第569話 ご隠居様

 何事もなくマドット村を離れられた。


 薄情と罵られようが、オレにできることは多くない。情に流されてあれもこれもと手を出していたら大事なものを守れない。それどころか自分自身すら守れない。切り捨てるべきはちゃんと決めておくべきだ。オレは正義の味方ってわけじゃないんだからな。


 だからってわさわざ悪役をやるつもりもない。知らなかった。思いもつかなかった体で帰ればいいだけだ。


 馬に合わせて町に向かい、ミレット商会の伝手で馬と黒羊を預かってもらうことにした。


 オレらが帰ってきたタイミングを見てか、冒険者ギルドの使いがやってきた。ギルドマスターが会いたいとのことだ。


 まあ、ゴブリンのことだろうから、護衛としてローガを連れて向かった。


 冒険者ギルドにいくと、すぐにギルドマスターの部屋に通された。とりあえず、部屋にいた兵士風の男は流しておこう。


「帰って早々呼び出してすまないな」


「構いません。こちらも報告がありましたから」


 さすがに伝えないわけにはいかんからな。一応、冒険者ギルドにも登録しているんだからな。


「不味いことか?」


「ライダンド伯爵様には、大変でしょう」


 兵士風の男の表情が動いた。完全にライダンド伯爵の配下だな。まあ、いないわけがないんだが、ちゃんとベテランっぽい兵士は側に置いているようだ。


「なにがあった?」


 マドット村でのことを語って聞かせた。


 話していくと、どんどん顔色が悪くなっていくお二人さん。ライダンド領ではバデットの被害はないと言っていたのに、恐怖がDNAに刻まれているんだろうか?


「……ほ、本当なのか……?」


 プリントアウトしたバデットゴッズの姿を二人に見せた。


 二人にしたらプリントよりそこに写るものが衝撃なんだろう。わなわなと震えながら穴が空くくらい見詰めているよ。


「……ほ、本当に倒したのか……?」


「全身から一滴残らず血を抜いてやり、黒焦げになるまで燃やしたら穴に埋めました。ただ、魔石になんらかの魔法がかかっているみたいなので触ってはいません。魔法って、発動したらそのままなんですか? それとも一定時間過ぎたら拡散してしまうものなんですか?」


 怨念のように残るなら塩を撒きにいかないとな。


「強い魔法や特殊な魔法なら残るとされているが、永遠に残ると言うことはない。魔石の魔力を使い切ったら消えると思う」


「それでしたらさらに脅威は減りますね」


 ゾンビ映画のように何十年も腐敗しないのなら脅威だが、この世界のバデットは限定的のようだ。それなら何を恐れると言う。倒すなんて楽……ではないが、一ヶ所に集めて爆破してやればいいさ。


 ……その費用は領地からいただくけどな……。


「バデットは国を滅ぼす存在だぞ」


「それは対処法も知らず、指揮する者が適切にしなかったからでしょう。極論を言えば、穴を掘ってそこに落とせばいいんですよ。バデットは自由意思で動いているのではなく、魔力を奪うために動いているだけなんですからね」


 まだまだわからないことはあるが、わかっていることからでも対処法は思いつく。まずは落ち着いて状況を見ろ、だ。


「……なんと言うか、そう聞くと、バデットが恐ろしい存在とはおもえなくなってきたな……」


「敵を知れば百戦危うからずですよ。ギルドマスターだって狼の狩り方は知っているでしょうし、充分な用意をしたら四十匹くらい脅威ではないはずです」


 見るからに現場で叩き上がってきた人だ。何度となく狼を狩ってきたはずだ。今でも二、三匹は相手できるはずだ。


「ま、まあ、確かに、充分な用意をしたらな」


「それと同じです。いち早くバデットを見つける。その進撃方向を知る。撃退する用意をする。ダメなときは逃げる。それが上に立つ者の役目です。違いますか、伯爵様?」


 ギルドマスターの後ろに立つ兵士風の男性を見た。


 オレたちの会話を黙って、値踏みするように見ていた。その目が領主代理に似ていた。なら、この人はライダンド伯爵の可能性が高い。違ってたら恥ずかしいけど!


「よくわかったな」


「纏う空気がコラウスのミシャード様と似ていたので」


 オレは空気を読めるアラサーなのだ。強者オーラだって見えちゃうぜ。


「ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのギルドマスター、一ノ瀬孝人です」


 席から立ち上がって一礼した。オレは権力者に巻かれる男なのだ。


「マシェル・ライダンド。伯爵ではあるが、引退爵。当主を息子に譲った隠居だと思ってくれて構わない」


 引退爵? そんなのがあるんだ。まあ、爵位の順番とかよく知らんけど。


「では、ご隠居様と呼ばせてもらいます」


「ご隠居様か。それはいい。これからはそう呼んでもらうとしよう」


 なにが気に入ったのかわからんが、本人がいいと言うんだからご隠居様と呼ばせてもらおう。


「バデットのことはわかった。まずはカノロ湖を冒険者に探らせるとしよう。タカトはゴブリンを狩ってもらえるか? 報酬はそう出せんが、ライダンド伯爵領の冒険者ギルドとして銀印を出そう」


「銀印、ですか? コラウスでもらいましたよ」


 銀札はどこに置いたか忘れたけど。


「各地の冒険者ギルドから出される銀印を五個集めると金印になれる。まあ、一つの地で金印になれるがな」


 チョコボールの銀のエン○ル的なものか? あ、オレ、金のエ○ゼル当てたことあるぜ。送ったことはないけどさ。

 

「別に金印になることを求めてはいませんが、ライダンドにはまたくるのでもらっておきますよ」


 オレたち駆除員が生きれる生存圏が増えるに越したことはない。ライダンド伯爵領が加われば領主代理の後押しにもなるだろうよ。


「ゴブリンの件はお任せください。根絶やしにする勢いで駆除してみせます」


 オレたちのために、な。


 ────────────────────────────


    第12章 終わり


 ダメ女神からゴブリンを駆除しろと命令されて異世界に転移させられたアラサーなオレ、がんばって生きていく! 2 に移ります。よろしくお願いします。


 次は番外編をぶっ込みます。

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