第58話 また長い夜

 昼飯のあと、落とし穴の様子を見に向かった。


「……大人の巨人が掘ると凄まじいな……」


 家から三百メートルほど離れた場所に縦横約三十メートル。深さ約十メートルの大穴ができていた。


「巨人が温厚な種族でよかった」


 これで好戦的だったら人間などとっくに滅んでいたことだろうよ。


「タカト。こんなもんでいいか?」


 穴を覗いていたらゴルグに声をかけられた。


「ああ。充分だ。これならゴブリンが上がってくることはないだろうよ」


 上がってこれるゴブリンがいたら速攻で戦略的撤退をするよ。


「念のため、尖らした枝を壁に刺しておいてくれ」


 それで死んでもゴルグに金は入るはず。この落とし穴作戦はゴルグ主導でやっているんだから。ってことを調べるための作戦でもあるのだ、これは。


 ゴルグたちが枝を壁に刺している間にゴブリン通路を確認し、周辺に処理肉を適当にバラ蒔いた。


「処理肉はラダリオンが帰ってきたら放り込んでもらうよ」


 上がってきたゴルグに伝える。


「本当にこれでゴブリンがかかるのか?」


「かかるさ。もうゴブリンどもが肉の臭いに集まり出してるからな」


 オレのレーダーが三十近いゴブリンの気配を捕らえている。せっかちなゴブリンなら処理肉を放り込む前にかかるかもしれないな。


「次の穴も夕方には終わりそうか?」


「ああ。夕方には終わらせるさ。スリングショットを作らなくちゃならんからな」


 燃やしておいてなんだが、そこまで作りたいものか? 飛ばす武器なら弓矢があるだろうに。


「報酬のワインはいいのか?」


「飲みながら作る」


 とのことでした。巨人、好きなことには貪欲だな。


 ゴルグたちが次の穴に移り、宣言通り夕方には落とし穴を完成させてしまった。


 手伝ってくれた男たちに報酬のワイン(七百ミリリットル)を三本ずつ渡すと、嬉しそうに帰っていった。日当にしたら千円くらいなのにな。


「タカト。明日も手伝いを呼ぶか?」


「いや、いらない。たぶん、明日には二百匹はかかってるだろうからな。ゴルグ一人で埋めてもらうよ」


「ハァー。そりゃ重労働だな……」


「がんばれ」


 としか言ってやれないオレを許してくれ。


「ただいま」


 と、ラダリオンが疲れた様子で帰ってきた。


「ラダリオン。疲れて帰ってきたところ悪いが、処理肉を出して落とし穴に放り込んでくれ。今日はすき焼きにするから」


「──わかった!」


 疲れなど吹き飛ばして四十キロ買った処理肉をセフティーホームから運び出し、暗くなる前に落とし穴へと放り込んだ。すき焼きは魔法の言葉だな。


 すき焼きを食べたらオレはセフティーホームの外に出て、ゴブリンの気配を探る。


「こりゃ二百では済まないな」


 ほんと、これだけの数、どこにいたんだろうな? てか、これだけの数を支える食料があるって、ここはどんだけ豊穣の地なんだよ?


 いや、処理肉集まってくるから食料不足なのか? どっちなんだ? なにか違う要因で増えるのか? なんなんだ? ファンタジーなところは予想がつかないから嫌になるぜ。


 軽く四百、いや、五百匹はいるか? まさかまた王が立ったわけじゃないよな?


 ブラックコーヒーを飲みながら散り散りにいるゴブリンの気配を探っていると、落とし穴に嵌ったのか、続々と気配が固まっていった。


「ネズミみたいな習性を持った害獣だよ」


 二時間くらいすると落とし穴に嵌まるゴブリンも少なくなってきた。


「……気配の動きからして王が立ったわけじゃないっぽいな……」


 廃村のときのように統一された動きはしていない。個々が勝手に動いてる感じだ。


 三時間が過ぎると異常に気がついただろうゴブリンが警戒してウロウロしている。


「そろそろいってみるか」


 ヘルメットを被り家の外に出ると、当然の如く外は真っ暗だ。だが、なんの明かりもないと自分の手すら見ることができず、恐怖を掻き立てるものがあった。


「三千ルーメンの力、見せてもらおうか」


 ヘルメットにつけた三千ルーメンのヘッドライトをオンにした。


「メッチャ明るいやん」


 これなら千ルーメンのヘッドライトでもよかったかもしれんな。


 本当なら軍用のナイトビジョンを思ったが、その値段に断念。別にゴブリンを駆除するわけでもないし、銃を持つ敵を相手するわけでもない。なら、ヘッドライトで照らせばいいじゃんと思い至りました。


 本格的な駆除じゃないので、練習がてらAPC9装備。リュックサックは置いてきて左手で抜けるようマチェットを背負いました。


「この明るさはもはや凶器だな」


 三千ルーメンも正面から浴びせられたらどこかの大佐みたいに目が~目が~ってなるぞ。


「てか、ゴブリンの悲鳴がうるさいな」


 圧死してんじゃね? と思いながら向かった。


 落とし穴の周りをウロウロしていたゴブリンが明かりに気がついて木の陰やら草むらに隠れるが、オレに丸わかり。そちらにAPC9を向けて適当に撃った。


 落とし穴を周りながら隠れるゴブリンを駆除する。


「あ、金が入った」


 圧死でもしたのか、オレに千五百円が入った。ってことはゴルグが倒したことになったわけか。そこら辺は柔軟だな。


 次々と圧死していき金が入ってくる。


 次の穴に向かい、また隠れているゴブリンを駆除する。


「結構いるな」


 持ってきた四本のマガジンを撃ち尽くしてしまったよ。


 セフティーホームに戻り、マガジンを補給しようとしたら二本しかなかった。使うと思ってなかったから弾込めしてなかったんだっけ。


 しょうがないとP90装備に交換して外に戻った。


「ん? 第二波か?」


 たくさんの気配がこちらへと向かってくるのを感じた。


「ゴブリン、変な電波とか飛ばしてないよな?」


 またセフティーホームに戻り、軽機関銃のMINIMI−MK3と換えの二百発弾倉箱をつかみ、近くの木に登ってライトを消した。


「また長い夜になりそうだ」


 三十分して数百のゴブリンがやってきた。

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