第486話 マジパネー
暗くなってきたので靴慣らしを終えて宿に戻った。
もちろん、冒険者の青年たちも一緒だ。本来はリハルの町を本拠地としていて、マルスの町には支部長のミズホ(暗き水底)さんにゴブリン狩りを命じられたそうだ。リハルの町は今、猪がたくさん出てゴブリンどもが追いやられたそうだ。
ちなみに、冒険者の青年たちは、リーダーで戦士のロコ、弓を使うラダトとマイル。斥候のタオ。そして、金髪エルフの少年、カルオだ。
全員が別の町出身なのに、こうしてチームを築いているんだから不思議な関係だよな。
部屋は空いていたので四人部屋を五人で使ってもらう。
「悪いな、四人部屋に五人を詰めてしまって」
「とんでもない! こんないい宿にタダで泊まれるだけで幸せだよ!」
「いつもは屋根があればマシって感じだからな」
ほんと、冒険者稼業も大変なものだ。ホームがあるのが申し訳なくなってくるぜ。
「そうか。食事も遠慮することはない。たくさん食え。明日からゴブリン駆除をがんばってもらいたいからな」
食材費を追加しておいた。欠食児たちの胃を満たすことはできるだろうよ。
「ああ! いっぱい狩ってやるぜ!」
やる気があってよし。
「あ、酒はダメだぞ。二日酔いでゴブリン駆除ができないって言っても知らんからな」
オレはホームに入ってビールを飲むがな!
「マスター! おれたちはいいですよね?」
「二日酔いにならないていどならな。なったら外に放り出してやるから覚悟しとけよ」
笑って言ってやる。でも、なったら本気で放り出してやるから気をつけろよ。
「シエイラ。二十時には戻ってくる。あとは頼むな」
「わかりました」
部屋に戻ってホームに入る。
ホームにはミサロだけ。ラダリオンとミリエルは館でワイニーズ討伐の用意を手伝っているそうだ。
外していた巨人になる指輪を嵌めて食事をする。
「自分で作ったのか?」
テーブルには超盛りなメニューばかり。見覚えのある皿があるからミサロが作ったものなんだろうよ。
「ええ。厨房を拡張してイチゴに下準備をさせたから意外と楽にできたわ」
楽なんだ。テーブルの脚が折れそうなくらいの量が。ミサロ、マジパネー。
「食費は大丈夫か?」
「大丈夫よ。オフシールがあるから」
オフシール、まさかこうなるために用意されたものじゃないよな? ダメ女神が関わることはすべて裏があるんじゃないかと思えて仕方がないよ。
まあ、巨人になれるのは利点だ。長い時間巨人でいられるよう毎日大量に食っておかないとならない。三分しか巨人になれてないとか、チートタイムと同じだ。最低でも三十分はなれてないとグロゴールみたいのとは戦うこともできないよ。
ラダリオンとタッグを組めばグロゴールにだって勝てる。いずれまたそんな日がくると考えておかなければいかないだろう。そのために食う。酒も飲む。
いただきます。そして、ご馳走さまでした。ゲフ、ともならないよ。
腹が落ち着いたら指輪を外し、いつもの量を食べて、風呂のあとはビールを一缶飲んだ。
「食っても食っても満足しないって、かなりストレスになるんだな」
食べて満足飲んで満足。ただそれだけで幸せを感じてしまう。人間とは単純な生き物だよ。
二十時までのんびりしたらホームを出て宿の部屋に出る。
食堂に向かうと、少年少女たちや青年たちはおらず、職員たちとルスルさんが酒盛りしていた。あ、ルスルさんのこと忘れてた!
ってことを必死に隠して席に着いた。
「遅れてすみません。食事はしましたか?」
「はい。ここで出してもらいました」
ワインを一本取り寄せ、空になったカップに注いでやった。
「ありがとうございます。いい匂いだ」
飲兵衛さんなのか、カップを握ると味わうこともなくいっきに飲み干してしまった。
「酒に強そうですね」
「人並みですよ。まあ、こんな美味い酒を飲めたら弱くなりそうですがね」
また注いでやるといっき飲みした。
「あとはうちで飲んでください。明日は少年少女たちに稼がせてやらないといけませんのでね」
「それ、わたしも参加させてください。支部長の許しは得てますので」
「構いませんよ。ルスルさんは魔力があったりしますか?」
「これでも学園出です。若い頃は魔法使いとして冒険していましたよ」
とてもそうは見えないインテリタイプだ。
「まあ、わたしには戦う才がなかったので、たまたまきていたコラウスでギルド職員になりましたがね」
人に歴史あり、って感じか。まあ、異世界からダメ女神に連れてこられたって歴史を持つのは……なんか結構いそうだな、この世界では……。
「戦う才はなくても知恵で戦う才はあると思いますよ」
プランデットを取り寄せた。
「これは、古代エルフが造ったもので、振動や熱で敵を見つけられたり遠くのものが見えたりします。同じものをしたものと話すこともできます。他にもいろいろできるのですが、使うには古代エルフ文字を理解しなくてはいけません。頭を使うほうが得意って方なら能力の一割は使いこなせるはずです」
「一割ですか?」
「その一割で敵の位置がわかり、離れた者とでも会話ができる。ルスルさんならこれがどれほどのことかわかるでしょう?」
「……敵からしたら卑怯だ! と叫ばれそうですね……」
まさにチート。ゴブリンになんら同情しないな。
プランデットをかけさせて起動させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます