第147話 サロン

 このままラザニア村に帰路──とはならず、皆で城にいくことになってしまった。


 事情聴取なら受けると言ってしまった手前、断ることもできず、この際だからラダリオン、ビシャ、メビの顔合わせもさせておこう。セフティーブレットがコラウス辺境伯領で活動するためにもな。


 先頭を馬に跨がった兵士たちが進み、オレらがそのあとを続いた。


 兵士がいるからか橋代はタダになり、街に入ってからも交通規制(?)されてスムーズに城へと入れた。


 ……またこの厩前か……。


 随分と昔のような感じはするが、ここにきたの昨日のことなんだよな。


 執事だか侍従だかが現れて、武器を預ける。また襲撃がないことを切に願います。


「今日はゆっくり休んでくれ。サウナを用意させよう」


 侍女だかメイドだかに部屋へと案内され、オレとカインゼルさん、ラダリオン、ビシャ、メビの二部屋に別れた。


「ちょっとホームにいってきます。なにか飲みますか?」


「いや、サウナあとに飲むよ。今飲んだら酒がもったいないからな」


「ここの人ってサウナが好きですよね。オレは長いこと入ってられないですよ」


 サウナあとのビールの美味さは知ってるが、だからと言って進んで入りたいとは思わない。そもそも風呂も滅多なことじゃ長風呂しないし。


「まあ、この辺の風習みたいなものだからな。領外は体を洗うのも希だそうだ」


 それはまた臭そうだ。近づきたくないものだな。


 ホームに戻ると、ラダリオンが先に戻って寿司を爆食いしていた。一時間前も食ってただろう。眠らないと燃費が悪くなるのか?


「城でも出してもらえるんだから抑えておけよ」


「大丈夫。別腹だから」


 お前は胃を複数持ってるのか? デザートは別腹って域じゃないぞ。


「ミリエルは眠ったか」


 マットレスに辿り着く前に限界を迎えたのだろう。座椅子を枕にして眠っていた。


「ご苦労さんな」


 マットレスまで運び、タオルケットをかけてやる。ゆっくり休めな。


 シャワーを浴び、新しい服に着替え、ビールを一缶飲んだ。カァー! 美味い! もう一杯──は、我慢だな。


 ウイスキーとワイン、ソーダと氷を持って城の部屋に出る。


 サウナにでもいったのかカインゼルさんはおらず、なんかお茶のセットが載ったワゴンが置いてあった。


「さすが貴族のお城。ワゴンからして高そうだ」


 ソーダ割りにしようかと思ったが、この世界のお茶にウイスキーが合うか試してみるか。ウイスキーのお茶割りって好きなんだよな。周りには変な目で見られるけど。


「完全に紅茶だな」


 せっかくの異世界なんだから異世界らしいお茶を飲んでみたかった。まあ、ウイスキー紅茶割りも好きだからいいけどさ。


「いい匂いだ」


 のんびり飲んでると、ドアをノックされた。どうぞ~。


「失礼します。食事の用意が整いましたので食堂へお越しくださいませ」


「わかりました」


 侍女だかメイドだかに案内されて食堂に向かうと、領主代理だけがいた。


「カインゼルはサイとサウナだ。獣人の姉妹は寝てしまったよ」


 まあ、ビシャとメビは城についたときから眠ってて、侍従だかに運ばれていたっけ。ラダリオンはホームからまだ戻ってないか。


「そうですか。まあ、ビシャとメビはそのまま寝かせてください。ラダリオンはそのうち戻ってくるのでお気になさらず」


「なら、食堂は広いな。場所を移して酒でも飲みながら食事をしよう」


 食堂の横のサロン(?)に場所を移し、酒のツマミが運ばれてきた。


 執事だか侍従だかの男と侍女だかメイドだかがついているので領主代理と二人っきりではないが、地位ある人と向かい合うとか気が重くて仕方がない。酒飲んでてよかった。


「昨日から、いや、タカトが我が領にきてから助けられているな。感謝する」


 軽くではあるが頭を下げて感謝を表す領主代理。貴族とかよくわからんが、地位ある人が下の者に頭を下げるなんて社長が平社員に頭を下げるようなもの。恐れ多くて胃に穴が空きそうだわ。


「自分のためにしたことですが、感謝は受け取らせていただきます」


 否定したり断ったりするのは非礼になる、はず。ここは受け取っておくほうがベストだろう。


「このウイスキーとやらはいいな。最初は焦げ臭いと思ったが、飲みなれるとこの焦げ臭ささがなんとも奥深い味に感じる。果物の甘さもあり、木の香りもあり、いろんな味を感じさせてくれる。氷で飲むのもいいが、そのまま飲むのがよりよくこの酒の美味さがわかる」


 昨日飲んでよくそこまで馴染めるものだ。ウイスキーを美味いと感じるようになったのは最近だぞ。それとも年齢を重ねるとすぐにわかるものなのか?


「ウイスキーは何百種類とあるので、お口に合うものを探すといいですよ。材料、樽、年数、水、土地で味が違ってきます。飲み方もいろいろ。お勧めはこのソーダで割るといいですよ。ウイスキー1にソーダ3か4。氷があれば尚よしです」


 オレはバーテンダーでもないので適当な配合だが、自分なりの配合を見つけるのもウイスキーの楽しみ方だろうよ。


 侍女だかメイドだかにソーダと氷を差し出し、作ってやってくださいと目で訴えた。


 よく教育されてるようで、畏まりましたと答えてハイボールを作った。手慣れてますこと。


「うん。美味いな。食事に合いそうだ」


「油で揚げた肉によく合いますよ」


 唐揚げとの相性は抜群。ビールよりハイボールだな。


「それは美味そうだ」


「食事に、一息に、寝る前に、ウイスキーはいいですよ」


 工場の給料じゃ安いウイスキーしか買えないが、オレの舌にはそれで充分。でも、高いのが飲めるなら飲むけどな。


「それはいい。サイにはゴブリン狩りをがんばってもらうとしよう」


 ギルドマスター、がんばってください。

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