第170話 そして汚い大人

 少し飲ませすぎてしまったようで三人が眠りについてしまった。オレもイケない大人になってしまったものだぜ。


「ビシャ。ちょっとホームにいってくるから三人を頼む。チョコパフェ持ってきてやるから」


「わかった。あ、メビには内緒だよ。あたしだけ食べたってわかったら騒ぐから」


 姉妹間でも食には容赦がなかったりする。まあ、オレも兄弟間でおやつの奪い合いしたことあるけど。


「了解。じゃあ、頼むな」


 そう言ってホームに戻った。


「ラダリオン、戻ってたか」


 まだ十一時半過ぎ。あちらはもう宿屋にいるのかな?


「うん。じいちゃんがサウナいって、メビは眠った」


 カインゼルさんは本当にサウナ好きだよな。サウナが元気の元なんだろうか? だったらオレも入るようにしようかな~。


「オレらはゴブリン駆除して昼に入った。十六時くらいには冒険者ギルドにいくからそう伝えておいてくれ」


「わかった。ゴブリン、結構いるの?」


「そこそこだな。コラウスほどは稼げないと思う」


 がんばっても一日五十匹も駆除できたらいいとこじゃないか? それだけコラウスが異常なんだろうよ。


「ミリエル。青の魔石だ。脚の回復に使うといい」


 魔法とは凄いもので太ももの半分もなかったのに、今では脛のところまで回復している。冬には完璧に治るんじゃないだろうか?


「ありがとうございます。大事に使います」


「本当に回復薬使っていいんだからな。ミリエルがいてくれるお陰で回復薬を使う出番もなくなってるんだから」


 安全第一に行動してるから大した怪我もない。精々擦り傷ていど。ミリエルにかかれば一瞬だ。回復薬など今では緊急用以外は常備薬になってるよ。


「大丈夫です。自分の体で試しながらしたほうが勉強になりますから」


 なにがどう勉強になるかはわからないが、ミリエルの技術が上がればオレらの死亡率は下がるってもの。認めるしかないだろうよ。


「コラウスはどうだ?」


「特に問題はありません。あ、ロミーさんのおとうさんとお弟子さんがきて予定地の均しに入りました」


「じゃあ、酒を追加しておくか。ワインでいいか?」 


「ロミーさんと同じく梅酒が好みみたいでしたよ。よくソーダで割って飲んでました」


「梅酒か。オレもたまには飲んでみるかな」


 一時期はまって飲んだが、ウイスキーを覚えてからは飲まなくなったっけ。今日の夜でも飲んでみるか。


 梅酒と言ったらチョーヤだが、全国には隠れた名酒はあるもの。特に百年梅酒は美味かったっけな~。


 飲んだことがない梅酒を十種類くらい買い、オレ用に男梅の素一・八リットルを買った。あとソーダも箱買いっと。あ、チョコパフェもだった。


「一人で寂しいときはロミーのところにいってもいいからな。ライダンドじゃゴブリンが溢れることもなさそうだし」


 別にフラグを立ててるわけじゃないよ。ゴブリン以外が溢れたら即逃げさせていただきます。それはライダンド伯爵の仕事だしな。


「はい。寂しくなったらいってみます」


 無理するなよと言って外に出る。


 三人はまだスヤスヤ眠っており、ビシャにチョコパフェを渡したら周辺を歩いてみた。


 ゴブリンの気配はある。警戒しながらエサでも探しているのだろう。二、三匹で隊を組んでいる。この世界にきたときを思い出すぜ。


「……ここに転移させられてたら早々に詰んでたかもな……」


 ゴブリンが襲ってくることもなく、人を見たら逃げる。遠距離武器がなければ対処しようもない。準備金十万円では知恵の絞りようもねーわ。


 ただ、今なら対処法を冷静に思いつけた。


 ここのゴブリンはプレリードックみたいなものだ。いや、プレリードックの生態など知らんが、ここのゴブリンは丘に穴を掘って巣を作り、群れを成しているのが気配でわかった。


 まあ、先ほどのような大きな群れは希だろうが、他は十匹前後。穴の深さにもよるが、燻すか爆破すれば問題ない。手段さえあればここでの駆除は楽だろうよ。


 ただ、オレらが儲けすぎたらバイスたちの儲けが減る。定期的にゴブリンを駆除できるようにしたほうが長期的に見てオレの儲けとなるだろうよ。


「バイスたちで駆除するにはスモークで燻すのが一番か」


 スモークグレネードなら千円くらいで買える。十匹も巣にいれば損は出ないだろう。


 あれこれ考えていたら三人が起き出した。


「酒にも強くならないとな」


 こちらのワインはただ酸っぱくてアルコール度数も低い。四パーセントもあればマシなレベル。慣れてない者には十五パーセントはかなりキツいだろうよ。


 三人に川で顔を洗ってくるように勧め、頭が目覚めるようコーヒーを淹れてやった。


「……苦い……」


「アハハ。知らないこと慣れないこといっぱいだな」


 まあ、それが当たり前。一つ一つ知っていって慣れていくもの。そうやって経験してくものなんだよな。オレもそうだったし。


 ……まさか異世界にきてゴブリン駆除の経験までさせられるとは夢にも思わなかったがな……。


「さて。頭が目覚めたら請負員カードの扱い方だ。自分たちの稼ぎをどう使うかよく考えるんだ」


 大人たちに利用されたくないのなら考えろ。生き抜く知恵を身につけろ。お前たちの人生これからなんだからな。


 ってまあ、なにも知らない少年にウソをつき、利用しようとしているオレが偉そうなこと言うなって話だけど!

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