第109話 上位種マーヌ

「十時方向、距離二百!」


 方向と距離の指示を出す。


「了解!」


 長い間、戦いに身を置いていた人だけあって、十二時の方向概念、敵との距離感を覚えるのはあっと言う間だった。


 ただ、農道は細かく整備されてないし、細道が多いのでパイオニアが通れる道は決まってくる。


「四時方向、距離三百!」


 あちらも逃げるので必死。数秒毎に方向と距離が変わってくる。


「タカト! ラダリオンに止めを刺させろ! わしらで追い立てるぞ!」


「了解! ラダリオン、あいつの熱は捕らえてるな?」


「捕らえてる。臭いも覚えた」


 さすが名犬ラダリオン(あ、誉め言葉だからね)。


 パイオニアを止め、ラダリオンが降りたら急発進。上位種の位置を指示しながらラダリオンのほうへと追い立ていく。


 追い立てること十五分。ラダリオンがいる方向へと逃げ出し、二十分後にラダリオンが上位種を倒した。


 近くまで向かい、パイオニアを停めて上位種のところへ向かった。


「……こんなゴブリンまでいるのか……」


 二足歩行なくせに四足歩行に進化したかのような身体構造。手足の爪なんて犬とかの爪みたいだぜ。


「おそらく、マーヌと呼ばれるゴブリンだな」


「マーヌ、ですか」


「わしも噂話でしか聞いたことないが、走ることに特化したゴブリンで、人間の子供を食い殺すと言われている」


 ゴブリン、本当に厄介。不本意ではあるが、ダメ女神が嘆くのもよくわかるぜ。


「とりあえず、道まで運んで農夫たちに見せましょう」


 オレらの成果を見せてオレらの行動を知らし、理解させるためにな。


 パイオニアまで運び、マーヌの足にロープを括りつけ、先ほどの農夫がいたところまで戻った。


「こいつか!」


 戻って農夫たちに見せたら一人の男が棒でマーヌを叩き出した。な、なに!?


「ロイズの子が食われたんだよ」


 びっくりしてるオレに年配の男性が教えてくれた。なるほど。そりゃ殴りたくもなるはずだわな。


「そう言う被害は多いので?」


「毎年あることだが、今年は八人も食われたよ」


 噂通りの存在ってことか。


「あなたたちはこの辺の集落に住んでるので?」


「ああ。ボルシチ集落のもんだ」


 ボ、ボルシチって。誰が名前つけてんだよ? 前任者たちか? だったらもっとマシな名前をつけろや!


「そこに案内してもらえますか? ゴブリン被害がどんなものか教えてください。オレらはゴブリンを駆除するのを生業としますが、土地土地でゴブリンの生態や習性が違うんです。その土地のゴブリンを知れば駆除するのも楽になるんですよ」


 ってことを言い、集落の人たちの信頼を得て協力体制を整える。信用信頼は大切だからな。


「ああ、わかった。案内しよう」


「あ、そのゴブリンはすぐに埋めてください。掘り返されないように」


 パイオニアはカインゼルさんに任せ、オレは農夫たちと歩いて集落へと向かった。


 ボルシチ集落は八軒くらいしかない小さな集落で、五十人くらいが暮らしているそうだ。


 集落の男たちが集まったらゴブリンの被害を聞かせてもらった。


 大半が辺境伯の愚痴やらゴブリンの悪態だったが、被害はかなり酷いってことは理解できた。


「マーヌ以外は普通のゴブリンのようですね」


 あんなのが何匹もいたら効率が悪すぎる。雑魚をより多く駆除するのが理想である。


「この集落の代表者は誰ですか?」


「わしだ」


 と、先ほど子供を食われたことを教えてくれた年配の男性だった。


「これからゴブリンを四十匹くらい駆除しようと思うのですが、集落の男性を貸してもらえませんか? ゴブリンは一ヶ所に集めすぎると臭いを出して仲間を呼び寄せる習性があるんです。だから、倒したらすぐに穴に埋めるのが適切なんです」


 死んでも臭いを出すかまではわからんが、共食いされるのも困る。殺したらすぐ埋めたほうがいいはずだ。


「四十匹も倒せるのか!?」


「穴を掘る人がたくさんいればもっと倒せます」


 オレの察知できる範囲には二百匹以上いる。ほんと、どんだけいんだよって話だ。


「本当なのか?」


「オレらはゴブリン駆除を生業としています。たくさん駆除すれば儲かるし、駆除できなければくたびれ損。ただ、それだけですよ」


 年配の男性に肩を竦めてみせた。


「……何人いればいい?」


「周囲に結構な数がいますし、三人バラけて動けば百匹は駆除できますから一人につき四、五人いれば助かりますね」


 最初の計画から外れてしまうが、片付けてくれる人員がいるならバラけて駆除したほうがたくさん駆除できるだろう。


「わかった。他の集落にも伝えて人を集める」


「じゃあ、昼まで少し駆除します。一人か二人、つけてもらえますか?」


 あと一時間くらいある。待ってるのもなんだし、近くに潜んでいるのを駆除しておこう。 


「わ、わかった。手の空いてる者は手伝ってくれ。バル、サニル、ヨシアは他の集落に走って人を集めてこい」


 集落長? 集長? の声で男たちが動き出した。


「ラダリオン。カインゼルさん。そう言うことで十二時まで駆除します。無線機を入れてください」


 無線機の通信域から出ることはないだろうが、一応、時間を決めておく。あ、二人には腕時計を渡して見方も教えてます。


「ああ、わかった」


「わかった」


「では、お互いの距離を保ち、怪我のないように」


 それぞれ装備をして三方に散った。

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