第57話 心に火を
気を取り直してマグルに千円くらいの折り畳みナイフを渡した。
「安物だから乱暴に使っても構わないし、折れても気にしなくていいぞ。と言うか、マグルは刃物を使ったことはあるのか?」
巨人のナイフは高いとゴルグが言ってたが。
「石刃なら」
石刃? 黒曜石のナイフな感じか? まあ、使ったことがないに等しいってことで理解しておこう。
「これだよ」
と、ロミーがスカートのポケットから平べったい石を取り出して見せてくれた。
「こんなのでなにが切れるんだ?」
まあ、巨人が使えば大抵のものは凶悪な武器になれるけどよ。
「ちょっとしたものを切ったり野菜の皮を削ったりするね」
巨人の手で野菜の皮を削るって可能なのか? 人間で言えばピーナッツの皮を剥くようなもんだろう。
「思うんだが、巨人が料理するって大変じゃないか?」
巨人サイズの野菜があるとは思えない。ってことは人間サイズの野菜を調理するしかないはずだ。腹を満たすための量となると凄まじい作業になる。想像しただけで頭が痛くなるぞ。
「そこは人間の手を借りるね。あたしら巨人がいることでこの辺に現れる魔物はゴブリンくらい。凶悪な魔物が寄ってこないから農作物をたくさん作れる。あたしらが飢えないくらいにね」
なるほど。共存ってわけか。ここは巨人と人間がいい関係を築けられてるんだな。
「下処理は人間たちがやってくれて、あたしたちは力仕事や農作業で返しているよ」
「だから石刃で充分なんだな」
「まーね。けど、あたしらもナイフとかあれば他にもできることはあるんだけどね」
巨人が持てるものとなるととんでも値段になる。とても主婦が買えるもんじゃないか。
「まあ、ゴルグがゴブリンを駆除したら持てるようになるよ」
「そうだね。旦那にはがんばってもらわないと」
嫁の尻に敷かれる旦那。それもよき夫婦の関係である。独身者にはよー知らんけど。
「マグル。とりあえず枝でも削ってみろ」
「わかった」
六歳ならそのくらいできんだろう。と思ったら予想以上に上手く使いこなすマグルくん。天才か?
「さすがゴルグの息子ってところか」
「父親のやるところ見てるから覚えたんだろうね」
これならスリングの土台が作れそうだ。
Y型の枝を見つけてきて作り方を教えると、スイスイと削っていき、これまたあっさりと仕上げてしまった。
「そう難しくないとは言え、六歳とは思えん器用さだな。職人になったほうが大成するんじゃないか?」
「我が息子ながら器用だよ」
「おれ、冒険者に成りたいんだけど」
そうだった。成りたいものに成るがマグルの幸せだったな。
この世界にまだゴムはないのでそれはタブレットで買い、インシュロックで固定してスリングショットが完成した。
「これはスリングショット。この伸びるゴムってのを使って小石を飛ばす武器だ。巨人が使うならゴブリンくらい殺せるだろう」
下手したらミンチになるかもしれんな。
まずオレがデモンストレーションしてみせる。
的は五百ミリリットルのペットボトル。距離は十メートルくらい。玉は小石。狙いを定めて離した。
見えない速さで小石が飛んでいき、ペットボトルに穴を開けた。
よし! 二十年振りにやったが、腕はそう衰えてないな。これなら二十メートル離れても当てられそうだ。
「タカトスゲー!」
どうやらマグルの男心に火がついたようだ。
「小石じゃなく泥を丸くして火で焼くのもいいし、こう言う鉄の玉でもいい。獲物によって換えるのがスリングショットだ」
まあ、スリングショットの玉など安いから買ってもいいんだが、まずは現地調達できる知恵を教えよう。
「お、やってるようだな。マグルはどうだ?」
十時の休憩にゴルグたちが戻ってきた。
「ああ。お前の息子は才能あるよ。ナイフ使いも上手いし、スリングショットもなかなかだ」
「スリングショット?」
マグルのを見せてやり、デモンストレーションしてやる。
「おぉ、凄いな! おもしれー!」
と、大きな子供たちの心にも火を燃やしてしまい、休憩そっちのけでスリングショットに興じてしまった。
「まったく、いつまでもガキなんだから」
そう言ってやるなロミーさんよ。男が男である証なんだからさ。
「土台はすぐに作れるが、この伸びるヤツはなんなんだ? なんかの獣の腸か?」
「南国に生える木の樹液に硫黄を混ぜて作ったものだ。オレが用意した」
ってくらいの知識しかありません。ゴメンなさい、
「てことは、おれも買えるものか?」
「ああ。ゴブリン一匹殺せば二十は買えると思うぞ」
ゴムだけなら相当な量(長さか?)が買えるだろうよ。
「いくつか残ってるから仕事終わりにやるよ」
だから休憩してしっかりと穴を掘れ。すべてはゴブリンを駆除してからだ。
ロミーも手伝ってくれ、野郎どものケツを蹴り飛ばしてやった。
「マグル。昼までひたすら練習だ」
「うん、わかった!」
オレも初心者に負けてはいられんとスリングショットを練習。昔の勘を取り戻していった。
「そろそろ昼だよ」
おっと。もう昼か。童心に返って集中しすぎたわ。
「よし。マグル。昼を食ったら小石集めと的作りだ。オレはゴルグたちの様子を見にいくから」
「うん、わかった!」
やる気満々でよろしい。
そこでマグルたちと別れ、家に入ってセフティーホームへと戻った。
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