第360話 よく言われる

 まずアリサがきたので、申し訳ないが、ここを任せてホームに入った。


「ミサロ。しばらくしたら解体したロースランを運んでくる。館に出してくれ」


 玄関に待機しててくれたミサロに伝え、装備を外したらユニットバスに向かって熱いシャワーを浴びた。


 すぐ戻らなくちゃならないが、今のオレにはどんな栄養ドリンクよりビールが力を与えてくれる。一缶だけお許しください。


 ぴひゃー! 美味い! やっぱビールはいい! もう一缶! とはさすが不味いので我慢。新しい下着とインナープロテクターを着込んだ。


 汗でびしょびしょのタボール7装備はマガジンや道具を外して湯船に浸けておこう。まだ使うかもしれないからな。


 中央ルームのテーブルにあったおにぎりを二つ食べ、麦茶で流し込んだ。


「ミサロ。頼むな」


「ええ、任せて」


 VHS−2装備にして外に出た。


 ホームに入っている間にエルフたちを運び終わり、さっそく解体に移っていた。


「アルズライズは休め。ここはオレが見てるから」


「ああ。ヒートソードを貸してくれ。体を洗う」


「ベースキャンプに戻れば風呂を用意するぞ」


 地底湖の水温、軽く心臓停止するくらいだぞ。


「汗を流すだけだ。問題ない」


 さっさと装備を外し、下着姿のまま湖に飛び込んだ。お前、どんだけだよ?


 三十秒くらい潜り、さっぱりしたって顔で上がってきた。


 ヒートソードを三百度にして刃先を向けて温めてやり、アルズライズが気に入った芋焼酎を取り寄せてやった。体の中からも温めろってな。


「あとはおれがやる」


「じゃあ、頼む」


 ヒートソードを地面に置き、解体した部位をホームに運んだ。


 何度か運び込んでいるとラダリオンが入ってきたので、マイセンズの砦にも運び出させた。


 せっかく汗を流したのに、一時間もやっていると額から汗が流れ、すぐに全身びしょ濡れになってしまった。


「マスター。魔石です」


 アリサが取り出した魔石を集めて持ってきてくれた。


「かなり色が濃いな。何年生きてたんだ?」


 通常、青色なのにどれも濃紺色だ。確か、長年生きたロースランの肉は固くなるんだっけか?


「ここのロースランは柔らかいですね。エサがいいのかもしれません」


「ここにある骨からしてロンガルを狩って食っているみたいだな」


 バリエーションがなくて逆に体が悪くなりそうな気もするが、ロンガルだけ食っていて肉質がいいとか、ロンガルもロースランもよくわからん生き物だよ。いや、ゴブリンすらよくわかってないけどね!


 魔石は今後の活動資金としてオレが預かり、肉は皆にわけることにする。


 なんとか片付けが終わったのは二十三時前。なんだかんだで十時間以上かかってしまったよ。ハァー。疲れた。


 エルフたちをベースキャンプに戻したら、また戻ってきてセメントで固めた壁を触った。


 まだ諦めてないのか振動が伝わってきている。どんだけ執念深いんだよ。って、仲間だか家族かが殺されたら暴れ狂うのも無理ないか。オレでも家族を殺されたら同じことをするだろうよ。


 穴のサイズからして十メートルサイズのは入ってこれないだろうが、二メートルサイズのは入ってこれる。


 仮に、ここまで辿り着けたとしても泳げないのならそう危険はないはず。ベースキャンプまでだって五百メートルはあるんだしな。あの分厚い脂肪があっても途中で沈んでしまうだろうさ。


 でもまあ、万が一はある。保険をかけておくか。


 電ドラで穴を開け、アンカーを打ち込み、スタングレネードを仕掛けていった。十五日で消えてしまうが、十五日もあれば穴から出て街にいるゴブリンを駆除しているだろう。


 ロースランと相見えるのはそちらのはず。そちらでの戦いを想定しておくべきだろうよ。


 少なくとも対物ライフルはあと三丁は欲しいな。ロンダリオさんのチーム、アリサのチーム、護衛隊に一丁ずつは持たせたい。あ、M32グレネードランチャーも一門ずつ持ってもらうか。それと、スタングレネードも大量に買っておくべきだな。


 とは言え、まずはゴブリンを駆除に力を注いで数を減らすのと資金稼ぎをするべきだろう。十メートルもの特異体を相手にするには今の資金では心もとない。せめて一千万円は貯めておきたいぜ。


 そうなるとオレかミリエルが稼がなくちゃならないが、ミリエルをロースランに当たらせるわけにはいかない。やはり、オレがやらねばならないだろう。


 ロンダリオさんのチームはそのままで、アリサのチームとミリエルたちは合併させる。となれば、オレ、アルズライズ、ミシニーのチームとなる。


 だが、アルズライズもミシニーにも付き合わせられないな。ここにいるはゴブリンを駆除するためだからな。


「お前は考え中は顔に出るな」


 すぐ横からアルズライズの声がして体が跳ねてしまった。


「おれはお前に付き合う。一人でいこうとするな」


 そんな顔をしてたのか、背中を叩かれてしまった。


「……わかったよ。ありがとな……」


 断るのも失礼だし、無粋でもある。アルズライズの好意をありがたく受け取った。


「気にするな。お前はおれのやろうとすることを察してくれるし、無駄に前に出なければ後ろに下がりすぎもしない。一緒に戦っていて邪魔にならない稀有な存在だ。それに、お前がいれば補給に困ることはない。本隊と離れても、いや、本隊以上の戦いができるだろう」


 いつになく言葉を発したアルズライズ。


 確かにアルズライズがアタッカー。オレが補佐ならロースランの大軍でも相手できるだろうな。


「──そこにわたしも加えてもらえるかい?」


 いるはずのないミシニーの声がして、また体が跳ねてしまった。


「ミシニー、いつの間に!?」


「壁を伝わってきた」


 壁走りとか忍者か! お前は魔法職じゃなかったのかよ?!


「ミシニーが加わってくれるならありがたいが、稼げないぞ」


「さて。それはどうかな? タカトといるほうが稼げると思うぞ」


「フフ。そうだな。いつもお前が動くほうに大量のゴブリンがいたな」


 違うと言えない我が身の運の悪さよ。なんだかんだとゴブリンを倒している数はオレが一番なんだよな……。


「ひねくれたヤツらだよ」


「「よく言われる」」


 ハモる二人に吹き出してしまった。

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