第4話 生存戦略(?)

 目覚めたら筋肉痛になっていた。


「大したことしてないのに」


 まあ、運動も碌にしてないアラサー工場作業員がいきなり殺し合いをしたんだ、無駄に力んで筋肉痛になるのも無理ないか。


「昨日、風呂に入っておくんだったな」


 今からでもいいから風呂に入っておくか。これからのことを考えないといけないんだからな。


 二百円のバスタオルを買い、シャワーを浴びながら湯船にお湯を溜めた。


「どうすっかな~?」


 考えると言ったものの名案なんてこれっぽっちもない。現実逃避しないようにするだけで精一杯だよ。


 なにも考えずシャワーを浴びるが、人間は腹が減る生き物。空腹が現実の重さを教えてくれた。


「カップラーメンでも食おう」


 風呂から出てカップラーメンを食うことにした。


 一滴残らずカップラーメンをいただき、水を飲んでからタブレットをつかんだ。


 いつもなら動画を観るかゲームをするかだが、このタブレットにそんな機能はない。クソッたれが。


「またベレッタを買うか?」


 なんとなくベレッタの画像を眺める。


 格闘技経験のないオレには銃に頼るしかない。一匹ならまだしも二匹以上現れたらマチェットだけで勝てる自信はない。確実に死ぬ未来しか想像できんわ。


「それ以前に体を鍛えないとダメだよな」


 ダメ女神がどれだけ身体能力を上げたかわからない。筋肉痛になるんだから一割か二割だろう。一年鍛えたらそのくらい上昇するわ。


「理想は一匹でいるゴブリンを狩る、だな」


 さらに理想を言えば一日一匹狩れば三十日で十五万円だ。セフティーホームは光熱費込みで月一万円。食費三万円。生活雑貨で五千円。いや、必要なものを揃えていくから二万円とみるべきだな。


 風邪や怪我をしたときのために四万円は貯金。五万円で武器類を揃えていく、ってのが理想だな。


「しばらくは体を鍛えながらマチェットでゴブリンを狩る、かな~?」


 そうすると銃より食料か。ゴブリン駆除も健康な体があってこそだ。まだゴブリンが弱いところにいる今がチャンスだろう。それに、外は冬。虫もそうはいないだろうし、他の獣もいないはずだ。


「あ、熊よけスプレーってあったよな」


 探ると一本二百円で売っていた。容量の大きいのでも三百円だ。


「一匹のを探して狩り、複数いたら熊よけスプレーを噴きかけて逃げる、だな」


 幸いにしてゴブリンの気配はわかる。


「気配も鍛えたらもっと高性能になるかな?」


 これもやってみる価値はある。ただ、ゴブリン以外に使えないのが難点だよな。ゴブリンばかりに気を取られて他を見逃して殺されましたは笑えんわ。


「雪は降ってないが草木で滑ることもあるから膝当てはいるな」


 工場の味方、モモタロウで見たことある。


 いろいろ探すと膝、脛をガードするものがあった。


「草刈りに使うものだが、強度的には問題ないだろう」


 転んでも怪我をしないためのものだし、ゴブリンに噛まれても何回かは防いでくれるはずだ。


「そう言えば、防刃用のアームカバーがあったな」


 サンダーを使う部署にいったとき、防刃用のアームカバーを使っていた記憶がある。あれならゴブリンに噛まれても致命傷にはならないはずだ。


「あった。六百円と千五百円のがあるな」


 ベレッタのときのようにケチってはダメだな。腕は一番噛みつかれやすい場所。高いのを買っておこう。


 他に、ニット帽に手袋、五百ミリリットルのペットボトルを入れるホルダーを買った。


「ハァ~。一万円を越えたか」


 ま、まあ、命を買ったと思えば安いものだ。三匹狩れば元は取れる。オレよがんばれ、だ。


 一度、すべてを装備して、馴染むよう中央ルームを回った。


 他にもシャドーボクシングをしたり転がったりマチェットを振り回したりする。


 三十分くらいして汗が出てきた。


「……身体能力が上がってる……?」


 あるようなないようなはっきりと実感はないが、なんとなく体が動いているような気がした。


 水を飲み、一休み。


「カップラーメン一つじゃすぐ腹が減るな」


 二十七歳辺りから食う量が減ったが、それでも社食にカップラーメンを足すくらいには食っていた。それでカップラーメン一つじゃ腹は満ちないよ。


「でもまあ、空腹ってことはない。二時間くらい歩き回るくらいはできるな」


 朝飯食わずに仕事に出るときもある。ゴブリン一匹狩れたならカツ丼一杯は食えるだろう。


「やるか」


 ニット帽をかぶり、手袋をはめる。


「そう言えば、北海道出身のヤツが手袋ははくって言ってたっけ」


 どうでもいいことを思い出して笑いが出てしまった。


「なんだオレ。余裕じゃん」


 そう思えたら体の緊張が解け、気持ちが和らいだ。


 もう一度装備を確認してから外に出た。


「昨日の場所か」


 セフティーホームは入った場所が記録され、そこにしか出れない。これは場所を選ばないと酷い目に遭いそうだな。


 崖から落ちる途中でセフティーホームに入り、また出たらまた落ちる。ジ・エンドな未来しかないぜ。


「ゴブリンの死体、なくなってるな」


 共食いかな?


 グロ耐性があるからなんとも思わない。ふ~んでしかないよ。


「ゴブリンの気配は、あるな」


 離れすぎてるのか、うっすらとしか感じない。


「まあ、体を鍛えるのが一番。生き残るのが二番。駆除は三番だ。危ないと感じたらダッシュで逃げる」


 生存戦略(?)を決めて、ゴブリンの気配に向かって歩き出した。

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