第146話 帰路
長いこと茫然としてたようで、ゴブリンの王を倒したギルドマスターとカインゼルさんがやってきていた。
「タカト、なにがあった?」
「……黒幕が現れました。女神によると魔王軍幹部だそうです……」
これは隠し通すことはできない。報告しなければオレの立場がなくなるほどのことだ。だが、すべてを語ることはできない。言ってしまったらミサロに言ってしまった言葉が嘘になる。自分でもよくわからないが、それはダメだと思うのだ。
「どんなヤツだったのだ?」
「顔をベールで隠してたのでわかりません。ふふ。魔王軍に誘われましたよ……」
自嘲気味に笑う。まあ、なってるかわからんがな。
「返事はなんと?」
事と次第によっては許さんと言う顔をするギルドマスター。魔王軍との関係がよくわかるな。
「オレは異世界からきた人間ですが、人間を殺すなんてゴメンですよ。そこまで堕ちたくない」
それに嘘偽りはない。人間を殺す人生など送りたくないわ。
「お前らしいな。だが、自分の命を奪うヤツには殺されてやるなよ。それはお前の誇りを汚すものじゃないし、汚されていいものではない。お前は死んでいい人間ではないのだからな」
ギルドマスターに背中をおもいっきり叩かれた。
「……ええ。そうします。まだ死にたくないので」
生きて責任を果たす必要もある。放り投げはできんよ。
「弱いようで強いヤツだよ」
「オレは弱いですよ。弱いから強くあろうと足掻いてるだけです」
強かったらこんな苦労してないわ。
「事情聴取ならあとでいくらでもします。今はここを離れましょう。まだゴブリンの残党がいますから」
八割は倒したと思うが、命令を解かれたゴブリンがあちらこちらにさ迷っている。もう精神も肉体もボロボロのオレには対抗できない。さっさとこの場から離れたいよ。
「そうだな。さすがにこれだけの死体の山では病気になりそうだ」
「カインゼルさん。パイオニアの場所はわかりますか?」
「ああ、問題ない。タカトを見習ってちゃんと方角を調べながら進んだからな」
方角って大事だよね。方位磁石を考えた人に万歳三唱を。
「ビシャとメビをお願いします。ラダリオンとゴルグには申し訳ありませんが、歩いて降りてもらいます」
疲れ果てたゴルグを一人にさせるのも悪い。ラダリオンについててもらおう。
「わかった。一度、下で合流しよう。領兵が出るそうだからな」
「もう下にはきてるだろう。王の検分もあるからな」
そう言うことなら従うのみ。無線機のスイッチを入れ合って各自、山を下りた。
兵士がここまでこられるように木に印をつけていき、二時間かけてやっとパイオニア二号へと戻ってこれた。ふー。
「少し休憩しましょう」
ホームに戻り、ミリエルに状況を説明してたからミルクティーとコス○コのフルーツケーキを持って戻ってきた。
「うんうん。勝利の菓子は格別だ!」
そ、そうか? まあ、ギルドマスターが喜んでいるなら水をさすようなことは言わんけどさ。
オレは缶コーヒーを飲み一服する。
仕事終わりのビールも美味いが、休憩に飲むコーヒーもまた美味いぜ。
鳥の鳴き声を聞きながらぼんやりしてたらゴルグとラダリオンが道を下ってきた。ラダリオンたちもこの道を使ったのか?
「お前らも休憩してけ。ラダリオン。ホームからワインを持ってきてやってくれ」
ここまでこれば安全だろうし、下まで二キロちょっと。多少眠ってしまっても夜にはラザニア村まで帰れるはずだ。
「わかった」
ラダリオンに持ってきてもらい、休憩してたらパイオニア一号が降りてきた。やはりこの道から入ったんかい。
カインゼルさんたちも混ざり、もうここで昼にすることにした。
食べ終わってのんびりしていたら巨人のままでいたラダリオンが立てかけていたSCARをつかんだ。
「誰かくる」
オレらも銃をつかみ、ラダリオンが見る方向に警戒した。
「冒険者の斥候だ」
とはギルドマスター。領主代理は冒険者ギルドまで動かしたのか。
やってきた冒険者の斥候は、ギルドマスターがいることにびっくりしている。そりゃそうだ。
「ゴブリンの王は倒した。すまんが、兵を連れてきてくれ」
「わ、わかりました! ミローズとワーグは先を探れ。おれが報告してくる」
斥候が二手に別れ、一人はきた道を戻っていき、三十分もしないで兵士の一団がやってきた。
「カインゼル様!?」
ギルドマスターに声をかける前にカインゼルさんに気がついて驚く四十くらいの兵士。年齢からしてカインゼルさんの元部下かな?
「ラズ。久しぶりだな。今はお前が第二隊を率いているのか?」
「はい! 去年から任せていただいております!」
直立不動で敬礼するラズさんとやら。兵士長時代のカインゼルさんがどんなだったかを想像させてくれる姿である……。
「カインゼル。兵への説明はお前に任せる。おれは冒険者に説明するんでな」
ラズさんとやらには気の毒だが、元上司からの説明なら納得してくれるだろうし、兵士の後ろにいた冒険者たちにはギルドマスターからのほうがよく聞いてくれるだろうよ。
「ゴルグ。お前たちは先に帰ってていいぞ。ビシャとメビはパイオニアで眠ってろ。あとはオレとカインゼルさんで大丈夫だから」
「そうさせてもらうよ。徹夜だなんて滅多にしないから辛くてたまらんよ」
ふらふらとしながら兵士や冒険者を踏まないよう山を下っていった。
「ラダリオン。少しここを頼む。ミリエルの説明や夕飯の準備をしてくるからよ」
「ステーキが食べたい。チョコレートパフェも食べたい。ラーメンが食べたい。お寿司が食べたい。鰻食べたい──」
眠気を食欲で補ってるのかラダリオンからの要求が止まらない。
「わかったわかった。なんでも食わせてやるからしばらく頼むな」
「焼き肉」
そこはわかっただろうが。焼き肉で頷くんじゃないよ。
ため息一つ吐いてホームに入った。
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