第110話 集落

 昼までにオレ一人で三十匹は駆除できた。


「まずまずだな」


 今日の分は稼げたし、プラスにもなってる。この調子なら午後もたくさん駆除できそうだ。


「……たったあれだけの時間でこんなに狩るとは……」


 年配の男性、部落長(集落をいくつか纏める人でした)のロイドさんが手伝ってくれた人たちから聞いて驚いている。


「どこか深い穴を掘れる場所はないですか? 皆さん、穴を掘るのが大変そうなので」


 数匹纏めて埋めてはいるが、一メートル掘るだけで三十分はかかる。午後から本格的に駆除し始めたら追いつかなくなるぞ。


「それなら家畜を放してるところに穴を掘ろう」


 と言うので、駆除したらそこに埋めてもらうことにした。


「運ぶものはあるので?」


「刈り入れのときの押し車がある」


 なんでも集落でリヤカー的なものを何台か所有してるそうだ。


「そうだ。手の空いてる女性を集めてもらえますか? 協力してもらうわけですから謝礼として食事の材料を出します。女性陣に料理をお願いできますか?」


「こちらとしては助かるが、それだとあんたらの儲けが少なくなるだろう?」


「ゴブリンを殺してそのまま放置、なんてしたら近隣住民から非難轟々です。それを避けられるなら料理の材料費くらい安いものですよ」


 住民運動ほど怖いものはない。法があるようでないところなら尚さら注意だ。避けられる問題は避けておくべきだろうよ。


「……あんた、変わってるな……」


「オレから言わせてもらえばそれすら考えられないヤツが多くて嫌になりますよ」


 なんて偉そうなこと言うほど立派なもんでもないが、なにもしないのは論外。恨まれるのは自業自得。斬首台に上がったときにでも後悔しろ、だ。


 集落の広場を借り、セフティーホームから寸胴鍋や食材を運び出した。もちろん、驚かれたが魔法って説明してくれると信じてくれるから助かるよ。


「野菜を切って最後にこの塊を入れて味を調整してください」


 今回は牛乳なしで、ソーセージ入りのシチューでござい。


 女性陣に作ってもらっている間にラダリオンとミリエルの昼飯を用意し、オレとカインゼルさんは集落の人らと一緒に昼を摂った。同じ釜の飯、ってのは団結力を育てるのに持ってこいの手段だからな。


「すみませんね、付き合わせて」


 さすがにオレだけってのも説得力がない。なのでカインゼルさんにも付き合ってもらったのだ。


「構わんよ。温かいものを食えるだけで幸せだからな」


 理解ある人でなによりだ。


 作るのに時間がかかったので午後は一時半くらいから始めことにした。


 地面にここら辺の地図を描き、それぞれ受け持つ場所を決める。


「三時にまたここに集合しましょう」


 そう告げ、午後を開始した。


 ラダリオンがちょっと心配だが、無口なだけで必要なことはちゃんとしゃべるし、無線機はイヤホンではなくスピーカーで聞くようにしてある。小まめに連絡しておけば周りが察してくれるだろう。


「ラダリオンをよろしくお願いします」


 一応、ラダリオンについていく人たちに声をかけておく。


「ああ。わかった」


 初老の男性が代表して答えてくれた。部落長も考えて配置してくれたようだ。気遣いに感謝です。


 部落長さんに視線を向け、一礼して集落を出発した。


「オレの前に立たないでください。オレらが使う武器は弓より強力なんで」


 事前に説明はしたが、大事なことなのでもう一度言っておく。当たったら洒落にならんからな。


「あ、ああ。わかった」


 皆さんが頷いてくれたのでさっそく隠れているゴブリンに銃口を向けて引き金を引いた。


 久しぶりのP90だからか狙いがズレる。一発で倒せなかったよ。


 それでもやっていれば慣れてきて、三時までに三十四匹を駆除できた。


 こう言う稼ぎ方ができたらオレの生涯安泰なんだけどな~。なんて夢想はさっさと捨て、二人に戻るように告げて集落へ戻った。


「……あんたら、凄いな。この短時間でこれだけの数を狩るなんて……」


「オレたちにとったら嬉しい限りですが、よくこれだけの数がいてよく収穫できてたことにびっくりですよ」


「秋になる前に朝晩問わずに追い払ってたんだよ。お陰で秋は倒れる者が続出だ」


 寝不足な上に刈り入れという重労働。この世界の農業は命懸けだな。


 一息ついてからラダリオンに空のマガジンをセフティーホームに運んでもらい、弾が入ったマガジンを持ってきてもらった。やっぱ、入れてくれる者がいるって楽でいいわ。


「五時までは集落の北に向かって、明日はもう少し離れた集落に移りますか」


 この集落を中心に三百メートル範囲のゴブリンを大体駆除し、逃れたものは他へと移ってしまった。また集まってくるだろうが、今日のように百数十匹も駆除できないだろう。なら、場所を移したほうが効率的に駆除できる。


「別の場所にいくのか?」


 オレらの話を聞いた部落長のロイドさんが割って入ってきた。


「ロイドさんは、ゴブリンがなぜこれだけいるか考えたことはありますか?」


「え、いや、ない、な……」


 いるのが当たり前。畑を荒らす害獣としか思ってないんだろうよ。


「ゴブリンだって食わなきゃ生きられません。じゃあ、麦が実るまでなにを食って生き延びていると思います?」


「…………」


 それすら考えたこともないって顔だ。


「虫やネズミなどの小動物を食べてるのでしょう。これまで虫の被害やネズミの被害とかありましたか?」


「……いや、ない……」


「ゴブリンは憎い相手ですが、それらを防いでいる事実もあるんですよ。そんなゴブリンがいっきにいなくなったら。考えなくてもわかりますよね?」


「…………」


 まあ、わかっても納得はできないだろうけどな。


「オレらにできるのはゴブリンの数を減らすくらい。あとは辺境伯の政策です。まあ、ものは考えようです。今まで十やっていた仕事が二まで減る。皆さんには嬉しいことじゃないですか」


 八割も仕事が減るなんて革新的のこと。それで納得できないなら自分らでなんとかしろ、だ。


「まっ、少なくとも今年は楽ができるんだからいいじゃないですか。さあ、五時までたくさんゴブリンを駆除しますよ」


 あと一時間ちょっと。稼ぐぞ!

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