第169話 ズル賢い大人

「北西にゴブリンが固まってる場所がある。そこにいってみよう」


 気になっていたのだ。そこだけ五十匹くらい固まっているのだ。巣でもあるんだろうか?


 二分ほどで到着。以前、大木が立ってたのだろう。朽ちた幹だけが残っていた。


「ここ、ゴブリンをよく見るところです」


「いるとわかっていて狩らないのか?」


「どうも地下に巣を作っているようで、人がくると隠れてしまうんです」


 なるほど。掘り起こしてまでやる価値なし、ってことか。


「ライダンドではゴブリン一匹狩るといくらになるんだ?」


「銅貨二枚です」


 ってこと二百円くらいか。そりゃ誰もやりたがらないわな。オレもそれでやれと言われたら即行転職させてもらうわ。


 丘の周りを探ってみると、それっぽい穴がいくつかある。


「よし。炙り出す。それぞれ狙いやすい位置に立て。ビシャもやっていいぞ」


 パイオニアからスモーク発煙筒と折り畳みのスコップ、ビニールシートを出した。


 スモーク発煙筒を発火させたら穴に放り込み、ビニールシートで穴を塞いだら土をかけてスモークが漏れないようにした。


 オレもVHS−2をつかんで丘に上がった。


「煙が出た!」


 結構スモークが出ること。ゴブリンはいつまで堪えられるかな?


 煙がいくつかの穴から出て二分。下で固まっていたゴブリンが動き出した。


「出てくるぞ。しっかり狙えよ」


 パニックに陥っているようで、がむしゃらに穴を進んで外を目指しているようだ。


「射ち漏らしは気にするな。逃げたら馬で追えばいいんだからな」


 一人五匹も狩れたら充分だ。それ以上は追って殺せばいいだけだ。


「出るぞ!」


 オレは撃たず、三人の弓の腕を見た。


 それぞれ一射目は当て、二射目も当てた。が、三射目からは外し始めたが、手持ちの矢を三本残して三十数匹を射殺してしまった。ちなみにビシャも六匹くらいは撃ち殺してました。


「何匹か逃げたか。まあ、これだけ倒せば追う──ん?」


 真下にゴブリンの気配を感じた。


「まだ残ってたのか」


 逃げ出したゴブリンに気を取られてて見落としていたよ。


「また出てくる。オレが殺るから手を出すな。おそらくマーヌだ」


 犬と猿くらいの違いがあるのに仲良く巣にいるとか謎だが、そういう謎は後回し。今はマーヌを仕留めることに集中しろ、だ。


 マーヌは三匹。その三匹が一列に並んで出てきている。


 連射にしてタイミングを合わせて引き金を引いた。


 タイミングよく出てきてくれたお陰で三匹を撃ち殺せ──はしないか。まだ息があるよ。


「上位種は生命力が高くて嫌になる。ビシャ。止めを刺していいぞ」


 今日のガソリン代と酒代は稼いだ。いや、四人が稼いでくれた。ビシャに稼がせてやろう。


「わかった!」


 Dスナイパーからククリナイフに持ち換えて虫の息のマーヌの首をチョンパッパ。十二歳なのに腕力がオレ以上。頼もしいことだ……。


「ビシャ! 魔石を取ってくれ!」


 ムバンド村で見たマーヌより小さい感じがするが、ハスキー犬くらいはある。それなりの魔石が取れるはずだ。


「タカト! あったよ! アーモンドチョコくらい!」


 サイズの比較がアーモンドチョコとか、ビシャたちも元の世界の品から逃れられなくなってるな。


 三つの魔石を水で洗い流し、プレートキャリアにつけたポーチに入れた。


「バイス、サイルス、ライマー。ゴブリンの耳を切れ。銅貨二枚でも四、五十もあればいい食事ができるだろうからな」


 まずはゴブリンの耳を切り落とさせ、ホームから持ってきた段ボールに入れさせた。直でパイオニアに積むことは許しません。


「よし。充分倒せたし、昼でもしながら請負員カードの使い方を教えよう。とりあえず、ラズ川に戻るか。ここじゃ血生臭いしな」


 ゴブリンの臭さにも慣れたとは言え、飯を食いながら嗅ぎたい臭いではない。食べるなら空気の清んだところで食いたいよ。


 ラズ川に戻り、ビジネスホテルの朝食ビュッフェを買い、人数分の料理を運んだ。


「スゲー! どこのお貴族様の料理だよ!」


「いい匂いすぎる!」


「美味そう!」


「遠慮なく食っていいぞ。足りなければもっとあるからな」


 言葉遣いはマシになったが、食い方は野生児。フォークも一緒に持ってきたんだから使えよな。ビシャがお嬢様に見えるぞ。


「お前ら、ワインは飲める歳か?」


 てか、ここでは何歳から飲めるんだ? 決まりなしか?


「はい! 飲めます!」


「高いからあまり飲めませんけど!」


 濃縮還元ぶどう果汁のワイン? って呼んでいいのかわからないワインを出してやる。アルコール度数も低いし、飲んだことあるなら耐性もあるだろう。


「うめー!」


「こんな濃いの初めてだ!」


「ゴブリンを狩ったらこんなのが食えて飲めるんですか!?」


「ああ。ゴブリン一匹狩ればこれが七本は買える。これよりもっと美味いものだって食えるぞ」


 これからがんばって駆除してもらえるように煽ってやる。


「これがゴブリン請負員だ。がんばればかんばるほど美味いものが食えて美味い酒が飲める。ただ、美味すぎてこれまで食ってたものが食えなくなるがな」


「……これ以上のものが……」


 散々食ったのに生唾を飲む三人。異世界人は本当に食うか飲むかで火がつくよな~。まあ、焚きつける立場としては楽だけど。


「ロダンさんはお前たちに稼がせて酒を買わせるのが目的だろう。お前たちの苦労が親に搾取されるんだ。だが、請負員カードはオレや請負員にしか見ることはできない。搾取されたくなければ少な目に報告しておけよ。ズル賢い大人からのちょっとした助言だ」


 三人にニヤリと笑ってみせた。


「はい! 助言、ありがとうございます!」


 うんうん。素直でいい少年たちでなによりだ。

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