第144話 罠
「まだいんのかい!」
口から火の玉を発射する上位種がまた現れた。
八十メートルの距離をものともしないその威力。山の中で火を使ってはいけませんと親に教えられなかったのかよ! クソが!
唯一の救いは連射性がないってこと。撃ったあとは一、二分のインターバルが必要で、口の中に火の玉が作られるまで三秒くらいかかり、飛んでくるまでまた三秒くらいかかるからなんとか避けられる。
あれ? 冷静に考えたらそれほど脅威じゃなくね?
あの上位種は目でオレを捕捉して、その場に止まったら火の玉を生成して撃ってくる。まあ、崖を登ってくるゴブリンどもを相手しながらはキツいが、そこはフラッシュ攻撃で阻害できる。
上位種がこちらを見た瞬間に強力ライトでフラッシュ攻撃。目を背けた瞬間に弾を食らわせてやればハイ終了。人間様をナメんじゃねー! でも、ナメててくれると助かります。オレ、まだ素人の粋にいるんで。
もう百匹は倒したんじゃないかと思うのに、ゴブリンが枯れることはない。
「さすがに新品でも撃ち続けるのは無理っぽいな」
もう三百発は休みなく撃っているし、銃口から煙が上がってる。まったく、耐久テストやってんじゃないんだよ!
スタングレネードを三個ばかり投げ放ってからホームに入った。
「ミリエル。こちらは王の隊に仕掛けてる。今のところ被害はない」
そう言いながら箱マガジンをセットしてくれたMINIMIと箱マガジンをつかんですぐに戻った。
十五秒も入ってなかったのに崖の半分まで登ってこられていた。
すぐに撃ち殺していき、すぐに撃ち尽くし、すぐに交換して、また撃ち殺していく。
四百発も撃つとさすがにゴブリンの数が減ってきて、恐怖を覚えた者が少しずつ下がっていった。ゴルグのほうに意識を向けると、そちらもゴブリンが下がっている。誰かの呪縛より恐怖が勝ったかな?
「ギルドマスターは……戦ってるな、デカい気配と」
応援にいきたいところだが、連携の取れないオレがいっても迷惑なだけだろう。なら、周りのゴブリンを排除したほうがよっぽど援護になるだろうよ。
またホームに入り、ミリエルが軽く掃除してくれたVHS−2に持ち換えて外に出た。
崖から滑り下り、隠れているゴブリンを駆除していく。
「第二陣の生き残りがこちらにくるな」
ほぼ瓦解した第二陣だが、それでも百匹以上はいる。恐怖を覚えてないだけ王の隊より厄介だな。
だが、今の状況なら使える手もある。
シーチキンの缶詰めを取り寄せ、ナイフで刺して周辺にばら撒いた。
いつもエサを探しているゴブリンだ。一日二日、食ってなければ相当空腹になっているはずだ。缶詰めの匂いでここに集まってくるだろうよ。
二十缶もばら撒けばゴブリンを狂わせるだけの匂いになるはず。さあ、集まってくるがよい!
その場から離れ、木の陰に隠れた。
ゴルグはまだ撃ってるか。ギルドマスターも王との戦いが続いている。カインゼルさんたちも防衛戦中だ。
笛の音は聞こえない。オレの察知範囲には別動隊がいる気配もない。まあ、他の魔物がいられたらわからないが、これを仕掛けたヤツはそこまで賢いとは思えない。なんらかの邪魔をしようとして辺境伯領に仕掛けてるんじゃないかと思う。
確証はない。オレの勝手な思い込みだ。だが、やり方が生ぬるいのだ。ゴブリンを集められて、操れるのなら直接コラウス辺境伯領にぶつけたらいいじゃん。それをしないのはやる気がないか、別の目的があるか、単に能力がないか。どれにしろ今は統制が取れなくなっている。
「しょせんゴブリンはゴブリン。ダメ女神のようにゴブリンをなんとかしようとして失敗した口だな」
失敗を打開するために送り込まれたオレには笑い飛ばせないが、相手の失敗はオレの勝機。宴もたけなわですがオレのために死んでくださいな。
木の陰から飛び出して乱射する。
乱射乱射の乱射で百匹近く撃ち殺してやった。
「まったく、銃がいくらあっても追いつかんわ」
詰りが激しくなったVHS−2を捨て、グロックを抜いて残りを片付けた。
手持ちのマガジンでなんとかかんとかホームに入り、装備をすべて外してショットガン装備に着替える。
「ミリエル。ラダリオンは戻ってきてるか?」
「はい。一度きました。上位種が出て拠点を放棄したそうです」
あっちにも出たんかい。ったく。何匹いんだよ。
「もう少しだ。がんばってくれな」
「はい。気をつけてくださいね」
「ああ。最後まで気は抜かないさ。帰るまでがゴブリン駆除だからな」
黒幕がいるかもしれないのだ。そいつが最後の最後に現れる前提で動くさ。
外に出てカインゼルさんたちの気配とゴブリンの気配を探ると、こちらに向かってくる感じだ。合流しようとしてんのかな?
無線機を使えたらいいのだが、どうも山の中は電波が届き難く、雑音が多すぎるのだ。異世界だからか?
「カインゼルさんを追うゴブリンたちが一塊になろうとしてるな」
そうなれば一網打尽にしてやるか。
崖のところに戻り、必死こいて登ってロープを買ってきて木に括りつけて垂らした。
「そちらが火を使ってくるならこちらも火を使ってやる」
まだ雨季(?)は終わってない。なら、火を使うことに躊躇いはないさ。
大量の小麦粉のパック裂いて周辺にばら撒き、カインゼルさんたちが百メートルくらいになったら十キロのガスボンベの栓を抜いて崖から放り投げた。
三本目を放り投げたところでカインゼルさんたちが登場した。
「登ってきてください!」
ロープに気がついてメビ、ビシャ、ラダリオン、そしてカインゼルさんが最後に登ってきた。
「罠か?」
「ええ。成功するかはわかりませんけどね」
現れたゴブリンにこっちだとばかりに散弾をぶちかましてやった。
続々と集まるゴブリンによって小麦粉が舞い散り、視界を白くする。さらに小麦粉パックを放り投げてやりさらに視界を白く染めていった。
あ、火、どうしよう? と思ってたら火の玉を口から撃つ上位種の気配が現れた。それも二体。運は我に味方せり。
「木の陰に隠れて」
標的たるオレは上位種に見えるように立ち、上位種が口の中に火の玉を作り出した瞬間、周囲は爆発に包まれた。
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