第59話 疲れた……

 なんだろう、この臭い? ワキガのような嫌な臭いが段々と濃くなっている。


 まあ、ゴブリンが発しているのは間違いないんだが、これまでこんな臭い出していなかったぞ。廃村に現れたのとは違う種なのか?


 ……クソ。濃厚な臭いに気分が悪くなるぜ……。


 両手が塞がっているのでマスクをすることもでぎず、小さく息を吸って堪えた。


 暗闇の中でゴブリンが落とし穴へと続く塩ビ菅の中を潜って潜って落とし穴へと落ちていく。


 気配から三メートルくらいは埋まった感じだろうか? 十メートルくらい掘っててよかったぜ。


 落とし穴からギーギーと苦しそうに叫んでいるのにゴブリンどもは興奮した感じで塩ビ菅を潜って落ちていく。


 ……もしかして、この臭いがゴブリンを引き寄せているのか……?


 真相はわからないが、もしこの臭いに集まってくるなら今後落とし穴作戦は控えたほうがいいだろう。特に人が住む近くでやる作戦じゃないな。


 臭いに堪えること一時間。やっと勢いが収まってきた。が、それでも落とし穴の周囲には百匹近いゴブリンが彷徨っている。


 さらに三十分待ち、枝の上からズルズルと滑り下りる。じいちゃん、木登りを教えてくれてありがとね。


 軽と言いながらなかなかに重い軽機関銃と弾倉箱を持って木を登り下りするなど普通のヤツには至難の技。それができるオレ、スゲーんだぜ(ドヤ)。


 MINIMI−MK3と弾倉箱を地面に置いてヘッドライトをオン。P90を構えて眩しさに狼狽えるゴブリンを撃ち殺してやった。


 前に後ろに横にとP90を向けてゴブリンを駆除していき、マガジン四本があっと言う間に空になった。


 P90と空マガジンは踏み荒らされないよう木の下に置き、MINIMI−MK3をつかんだ。


 買ったときに使い方は確かめたが、撃つのはこれが初めて。練習だと思って気張るなオレ。


 連射に切り換え、ゴブリンが多いほうへと向けてて引き金を引いた。


 なかなかある反動に堪えながらゴブリンを撃ち殺し、無駄弾にならないよう多いところ多いところを狙って撃っていった。


 とは言えすべてを当てられるわけもなし。五発も撃って一匹殺せればマシなほう。密集してないと効果がない銃だな。


 まあ、練習にはちょうどいいんだからこれは必要行為(経費か?)。ガンガン撃て、だ。


 二百発撃ち切ったら弾倉箱を交換。あと今さらながらマスクを装着。最初の落とし穴へと向かった。


「あっちにもいるな」


 隠れているのは無視して多い気配に向けて撃っていく。十分もしないで二百発はなくなり、ヘッドライトを消してセフティーホームへと戻った。


 MINIMI−MK3を置き、息を整えてから水を飲んだ。


 ……軽機関銃を持っての駆除は思った以上に腕に負担がかかるぜ……。


 こんなものを持って戦う兵士の凄さを痛感させられながら装備を外していると、ラダリオンが起きてきた。


「タカト」


「起こしたか? うるさくして悪いな。すぐ用意して出るから寝てていいぞ」


 ゴブリンは粗方片付けたのでベネリM4装備がいいだろう。


 弾は鳥撃ち用のをダンプポーチに入れるだけ入れて外に出た。


 ヘッドライトをオンにして落とし穴周辺のゴブリンを駆除していった。


 弾を撃ち切る頃には大体は駆除でき、ゴブリンの気配もまばらになってきた。


 弾を補充しに戻るかと思ってたら明かりが見えた。ラダリオンか?


 松明とかじゃ出せない明かりならラダリオンがベッドライトをつけてやってきたのだろう。まったく寝てていいのにな。


 不利と感じたらセフティーホームに逃げればいいだけ。朝になったらゴルグに追い払ってもらえばいいんだからな。


「ゴルグたちまできたのかよ」


 落とし穴のところまで待っていたらゴルグと数人の男たちが松明とマチェットを持っていた。


「いったいなにがあったんだ? 村まで音がしたぞ」


 三百メートルは離れてるから聞こえないかと思ったらがっつり届いていたようだ。


「うるさくして悪かった。思いの外ゴブリンが集まりすぎてな。落とし穴から溢れたのを駆除してたんだよ」


 ラダリオンに抱えてもらいゴルグたちに説明した。


「おい。周辺を探れ!」


 男の一人がそう言うと、暗い森の中に男たちが散っていった。


「ゴルグは落とし穴を埋めろ。この臭いがゴブリンを引き寄せるみたいだから」


 そのつもりでスコップを持ってきただろうゴルグに指示を出した。


「わ、わかった。この臭いはたまらんよ」


 落とし穴の周りの土手にスコップを刺して落とし穴を埋め始めた。


 しばらくしてゴブリン駆除の上前が入ってくる。大量に入ってくるので何匹かなんてわからないが、埋め終わる頃には七十万円くらいプラスされた。


 ……ざっと計算して五百匹は落ちたわけか。集まりすぎだよ……。


 次の落とし穴に向かい、埋めていると朝日が出てきた。


「徹夜しちまったな」


 まだ興奮してるのか眠くはないが体はダルい。あー風呂に入ってビール飲みたいぜ。


 大陽が完全に顔を出し、落とし穴は完全に埋められ、計百五十万円くらいの上前が入った。


「千二百匹はいた感じか」


 辛うじてプラスに終わってなによりだ。


「まさかこんなにゴブリンがいたとはな」


 さすがのゴルグも一人での埋め方は重労働だったようで大量に汗を流していた。


「ゴブリンは集めるとこの臭いを出して仲間を呼び寄せるんだろう。やるなら村の近くじゃなく山の中でやることだ」


「こんなに集まると知ったら二度とやらんよ。と言うか、こんな数がいたことにびっくりだよ。まだいるのか?」


「近くに数十匹は隠れているが、大量にはいない。おそらく、この辺にいたゴブリンが集まったんだろう」


 探知内にはちょこらちょこらいるものの、固まった気配は感じない。きっと臭いを嗅ぎ取れる範囲のが集まったんだろうよ。


「ラダリオン。悪いがうちまで頼む。ゴルグ。あとは任せる」


 長い夜は終わったが、これからオレは長い眠りにつかせてもらいます。って、これじゃなんか永眠する感じだな。


 まあ、なんでもいいとうちへ帰った。



                 第1章 終わり

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