第484話 マナナ
大人気だった。
マルスの町の支部は全員で十三人。多いのか少ないのかわからんが、売り出したら代わる代わるやってきて商品を買っていった。
「破産しませんか?」
「大丈夫でしょう。どれも安く売ってますから」
銅貨で買える商品を出したので銅貨ばかり集まったが、軽く百枚は越えているぞ。銀行とかないんだからタンス貯金ってことなんだろうか?
「ルスルさんは、いいのですか?」
「わたしは、ゴブリンを倒してから買ってみます」
職員にまだ内緒、ってことかな? 請負員になったことをしゃべるかはルスルさんに任せてある。他の職員もなりたいと言い出し兼ねないからな。それじゃ支部が回らなくなるだろうよ。
「本当は、移動販売をしたいところなんですが、セフティーブレットは人手不足。本部にいかせるのが精一杯なんですよ」
「仕方がありません。ここにくるのも手間ですし、ただと言うわけにもいかないんですから」
「理解が早くて助かります」
「まあ、いずれはマルスの町にもきて欲しいものです。わたしもゴブリン駆除ばかりしてられない立場なので」
商品はすべて売れ、計銅貨百二十八枚となった。重っ。
銅貨が入った作業鞄をホームに戻し、マレセノーラと言う宿の場所を尋ねた。
「わたしが案内しましょう。シエイラは他の職員に案内させます」
「失礼かもしれませんが、シエイラとなにかありました?」
なんか視線を合わせなかったように見えたんだよな。オレ、こういう勘は鋭いんだ。
「まあ、いろいろです」
ルスルさんが三十半ば。シエイラは二十八、九? なにかあっても不思議じゃないか。どちらも長いこと冒険者ギルドにいたんだしな。
別に過去を知りたいわけじゃない。なにかあったことを知っていたら口に出さなくて済む。そのために訊いたのだ。
ルスルさんが伝えにいっている間にホームに入ってミサロに報告してくる。
戻ってきたらルスルさんも戻っていたのでマレセノーラに案内してもらった。
マレセノーラと言う宿は町の西側にあり、宿と言うよりは屋敷な感じだった。
「泊まる人、いるんですか?」
「結構人気がありますよ。依頼で儲けた冒険者や商人、有力者などきます。まあ、毎日のようにはこないので宿泊料は高いですがね」
なるほど。成功の証を体現させるための宿か。少年少女たちには刺激が強いかな?
「どうします? 相当な金額になりますよ」
「まあ、金はあるんで泊まります。案内ありがとうございます。オレは町の外にいる連れを呼んできます」
「夜にまたきます。ゴブリン駆除のことを話し合いましょう」
「わかりました」
ルスルさんと別れ、町の外に。パイオニアや道具をホームに戻したらマレセノーラに皆で向かった。
マレセノーラに入ると、四十くらいの品のよい女性がカウンターに立っていた。
「いらっしゃいませ。マナナが言っていた団体のお客様ですか?」
マナナ? 元徴税人の名前か?
「ええ。元孤児の女の子に予約をお願いしました。泊まれますか?」
「はい。大丈夫ですよ。今日は誰も泊まっておりませんので」
それは好都合。
「少年少女たちは安い部屋に。大人は二人部屋で。女性は一人部屋を。オレは一人部屋があったらお願いします」
料金がわからないので金貨二枚をカウンターに置いた。
「足りなければ言ってください」
「いえ、充分です。すぐに部屋を用意致します」
女性が従業員に指示を出し、それぞれの部屋に向かった。
オレは一人部屋なので、そのままホームに入り、プランデットを五つ持ってきた。
オレが全員を指示してゴブリンを駆除させるのは大変だ。なので、熱探知状態にして職員にかけさせるとする。
まずは職員を食堂に集め、プランデットをかけさせて起動させた。
オレもプランデットをかけて、職員がかけたプランデットを操作して熱探知に切り替えた。
「今、熱で生き物を見ている。これを使えばゴブリンの位置はわかるはずだ。これで少年少女たちを導いて駆除を行ってくれ。時々、自分でも倒してくれて構わないが、十五匹くらいは少年少女に駆除させてやってくれ」
職員たちにプランデットを慣れさせ、テーブルにスケッチブックにマルスの町周辺の地図を描いた。
「おじさん。お茶です」
と、元徴税人──マナナがお茶を運んできてくれた。
「ありがとさん」
銅貨を一枚出して渡した。
「お駄賃だ」
チップ制があるか知らんが、銅貨一枚なら目くじら立てられることもないだろう。
「ありがとう!」
「そう言うときは、ありがとうございますだ。あと、元気なのもいいが、この宿なら柔らかく、上品よくするほうがいいぞ」
まだ明るいのが可愛い歳だが、どんどん年齢が上がっていけば落ち着いていかなくちゃならない。年齢に合わせた立ち振舞いをしないと浮いた人間になるだろうよ。
「上品?」
「まあ、落ち着いて挨拶したり無意味にはしゃいだりしないことだ。あとは、上品な客がきたときに動きを真似たらいいさ」
こんなところじゃ学ぶこともできないんだから人を真似るしかない。
「マスター」
と、シエイラがやってきた。
「支部長との話は終わったか?」
「ええ」
とだけ。まあ、シエイラと支部長の間にもいろいろあったのだろう。下手に突っ込むな、だ。
「よし。ミーティングをするぞ」
マルスでの少年少女たちの指導作戦を話し合った。
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