第485話 切なる願い

 ミーティングが終われば自由時間──とはせず、少年少女たちの面談と実力把握だ。


 少年少女たちは誰かの下で荷物持ちや手伝いをした経験があり、狩りをしたこともあるそうだ。三人はゴブリンと戦ったこともあるとか。ずぶの素人ってわけじゃなさそうだ。


 なんて、オレも偉そうなことを言うようになったもんだ。ベテランから見たらまだ一年ちょっとのルーキーなのによ。


 ……ルーキーとは思えない濃い日々だったけど……!


「まずは男女で組め。なるべく前衛職と後衛職で組むこと。戦いに自信のある女は残れ。オレの組に入ってもらうから」


 組分けが決まれば少年少女たちの足を計り、靴下と安全靴を買ってきて履かせた。


「今日は町を回ってその靴に慣れろ」


 少年少女たちの靴は下底に厚めの革を敷いて布で巻いたもの。踏ん張りも効かないし、防御力もない。狼にでも噛まれたら死に直結だ。仕方がないとは言え、見ているこっちが怖いわ。


 少年少女たちが靴慣らしにでかけたら偵察ドローンを出してサーチアイをセット(テープで)。オートマップを起動させたら偵察ドローンを飛ばした。


「いるな~」


 いや、いるのはわかっているのだが、熱反応で見ると、赤い点がたくさん。ホーミングなレーザーで一斉排除したくなるな……。


 サーチアイの稼働時間まで飛ばし、マルスの町周辺を調べた。


 オートマップで周辺の様子を見ていると、冒険者と思われる一団が近づいてきた。


「なにか?」


 カツアゲか? と、グロックを抜いた。ただ、銃口は向けない。攻撃態勢を示して威嚇したのだ。


「いや、すまない。こちらに攻撃する意図はないんだ。あんた、ゴブリン殺しだろう?」


 その冒険者たちは、少年から青年に変わろうとしている年代たちの者で、装備もちょっと少年少女たちよりいいものだった。


「ああ。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスター、タカトだ」


 毎回思うが、駆除ギルドかセフティーブレットかどちらかにして欲しいよな。どっちかにしたいのに、セフティーブレットを拒否しようとしたら強制的に言わされるんだよな……。


「ウワサに聞いたんだが、ゴブリンを狩ると金が稼げるってのは本当なのか?」


「正確にはゴブリン駆除員や請負員だけが使える金だな。ここで使われる金は一銅貨も稼げない」


「その、金があればあんたが着ているようなものが買えるんだろう?」


「そうだな。一匹殺せたら大銅貨一枚分の金は入る。ちなみに、オレが着ているものはゴブリン三十匹分になる」


 グロック等の武器は外した三千五百円の計算で言ってます。


「……三十匹でそんないいものが買えるのか……」


「ゴブリン、どんだけ価値があるんだよ」


 色めき立つ冒険者たち。それ、捕らぬ狸の皮算用って言うんだよ。


「ゴブリン狩りに自信があるのか?」


「おれたち、鼻と目がいいからよくゴブリン狩りをギルドにやらされてたんだ」


 へー。そんなことしている冒険者がいたんだ。知らんかったわ~。


「なら、うちのギルドに入るかい? うちは冒険者でも構わない組織だ。よくゴブリン狩りをしていたらいい装備を纏えて、毎日美味い料理が食えるぞ。泊まるところがなければうちにきたらいい。寝泊まりできる場所はただで貸してやるよ」


「本当か!?」


「ああ。本当だとも。うちは今、人手不足だからな、請負員となってくれたら部屋くらいただで貸すよ。うちの食堂を利用すれば食事もタダだぞ」


 稼いでくれれば上前が入る。こちらも特になるってものだ。


「ゴブリン駆除請負員となるか?」


「なる! ならしてくれ!」


 他の者たちも望んだので五人を請負員とした。


「この近くにゴブリンがいる。わかるか?」


「ああ、わかる。ざっと十五匹はいる」


 おー凄い。三十メートル先の草むらにいるゴブリンが見えているよ。 


「あそことあそこにも金が転がっているぞ。他に奪う者もいない。お前らの獲物だ。狩りまくれ!」


「いくぞ!」


 金の力とは偉大なり。冒険者たちが目の色を変えてゴブリンに襲いかかった。


 長いこと五人でやってきたのか、連携が取れまくっている。


「幼馴染みか?」


 草むらに飛び込むとともに四匹の気配が消え、声をかけ合いながら次々とゴブリンを狩っていっている。オレよりゴブリン駆除員に向いてんじゃね?


「右のゴブリンが逃げようとしているぞ! 左のは一人に任せろ!」


 そう声をかけながら、最終的に五人で三十匹を狩ってしまった。僅か十分で……。


 おい、ダメ女神。こいつらを駆除員にしろよ。そして、オレを引退させてくださいよ!


 切なる願い、ダメ女神に届かず。なんの返事もきませんでした~。クソが!


「ご苦労さん。やるじゃないか。鉄印の冒険者なのか?」


「いや、木印の冒険者だ」


 鉄印の下は銅だから木印は一番下になるのか?


「あの連携なら装備をよくして、自分らに合った武器を持てば銀印になりそうだな」


 才能がないオレでもわかる。こいつらは将来性があるってな。


「まあ、それはお前らのがんばり次第だ。稼いだなら請負員カードの使い方だ」


 まずはハンバーガーを買わせた。やる気は美味いものでできているからだ。オレはビールだけど。


「ウメー!」


「ちょっと味が濃いが、悪くはないな」


「もう一個買う!」


「おれも!」


「ほどほどにしておけよ。他にも買うものがあるんだから」


 少年少女たちには靴を買ってやったが、こいつらならもうちょっといい靴が買える。駆除は足がものを言うからな。


 五千円くらいの安いタクティカルブーツと靴下を買わせ、少年少女たちのように靴慣らしをさせた。


「なんか運が向いてきたかな?」


 まさかこれほどの人材に会えるとは。なんか悪いことが起こる前兆でないといいんだけどな……。

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