第135話 城

「報告には上がってたが、こうして見ると凄いものだな」


 パイオニアのことまでギルドマスターまで届いてんのかい! これでなんでゴブリンに手こずってんだよ! 優秀なんだからゴブリン駆除に予算回せよ!


「ゴブリンを五、六百匹も駆除すれば買えますよ」


「つまり、それだけ殺していると言うことか」


「それでもゴブリンがいなくならないことが異常なんですがね」


 たぶん、もう少しで八千匹に到達するだろう。


 ──ピローン! 八千匹突破おめでとー! クジ三回引けるよ~! 新しい支援グッズを追加したから引いてね~!


 言ってる側から八千匹を突破したか。って、クジ引くの忘れてたわ。あとで引こうっと。


「……やはり、異常か?」


 あ、ちゃんと気づいてたんだ。


「異常でしょう。まあ、だからと言って原因などわかりませんけどね」


 オレは駆除員であって調査員ではない。原因究明は他がやってくれ、だ。


「弱いゴブリンがいると言われてきたのに、数が多いんだから参りました。稼ぎが多くても出ていくのも多いんだから詐欺ですよ」


 今はプラスしてるからいいが、なにかあればすぐ減ってしまう。なんの無限地獄に踏みいったんだか。まったく、胃が痛い毎日だよ。


「……そうか。まあ、いい。各支部に警戒はさせておこう。では、いくとしよう。どうやって乗るんだ?」


「え? これでいくんですか?」


 馬車で向かうとかじゃないので? そのあとをついていく気でいたんですけど。


「構わないだろう。いつもは運動のために歩きでギルドに通ってるからな」


 領主妹の旦那でありギルドマスターがそれでいいのか? 重要人物でしょう、あなたは……。


「ま、まあ、ギルドマスターがそれでいいのなら」


 別に断る理由もなし。助手席側のドアを開けた。


「今さらですが、第二城壁門ってどこなんです? 第三城壁街も大通りを歩いたくらいなんで知らないんですよ」


 辺境と言う割には大きな街なので、一日二日では第三城壁街も見て回れないのだ。


「第二城壁街に入る門は八つある。その道をいけばすぐだ」


 冒険者ギルドは街の南東側にあり、ギルドマスターが指した道は商用門的なところに続くとのこと。


 商用門のところには門番が二人立っており、出入りの検問をしていた。


「サイルス様!?」


「ご苦労。わたしの客だ。ミシャに客を連れていくと連絡をしてくれ」


「ハッ! わかりました!」


 すぐに駆けていく門番。もしかしてギルドマスターって貴族か? それも高位の?


 そのまま商用門を潜ると、高い税金を取られるだけはある。第三城壁街とは大違いだ。金持ちの住むところって感じだ。


 ギルドマスターの指示に従って道を進むと、城が見えてきた。いや、城は街の外からも見えていたが、本当に辺境とは思えない造りだ。辺境伯ってかなりの身分なのか?


「見事な城ですね。五百年も経てば世界登録遺産になりそうだ」


「ふふ。おもしろいこと言うな。五百年後か。そこまでミシェッド家が続くといいな」


 家名、ミシェッドって言うんだ。って、家名、コラウスじゃないの?


 城の横にある厩にパイオニアを停めて降りると、執事だか侍従だかわからないが、品のある初老の男と侍女らしき女がやってきた。


「お帰りなさいませ。サイルス様」


「ああ。客を連れてきた。丁重に頼む。コラウス辺境伯領を救ってくれた人物なんでな」


 またそんな大言壮語を。オレはコラウス辺境伯を救ったことはないし、救うこともないよ。


「一ノ瀬孝人です。よろしくお願いします」


 こちらは身分なしのどこの馬の骨ともわからない男。客として頭を下げた。


「家名を持っていたのか?」


「オレのところでは家名持ちは普通ですよ。持ってないほうが法に触れます」


 いや、法に触れるかは知らんけどね。


「そうか。悪いが、武器は渡してくれるか。婿養子のおれでは城の決まりは曲げられんのでな」


 婿養子なんだ。マスオさんだったとは。御心中お察しです。


「オレが持つ武器は非常に危険なもので、取り扱いを間違えると死に至ります。命が惜しいなら下手に触らないでください。火気に近づけるのもダメです。あと、数は把握しているので一つでもなくなっていたら責任はそちらに取ってもらいます。よろしいですか?」


 十五日で消えるとは言え、十五日もの間、自分を殺せる武器を奪われて平然とはしてられない。返ってこなかったら二度とここにはやってこない。信用ならない者から逃げさせてもらいます。


「ロズ。よく言い聞かせておけよ。おれはタカトとは友好的でいたいんでな」


 よく言い聞かせておかないとダメなところなんだ。油断しないように心がけようっと。


「畏まりました。責任を持って預からせていただきます」


 シートを地面に敷いて銃とマガジン、手榴弾、各種ナイフ、スタングレネード、チェストリグ、ガンベルトを並べていった。あと、リュックサックの中身も出して並べた。


「裸になれと言うなら従いますよ」


「いえ。そこまでお客様に失礼は致しません。サイルス様のお客様なのですから」


 なにかあればギルドマスターの責任ってことか。城の中も世知辛いもんだ。


「それと、そこの鞄の中身は領主代理様への手土産です。ご確認の上、お届けいただけると幸いです」


「中身はなんなのだ?」


「酒です。酒精がワインの数十倍強いので毒味する際は舐めるくらいにするか、水で割るかしてください。もし不安なら毒味はオレがしますよ」


 前にカインゼルさんがギルドマスターの嫁は酒好きと言ってたから手土産に酒を持ってきたのだ。


「なら、おれが持つとしよう。ミシャは酒にうるさいからな。下手に飲んだらなにを言われるかわかったもんじゃない」


 ギルドマスターの言葉に執事(仮)の男がため息をついた。よほどの酒好きのようだ。


「わかりました。サイルス様にお任せ致します」


 鞄はギルドマスターが持ち、領主代理のところへと向かった。

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