らないので?」


「死んだように眠ったからな。もうしばらくは眠くならないな」


 フロム・ザ・バレル様の力を借りても眠気はやってこない。MINIMIの掃除が終わったら素振りでもするか。

 

「お酒ですか?」


「ああ。ハイボールだよ」


 職員数も少ないので酒はオレが提供し、自由に飲ませている。シエイラも酒は好きなようで、夕飯には角ハイボールを飲んでいたっけ。


「見ない瓶ですね」


 オレの手からコップを奪い、半分以上あったものを飲み干してしまった。


「飲みたいなら作ってやるから人のを奪うんじゃない」


 オレは気にしないが、気にするヤツだったら怒っているところだぞ。


「……マスター、女性と付き合ったことあります?」


「あるよ。失礼な」


 まあ、一人しか付き合ったことないし、一年もしないで別れちゃったけどな。


「フラれたのでしょう」


 うぐっ。古傷を抉るんじゃないよ。


「でしょうね。これでは……」


 なぜか呆れられるオレ。お前になにがわかる、とか言ったら図星の中心を抉るように刺されそうなので言わないけど。


 新しいコップを取り寄せ、ハイボールを作ってやった。


「飲んだら寝ろよ」


「そういうところですよ」


 なぜか頬をつねられた。どこだよ? 意味わからんわ。


「今日はここで寝ます」


 ハイボールをいっきに飲み干すと、ベッドに上がって毛布にくるまってしまった。いや、自分の部屋で寝ろよ。


「なんの嫌がらせだよ?」


 追い出そうにも寝息が聞こえたので諦め、MINIMIの掃除に取りかかった。シエイラの嫌がらせに付き合ってらんないんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る