番外編
徴税少女A
今年はお恵みをくれる人が少なかった。
去年はゴブリンが田畑を荒らすとかで、税が上がったんでしょうと、シスターが言っていた。
それなら冒険者が倒せばいいと思うのだけれど、ゴブリンを狩るのは面倒で、苦労の割りに報酬は少ないとか。冒険者になりたいと叫ぶ男の子はそれをわかっているのかしらね?
とは言え、女の子も女の子で大変だ。特にわたしたち孤児はまともな仕事につけるのはほんの一握り。大体はどこかの家の下女になるか道で体を売るかだ。
それでもまだ女の子はマシだろう。男の子は手っ取り早く冒険者になって、大体が魔物に食われてしまうそうだからね。
先を考えたら嫌になるけど、だからと言って死ぬのは嫌だ。お腹が空くのも嫌だ。寒いのも暑いのも、なにより貧しいのが嫌だ。
けど、十歳のわたしにできることは道に立ち、行き交う人たちにお恵みを! と叫ぶことくらい。
今日も今日とてわたしは教会の前に立ってお恵みをと叫んでいると、葉っぱ柄の外套を纏ったおじさんか近づいてきて、お恵みを箱に入れてくれた。
「おじさん、ありがとう!」
お恵みをもらえたら精一杯の笑顔で感謝する。それが次に繋がると教えられてるからね。
「偽善だ。感謝などいらないよ」
変な格好をしたおじさんは素っ気なく返すけど、お恵みを叫んで五年のわたしにはわかる。あのおじさんは優しいって。
「って、ぎ、銀貨!?」
中を見て驚き、慌てて自分の口を塞いだ。
銀貨を見たことはある。けど、お恵みに銀貨を入れた人なんていなかった。いたとしても大銅貨。大体の人は小銅貨だ。
あ、あのおじさん、何者? 大商人とか? 酔狂な人だって銀貨なんてお恵みしたりしないわ。
「で、でも、これだけあればしばらく凌げるわ」
孤児院でお恵みがわたしたちの戦果となり、立場が決まる。お恵みが少ない子は食事も少なく、ボロボロな寝台を与えられる。
わたしは真ん中辺りだけど、これで上位になれるわ!
とは言え、こんな幸運が続くことはない。調子に乗って威張ったりしたら孤児院で孤立する。物心ついてから何人と見てきたわ。
ここで生き抜くには知恵が必要だ。賢さも、愛嬌も、謙虚もだ。
わたしはこんなところで終わりたくない。下女になるのも体を売るのも嫌だ。わたしは幸せな大人になりたいわ!
この銀貨はもしものときのため隠す。見つかったら酷いことになるけど、なにもしなくても酷いことになるのだからこれは人生を賭けた勝負なのよ!
と、ドキドキする日々を送っていたらまたあのおじさんに出会えた。
わたしに気づいてないのか、通りすぎてしまった。
「あ、おじさん!」
このままではいけないと、おじさんの前に出た。
ため息を吐いたおじさんは、葉っぱ柄の外套の下から銀貨を出して箱に入れてくれた。
「ありがとう!」
「気まぐれだ。礼はいらない」
また素っ気なく返して去っていってしまった。
連れの十三、四くらいのおねえちゃんに睨まれたけど、わたしは笑顔を崩さない。お恵みは悪い印象を与えたら終わりだからだ。
……また銀貨だよ……。
あのおじさん、お金の価値を知ってるのかな? なんの躊躇いもなく入れてたよ。
けど、銀貨は銀貨。お恵みはお恵みよ。
今回は隠すことなくシスターに渡した。
「まぁ、奇特な人がいるものね」
シスターが奇特とか言っちゃダメだと思うけど、確かに銀貨をお恵みしてくれるおじさんは奇特なんだろうな。
「今日はお肉とパンが買えそうね」
銀貨一枚は偉大だ。教会の前に立ち、十年お恵みを叫んでも得られないのだから。
その日はお肉入りのスープと柔らかいパンが食べられた。
またあのおじさんに会えたら銀貨をお恵みしてくれるかな?
奇跡は何度も起こらないって言うけど、あのおじさんとはまた会える気がする。そうなったときのためにもうちょっと身なりをよくしないと。わたしは神を信じない。自分の幸せは自分で得てやるんだからね!
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