第3話 クソ!

「──寒っ!?」


 外に出たらあまりの寒さにしゃがんでしまった。ど、どこに出たんだよ?!


 氷点下って寒さじゃないが、暖かいセフティーホームから寒いところにいきなり出たからたまったもんじゃない。心臓が弱かったら最低記録を更新してるところだわ。


「ダメだ、一旦戻ろう!」


 念じれば戻れる仕様に万歳三唱。


「クソ。まさか寒いところに放り出されるとは夢にも思わなかったぜ!」


 一瞬のことだったが、雪が積もってはおらず、なにか渓谷のような場所だった。


「あんな寒いところにゴブリンなんているのか?」


 ゴブリンの姿はダメ女神が頭に入れてくれたが、冬を生き抜けるような姿ではない。姿ばかりじゃなく生態情報も入れやがれ!


「本当に駆除をやらせる気があるのか? 五年も生きたヤツ、スゲーよ」


 先人の成功例(?)も入れろよ。ついでに失敗例も。ダメ女神は記録することを知らんのか? 完全に放り投げ仕事だよな!


「使い捨てカイロを買うか」


 貼るタイプで十個入りで百五十円のを購入した。


「百五十円とは言え、出費がかさむぜ」


 腰と脇の下、カーゴパンツの両ポケットに使い捨てカイロを貼り、暖かくなってから外へ出た。


「……冬なのか……?」


 渓谷の上を見たら針葉樹しか見えんが、空気は冬のそれだった。


「ゴブリンの気配は、川上か」


 不思議な感覚だが、これがゴブリンの気配だってのはわかった。


「何匹か纏まってるな」


 気配に集中すると、気配が判別できてきて四匹が纏まっているのがわかった。


 辺りを警戒しながら渓谷を登っていくと、キーキーとなにかが鳴く声が耳に届いた。


 姿勢を低くして進むと、なにかの獣を貪っていた。


 ……あれがゴブリンか……。


 座っているので身長はわからないが、四匹とも小さいってのはわかる。立っても一メートルくらいしかないんじゃないか?


「猿くらいか?」


 ゴブリンにも複数種類いて、一メートルのものや二メートルのもいるようだ。


「……よ、よし。やるぞ……」


 怖い。マジで怖い。ゴブリンを殺すことに感慨はないが、銃でなにかの命を取ると思うと漏らしてしまいそうなくらい怖い。だが、自分が死ぬのはもっと怖い。死にたくない。


 やるしかないんだ。やるしかないだ。やるしかないんだ。殺らなきゃ殺られるんだ。覚悟を決めろ!


「クソ! 男は度胸なんだよ!」


 ベレッタの安全装置を解除して岩陰から飛び出してゴブリンに向けて弾丸を撃ち出した。


「クソ! クソ! クソ クソ!」


 叫びながら引き金を引く──と、ガチャリとして弾が詰まってしまった。


「クソが!」


 怒りに任せて岩に叩きつけてしまった。


「ギー!」


 その叫び声に顔を上げたらゴブリンの一匹がこちらに向かってきた。


「うるせーんだよ!」


 頭に血が上り、マチェットを抜いて迎え撃った。


 我を忘れてマチェットを振るい、気がついたらゴブリンの頭にマチェットが食い込んでいた。


「……や、やったのか……?」


 死亡フラグみたいなことを口にしてしまったが、興奮が冷めても新たなゴブリンが襲ってくることはない。気配も微かに感じるていどだった。


「殺した罪悪感もないし、マチェットが頭に食い込んでいてもグロいとも思わないな」


 ダメ女神がそう言ったが、実感はなかった。だが、こうしてなんにも思わないと、思わないことに恐怖してくるぜ……。


「あ、ベレッタが」


 なんて思い出しても後の祭り。二万を稼いで二万以上を失ってしまったよ……。


「初戦闘でマイナスとかクソすぎるぜ」


 いや、今は生き残れたことを喜ぼう。初戦闘でご臨終とか笑えんのだからな。


「あ、報酬が入ってる」


 頭の中にゴブリンを四匹駆除して二万円が入ってることが映像として見えた。どうなってんだ?


 しばらくするとその映像は消え、ただ、ゴブリンの駆除数だけが残った。


「気にはならないが、変な気分だな。うげっ! ゴブリンの血がついてる」


 ジャケットにべったりとついてる。気持ち……悪くないな。ただ、汚れが嫌としか思わなかった。


「一旦帰ろう」


 微かに感じるゴブリンのところへと向かう気力はない。それに武器がマチェットだけでは心細い。ベレッタに代わる武器を考えないと。


 セフティーホームへと戻り、生乾きのジャケットやカーゴパンツを脱ぎ、ポケットのものや使い捨てカイロを出し、湯船に入れてお湯を出して洗い始める。


「クソ。洗剤も必要かよ」


 とりあえず血は落ちたが、綺麗には落ちなかった。


「あ、ハンガーもねーよ」


 あー本当にないない尽くしで嫌になる。


「しょうがない。部屋を改造するか」


 中央ルームからタブレットを持ってきてユニットバスにジャケットを干せる棒を作り出した。あと三つで六十円のハンガーも買う。


 セフティーホームは改造改築もできるようだが、それは後々。稼いでからだ。


「まあ、そんなのは何年先かわからんけどな」


 四匹倒してヒーヒー言ってんのに、増設とか夢見てんじゃねーよって話だ。


 ジャケットやカーゴパンツを絞り、ハンガーにかけた。


「空調がしっかりした造りでなによりだ」


 中央ルームに戻り、二千円の枕を買ってその日は寝ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る