第361話 死滅の魔女
マジか~。ミシニーのヤツ、本当に壁を走ってるわ~。
いや、オレも水の上を走ったけど、それはチートタイムだったから。生身の状態でなんか二歩が精々だ。ミシニーのように滑りやすそうな濡れた壁を全速力で走るとか、まるでアクション映画である。オレが見えないだけでワイヤーで吊り下げられているのか?
「ミシニー、もう銀とか金の域じゃないだろう? 英雄の域だよ」
そんな中で凡人が戦うとか、オレはなんの罰ゲームを受けているのだろうか? 真っ先に死ぬ未来しか見えないよ……。
「そうだな。運が悪いのかなんなのか、敵も味方も滅ぼす死滅の魔女と悪評が広まっている」
「オレから言わせれば上が悪い。正しい情報を与えて、万全の用意と計画を立て、的確に指示を出せる下ならミシニーは完璧に作戦を遂行できるぞ」
行き当たりばったりではミシニーのよさが出ない。たぶん、ミシニーは支援攻撃が能力に合っているんだと思う。
「そうだな。タカトの下にいるのがあいつらしいと思う」
「オレとしてはさらにその下について動いているのが性に合ってんだけどな」
「お前は上に立つ人間だ。クセの強い者たちを従わせられるのも英雄だぞ」
オレが英雄とか買い被りもいいところだ。中間管理職がいいところだよ。
ウルトラマリンがベースキャンプに到着。街を観察しているロンダリオさんとミリエルをエルフに呼びにいってもらった。
その間にアルズライズ用にSCAR−Hとベルト回りを買ってきて装備させた。まだ7.62㎜弾が安いんでな。
魔法職ではあるが、ミシニーにもP90とグロック19を持ってもらった。ロースランは魔法耐性もあるって言うんでな。
そうこうしていると、ロンダリオさんとミリエルたちが戻ってきた。
「さっそくで悪いんですが、ミーティングします」
作戦室と張ったテントに集まってもらい、ロースラン退治のことや十メートルサイズの特異体がいたこと、穴を塞いだこと、オレたちが囮になることを伝えた。
「なので、ロンダリオさんがこの集団の代表になってもらえませんか?」
「……仕方がないな。引き受けよう」
やはりできる男は違う。英雄と言うならロンダリオさんのような男だわ。
「助かります。ミリエル。なるべくゴブリン駆除してくれ。可能なら一千万円にしておいてくれると助かる。いざと言うときに五百万円は用意しておきたいんでな」
なにか俯いているが、構わず指示を出した。
「補給関係はミリエルにさせてください。あと、誰かウルトラマリンを運転を覚えてください。万が一、撤退するときのために」
今、ウルトラマリンを運転できるのはオレとアルズライズだけ。その二人が抜けるのだから新たに二人は運転できるようにしておかないといかんだろう。
「うちからはゾラを出すよ。なにか運転したそうにしてたからな」
あの人も機械系が好きっぽいよな。目指す方向間違ったんじゃないか?
「ミリエルとアリサも乗れるようにしておけ」
「わかりました」
「はい」
ミリエルはパイオニアに乗れるので、ちょっと説明したら乗れたので、アリサを後ろに乗せて仮足場までいってもらった。
時速十五キロくらいだから、まあ、余裕を見て三十分くらいで戻ってこれるだろう。その間にホームに戻ってタボール7の装備に換え、いつも使っているリュックサックを背負った。
外に出るとゾラさんがきていたので、ミリエルたちが戻ってくるまでにパイオニア二号を出してきて運転方法を教えることにした。街と言うなら移動手段はあったほうがいいはず。
ゾラさんもゾラさんで飲み込みが早い。十分もしないで覚えちゃったよ。
「いざとなれば放棄してもいいし、ぶつけても構いません。必要なら壊しても構いません。自分たちの命を守るために使ってください」
パイオニアは壊れてもまた買い直すことができる。命優先だ。
「まあ、いざとなれば、な。そうでなければ大事に使うよ」
ミリエルも入れられるので、出したままにして、ゾラさんに馴染んでもらった。
「──ロースランが出てきたぞ! タカトらが見た特異体も現れた!」
ラインサーさんが駆けてきて、望まぬ報告を告げた。
「アルズライズ、ミシニー。準備はいいか? ロンダリオさんたちの存在を知られるわけにはいかないからなすぐに出るぞ」
オレらを憎んでいるのならそれを利用して、ここから遠くに移動させてやる。
「問題ない」
「わたしもだ」
急いでいても最終確認をする。出ていきなり使えませんでは笑うに笑えんからな。
「よし。ラインサーさん。先導してください」
オレ、まだ街までの道順知らんのよね。
「難しくはないが、わかった。こっちだ。途中、低いところがあるから気をつけろ」
ラインサーさんの先導で屈まないと入れない穴に入った。
大小様々な穴があったが、どれもオレらに入れるサイズではなく、高さが一メートル半くらいで、約百メートルくらい進んだら右下に延びる穴に入った。
さらに五十メートル進むと、割れ目に出て、柔らかい光が差し込んでいた。
裂け目には梯子がかけられており、五メートルくらい昇ると、山の中腹くらいに出た。
「タカト。あそこだ」
眺めている時間もなく、二百メートルくらい下に特異体のロースランと通常サイズのロースランが三十匹くらいいた。
「タカト。ガソリンを出してくれ。あいつらの目をこちらに向けてやる」
作戦があるのかミシニーがガソリンを求めてきた。
言われた通り、ポリタンクを一つ出した。
「アルズライズ! ロースランに向かって投げたらアレを撃ち抜け!」
「任せろ」
ガソリンタンクをつかむと、その力でロースランがいる方向に投げ放ち、SCAR−Hで撃ち抜いた。
爆発することはなかったが、空いた穴からガソリンが漏れた。
そこにミシニーの火の矢が当たり、爆発を起こした。
「タカト、アルズライズ、ロースランがいないほうに走れ! わたしはあとで合流するから!」
なにをするかわからないが、ミシニーに任せて草むらの中から飛び出した。
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