第171話 教会

 三人がまず買ったものは靴だった。なんで?


「タカトさんが履いている靴、格好いいと思ってて欲しかったんです」


 三人が履いている靴──と言うかサンダル(?)は革のものなので、防御力も衝撃吸収力もないもの。よくそんなもので歩けてたと思うよ。


「その靴につけてるナイフも格好いいです」


 ブーツナイフは咄嗟のときのためにしてることもあるが、一番は足首を噛まれたとき食い千切られないようにする防壁でもあるのだ。


「そう言えば、お前たちって剣は持たないのか?」


 ナイフは腰に差しているが、刃渡り二十センチもないものだ。咄嗟のとき、そのナイフで戦うのか?


「はい。おれたちはこれで戦います」


 と、馬につけていた鞭を外して見せてくれた。


「へー。鞭で戦うんだ」


 騎馬民族かと思ったらカウボーイだったよ。いや、インディアンか?


「はい。この辺は狼が主なので弓で倒せないときは鞭で戦うんです。ナイフは解体用ですね」


 所変われば品変わるだな。マルグに鞭でも買ってってやるか。ライダンド土産としてな。


「あと、下着と靴下を買っておけ。不潔にしてたら女にモテんからな」


 こいつらも臭くて、何日も着てる感じだ。ゴブリン請負員なら身嗜みにも力を注げ、だ。


 請負員カードで下着や靴下、石鹸、タオルなどの検索方法を教えた。


「そろそろ帰るか。すまないが、冒険者ギルドまで案内してくれ」


 大体の場所は聞いてたが、案内してくれるならそれに越したことはない。迷うのも面倒だしな。


「わかりました」


 と、バイスたちに先頭を走ってもらい冒険者ギルドへ向かった。


 三十分くらいで領都に到着し、城壁内にある冒険者ギルドにやってきた。


 石造りの二階建てで、コラウスの冒険者ギルドより小さい。町の支部って規模だ。


「ライダンドは冒険者が少ないのか?」


「どうでしょう? 他を知らないんでわかりません」


 そりゃそうだ。まだ冒険者になって一年くらいって言ってたしな。外を知ってるほうがおかしいか。


 時刻はもう少しで十六時。コーヒーでも飲んで待とうかな? と思ったらカインゼルさんがやってきた。


「お疲れ様です。なにかありましたか?」


「いやない。そちらはゴブリン駆除にいってたんだって?」


「はい。この三人を請負員にしてくれと頼まれましてね、教えるために出てました」


 軽く説明する。


「そうか。まあ、タカトの売る酒は魅力的だからな。ダインらが必死で考えたんだろう」


 さすがカインゼルさん。ダインさんたちの考えを見抜いてるよ。まあ、そのくらい見抜けないようでは間抜けってもんだ。


「じゃあ、いきますか」


 ロースランの魔石とギルドマスターが書いてくれた羊皮紙を持って建物へ入った。


 中も町の支部くらい。職員が十人もおらず、カウンターにいるのは三人。まだ混む時間ではないようで、冒険者の姿はなかった。


 カウンターにいき、コラウスからきた冒険者であることを告げ、登録希望を伝えて完了してからギルドマスターが書いてくれた羊皮紙を出した。


「少々お待ちください」


 職員の女性が羊皮紙を持って奥にいき、初老の男性を連れて戻ってきた。ライダンドのギルドマスターだそうだ。


「あんたがタカトかい。ウワサは耳にしとるよ」


「ウワサの半分は誇張ですから信じないでください」


「なるほど。呆れるほど謙虚は本当のようだな」


 羊皮紙にそんなことまで書いてあんのかい! 文字を読めるようにしないと怪しい壺とか買わされそうだな!


「謙虚ではなく実力が伴ってないだけですよ。できもしないことをできると豪語できるほど恥知らずではないので」


 もちろん、やらなければならないことは努力するが、能力以上のこと求められても困るんだよ。がんばればなんでもできるなんて幻想だ。できないことはいくらやってもできないんだよ! 人を替えるなり方法を変えるなりしろってんだ!


「なるほど。手強いな。サイルス様が気にかけるわけだ」


 だからそんなに持ち上げないで! ダメ女神が選んだようにオレは普通オブ普通の男なんだからさ!


「しばらくライダンドに留まります。ゴブリンの情報があれば教えていただけますか?」


「ゴブリン殺しの名に偽りなしか」


 隣でゴブリンの耳を出しているバイスたちに目を向けるギルドマスター。


「ゴブリン駆除しか能がないもんで」


 その能も大して与えてもらえなかったけどな。せめてこの世界のマップにゴブリンがマークされる能力をくれよ。いや、その他の魔物も表示してください。

 

「ゴブリンを狩ってくれるのはありがたいが、資金不足に陥りそうだな」


 ここでもゴブリンに割ける予算はないのかよ。人類、またダメ女神にやり直しされるぞ!


「払うものは払わないと手遅れになりますよ。この世界には魔王がいるんですからね」


「そのようだ。伯爵様に報告せんといかんな」


 オレのことは過大評価しないで報告してくださいよ。厄介な依頼されたら逃げるからな。


「あと、ロースランの魔石を買い取ってください」


「そう言えば、ミランド峠のことがあったな。倒したのか?」


「全滅させたかまではわかりませんが、六匹は倒しました。うち五つの魔石の買い取りをお願いします」


 段ボールに入れたロースランの魔石をカウンターに出した。


「あ、資金がないなら数を減らしますよ」


「いや、青の魔石ならすぐに売れるから構わない」


「教会ですか?」


「ああ。教会にとって青の魔石は権威を高めるために必要なもの。あればあるだけ買ってくれる。もちろん、ギルドとしての儲けともなる。いつでも買い取るよ」


 そう言って魔石を調べ、金貨三枚を出してくれた。それでも教会には高く売れると言うことか。その金を孤児に回せよ。たかりをさせんじゃねーよ。ほんと、教会はクソだな。


「奥でゴブリンの情報を話そう」


「わかりました。お前たち、あとは創意工夫してゴブリンを狩れな。ライダンドにいる間なら相談にも乗るから」


 バイスたちとはそこで別れ、カインゼルさんと奥へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る