第145話 魔笛
「うん、まあ、こんなものか」
イメージしてたのよりショボい爆発だったが、まあ、ゴブリンどもをパニックにさせることには成功できたんだからよしとしておこう。うん。
「ラダリオン。銃と弾を持ってきてくれ。ビシャとメビは休め。カインゼルさんは……大丈夫なようですね」
うっすらと汗をかいてるくらい。元気な五十代だ。
「数年の空白はあったが、このくらいでへばるような訓練はしてないさ。まあ、さすがに徹夜は堪えるがな」
兵士、どんだけだよ? 城の兵士もあんなバケモノみたいなワズールと剣や槍で戦ってた。兵士とやり合うのは止めておこうっと。うん。
「それで、王はどうした?」
「ギルドマスターが相手してくれてます。まだ死闘中ですね」
「ギルドマスター? サイルス様がか?」
あれ? オレ、ミリエルにギルドマスターがついてきたこと言わなかったっけ? 言った……記憶がない。こりゃ言ってない感じだ。
「ええ。なんか流れでギルドマスターを請負員にしたら一緒に、ってことになりました」
「あの方もギルドマスターになって落ち着いたと思ったが、今も変わらずか」
ギルドマスターは昔からあんな感じだったようだ。
「ん? ゴルグがこちらに向かってますね」
しばらくして疲れ切ったゴルグがやってきて、オレらを見るなり崩れ落ちてしまった。
「そのまま休んでろ。あとはオレらでやるから」
返事もできないようで、そのまま気を失うかのように眠ってしまった。
「カインゼルさん。少し休んだらギルドマスターのところにいってください。オレでは援護もできませんから」
「わかった。サイルス様にもしものことがあったらミシャード様に顔向けできんからな」
まだコラウス辺境伯に忠誠があるんだ。物乞いするまで転落したのに。
取り寄せたコ○ダ珈琲店カツサンドを食べ、オレンジジュースで流し込んだら大型のククリナイフを腰に二本差して駆けていった。
「G3はどうしたんだ?」
「壊れたから捨てた。ピーも」
「タカト、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
ビシャとメビが申し訳なさそうに謝った。
「気にするな。銃は消耗品。壊れたらまた買えばいい。それより、今のうちにしっかり食っておけ。まだまだ続くんだからな」
うんと、出したカツサンドを元気よく胃に収めた。
徹夜したってのに元気な胃を持ってる。オレはエナジードリンクを飲むのも辛いってのによ……。
「ラダリオンは大丈夫か?」
あまり食ってないけど。
「撃ちながら食べてたから大丈夫」
「そ、そうか……」
まったく、器用なやっちゃ。
「ラダリオン。元に戻って二人とゴルグを頼む。オレは下のを片付けてくるから」
「わかった」
その場を任せて崖を滑り降り、炎で肺でも焼かれたのか、苦しむゴブリンに止めを刺していった。
粗方止めを刺し終わると、ギルドマスターと対峙していたゴブリンの反応が消えた。
「二時間にも及ぶ死闘か。どちらもバケモノだな」
この世界の人間、どんだけなんだよ? 本気出したらゴブリンくらい絶滅させられんだろう。オレを連れてくるよりやる気を出させたほうよかっただろうがよ。クソが!
「さて。王は倒され、配下のゴブリンも八割方駆除できた。そちらの思惑は砕かれたと言っていいだろう。まだやるか?」
なに言ってんの? と思われる方もいらっしゃるだろう。オレもなに言ってんだ? とは思う。だが、これは賭けだ。ハッタリだ。なにもなかったら赤面もの。恥ずかしさで悶え苦しむかもしれない。それでもここだと思うのだ。オレが油断する瞬間は。
沈黙が流れる。十秒、二十秒と時が流れる。あ、これは黒歴史になるかも? と思った瞬間、木々の間からベールで顔を隠した女が出てきた。
人間、ではない。オレが察知できている。ただ、薄い。気配はあるのにやたらと薄いのだ。
気配を殺して隠れているのかと思ったら、そもそもが薄かったのか。
「ゴブリンの中にも完全な人型がいるとはな」
そう言ったら憤怒の表情になる女。マジ怖い……。
「……わたしは人間だ……!」
そう主張するが、オレが察知できてる時点で目の前の女はゴブリンだ。たとえ人間の心を持ち、見た目が人間でもな。
「お前がどう主張しようと構わない。オレはお前の気配がわかる。その胸にある笛の音も聞こえる」
たぶん、胸にかけたオカリナっぽいものでゴブリンを操っているのだろう。あ、お洒落ですとか言ったら詐欺だとブチ切れるわ。
「やはり、女神の使徒か」
おい、ダメ女神。どう言うことか説明しろや! 聞いてないことばっかりだぞ!
──ピローン!
魔王軍幹部、魔笛のミサロだよ。人間とゴブリンのハーフ。まさかできちゃうとかびっくりだよね。あ、エロ展開は望んじゃダメだぞっ♥️
「誰も望んじゃねーよ! 黙ってろや、クソ女神がぁっ!」
どうしてあのダメ女神は人の気持ちを逆立てるんだよ! お前の失敗を肩代わりさせられてる身にもなりやがれってんだ! クソが!
「……お前、女神を憎んでいるようね……」
「別の世界から無理矢理この世界に連れてこられてゴブリン駆除を強制される。これが憎まずにいられるか! クソがクソがクソが!」
オレに力があるならダメ女神をおもいっきりグーで殴ってやるわ!
「だったら魔王軍にきなさい。女神を憎む魔王のために力を貸しなさい」
「断る! オレは人間だ! 人間の敵になって人間を殺す人生などしたくないわ!」
この世界にいたらいずれ人を殺すときがやってくるかもしれない。そうなったら後悔に苦しむだろう。だが、自ら進んでなんてゴメンだわ。
「お前が人間だと言うならお前がこちらにこい! オレが人間として、ただのミサロとして見てやるよ!」
あれ? オレはなにを言ってんだ? なんかとんでもないこと言ってないか?
「──う、うるさい! 黙れ! 人間など滅びてしまえ!」
まるで駄々っ子のように叫ぶと、木々の間に消えていってしまった。
しばらく茫然としてたが、突然、気が抜けて膝から崩れ落ちてしまった。
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