第108話 また上位種

 六日目、昨日までの雨がウソのように快晴となった。


「よし。やるか」


 カインゼルさんの家に向かうと、パイオニアを小屋から出して洗車していた。よほど気に入ってるんだな~。


 オレも初めて車を買ったときは毎週のように洗車してたっけ。まっ、五年も過ぎたら一月に一回になってたけど。


「おはようございます。やっと晴れましたね」


「ああ。今年は雨が長いから冬は雪が降るかもしれんな」


「雪? ここ、雪降るんですか?」


 降らない地かと思ってたよ。


「年に一回か二回降るくらいだが、何年かに一回は一面銀世界になるよ」


 何年かに一回なら雪上車とか買う必要はないか。パイオニアで乗り切れるな。


「朝飯食ったらゴブリン駆除に出かけますが、カインゼルさんはどうします? なにかあるならそちらを優先してもらって構いませんよ」


 カインゼルさんは請負員。やるもやらぬもカインゼルさん次第。強制はしない。基本、剣を教えてもらうのがメインだからな。


「いや、わしもやるよ。ゴブリン狩りもやってみると楽しいからな」


 それは羨ましい。オレは一向に楽しいと思えないよ。


「では、三人でやりますか」


「ミリエルは残りか?」


「ええ。支援を任せます。またゴブリンに集まられたら困りますからね」


 今回はそうならないよう注意はするが、万が一に備えてセフティーホームにいてもらう。まあ、一日くらいは気晴らしに連れていこうとは思うけどな。


「じゃあ、朝飯が終わったら小屋に集合ってことで」


「装備はどうする?」


「カインゼルさんはスコーピオンでいいですよ。こちらで用意しますから」


 そう言って小屋からセフティーホームに戻った。


 今日はひとまず道を覚えることを主としてるので、装備はチェストリグに纏め、腰のベルトはマガジンポーチとナイフだけにした。


 ラダリオンはHスナイパーにして狙撃してもらい、カインゼルさんはオレの指示で撃ってもらいます。


「いってらっしゃい」


 電動車椅子で出てきたミリエルに見送られ、ゴブリン駆除へと出発した。


「まずはミスリムの町に向かいます」


 約束した方位磁石を渡さないといかんからな。


「クソ。あれだけ駆除したのにまた集まってるな」


 アルート川につくまで三十匹くらいの気配があった。本当はリポップしてんじゃないかと思うよ。


「駆除しなくてよいのか?」


「また集まられても困りますからね、街に近いところから攻めていきます」


 一匹駆除したら少し離れてまた一匹駆除。一撃離脱戦法でやっていこう。


 てか、渡る度に金を払うって本当に面倒だな。定期パスとかないのか? ないですか。残念です……。


 ミスリムの町に入り、ギルド支部の前で停車、二人に残っててもらい、オレ一人で入る。


「タカトさん! おはようございます!」


 と、以前の女性職員が満面の笑みで駆け寄ってきた。な、なんですか!?


「ライドさんはいらっしゃいますか?」


「申し訳ありません、支部長は朝から本部にいってます。午後には帰ってくると思います」


 ギルドマスターのところか。支部長ともなると忙しいんだな。


「そうですか。では、これをライドさんに渡してください。代金は後日で構いません。あと、これ差し入れです」


 オレの話よりオレの右手に持つものに目が釘づけなので、ドーナツが入った箱を渡した。


「ありがとうございます!」


 満面の笑みに気圧されながらそそくさと支部をあとにする。なにか危険を感じたので。


 すぐにパイオニアに乗り込み、すぐに発車させた。


 ミスリムの町を突き抜け、まずは南に向かってみた。


 この道を進めばミシニーが拠点としているコレールの町に続くようだが、途中から街のほうに右折して少しいくとまた橋が現れた。


「ここも金を取られるんですか?」


「ああ。橋税があるからな」


 なにその税? ぼったくりじゃね? とは思うが税なんて取れるところから取るもの。文句を言っても仕方がないか。


 しょうがないと銅貨十枚を払って橋を渡った。


 しばらく農道っぽい道をゆっくり走っていると、農夫らしき男たちが道を塞いでいた。


「どうしました?」


 パイオニアを降りて農夫らしき男たちに声をかけた。木札を見せながら。


「冒険者か?」


「正確には準冒険者です。ギルドマスターからゴブリン駆除を依頼されて見回っているところです。よければゴブリンの情報があったら教えてもらえませんか?」


 ゴブリンがいることはわかっているが、周辺住民を敵にしてはならない。工場だって周辺住民との交流をして理解されないと、なにかあったとき酷い突き上げを食らうことがある。まずは住民説明が未来の問題を解決するのだ。


「すばしっこいゴブリンが出て家畜を食われたんだ、なんとかしてくれ」


 いるな。すばしっこく動いてるのが。


 パイオニアの荷台に上がり、双眼鏡を出して逃げていくゴブリンを捕らえた。


「赤いゴブリンがいます。おそらく上位種でしょうね」


 確かに速い。二足歩行の生き物が出せる速度じゃないぞ、これ。五、六十キロは出てる感じだ。


「ラダリオン。Hスナイパーを貸してくれ」


「はい」


 Hスナイパーを受け取り、上位種に銃口を向ける。


 距離は約三百メートル。動いている相手では難しい距離だが、止まってくれたらチャンスはある。機会を待て、だ。


 スコープ越しに上位種の気配を映し、四百メートルくらいのところで止まった。


 気配の中心点に合わせ、心を落ち着かせたら引き金を引いた。


 当たった! が、致命傷にはなってない。


「カインゼルさん、運転お願いします! 止めを刺します! ラダリオン、支えてくれ」


 上位種に銃口を向けたまま叫び、カインゼルさんが運転席に。ラダリオンは後部座席から腰のベルトをつかんで支えてくれた。


「いくぞ! 振り落とされるなよ!」


「了解!」


 返事をすると同時にパイオニアが急発進した。

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