第182話 命の水

「──タカト!」


 ビシャの叫びに神域から出てきたことを理解した。


 ダメ女神によるちょびっと移動は数百メートルはあるようで、村の近くの畑の中に立っていた。神の位置把握、GPSより劣るな。


「タカト!」


 ビシャが飛び込んできて押し倒されてしまった。が、あまり痛くない。ちょこっと身体能力が上がったお陰だろう。


 ……神の物差しは人間の物差しとは違うようだ……。


「タカト、無事だったか」


 泣きじゃくるビシャをあやしていたらミシニーもやってきた。


「ああ。偶然にも一万匹駆除した記念に大魔法使いに召喚されて岩の下敷きにならんで済んだよ」


「空間を操れる魔法使いとか何者だ? 転移系魔法は禁忌に近い技だぞ」


「それだけの魔法使いがゴブリン駆除員を束ねてるんだよ」


 歴代の、だけどな。


「かなり力のある組織だったんだな」


 まあ、女神が仕切ってるんだから力はあるわな。それこそ逆らえないくらいに、な。


「村の人たちはどうした?」


「あそこで呆然としてるよ」


 なんとかビシャを抱えながら起き上がり、ミシニーが指差す方向で村の方々が確かに呆然としていた。


「……説明が必要だろうか……?」


「まあ、してたほうがいいだろうな。またここにこようと思ってるなら」


 だよね~。うん。ちゃんと説明しておこう。


 ビシャをミシニーにお願いし、村の方々に説明しに向かった。


 なんだかんだと昼まで説明がかかり、吹き飛んだ洞窟にいってさらに説明し、村をあとにできたのは十六時を過ぎてしまった。ハァー。


「ちょっとパイオニアを出してくる。ちょっと待っててくれ」


 村から数百メートル離れ、歩いて帰りたくないからパイオニアで帰ることにした。初志貫徹できなくてすみません。


「──タカトさん!」


 玄関に現れるなり電動車椅子に轢かれてしまった。い、痛い……。


「す、すみません! すぐに回復させます!」


 温かい力が流れてきて痛みが消えてくれた。


「いったいどうしたんだ?」


「どうしたかじゃありません! タカトさんが神に呼ばれたとアナウンスされて、全然ホームに帰ってこないから心配で心配で。死んじゃったかと思いました……」


 アナウンス? 駆除員には伝わるようになってんのかい?


「そ、そうか。心配させてごめんな。タイミングよく一万匹になって無理矢理呼ばれたんだよ。だから大丈夫。心配することはない。オレらはこれから帰るから詳しくは夜に話すよ。ラダリオンがきたら大丈夫だと伝えてくれ」


 ミリエルを慰めてからパイオニアに乗って外に出た。


「とりあえず、領都に戻ろう」


 領都まで約二十キロ。飛ばせば日没までに帰れるはずだ。


 道は領都まで続いていると言うので道なりに走り、なんとか日没前には到着。宿へ向かった。


「タカト。わたしはマルジィーさんに報告してくる。あとでいくから」


 そう言うミシニーと宿の前で別れた。


「タカト!」


 部屋に入るなりラダリオンからのタックル。胃になにも入れてなくて助かった。入ってたらキラキラとした虹色の吐瀉物を吹き出しているところだ……。


「ラダリオン。それ以上はタカトが死ぬぞ。離してやれ」


 カインゼルさんが助けに入ってくれ、ラダリオンの締めつけから救ってくれた。感謝です。


 ハァー。今日は何回死にそうな目に合うのやら。運が良いのか悪いのか、だぜ。


 なんとか復活して夕飯の用意を始める。ダメ女神にラダリオンやミリエルにタブレットを使えるようにしてもらうんだった。


 ──ピローン! 


 電子音が頭の中に響き渡った。


 ──その願い、叶えてあげましょう。グッドラック、セフティーブレットの諸君!


「今の、女神か?」


 ギョッとするカインゼルさん。どうやらセフティーブレット全員にアナウンスされるようだ。てか、女神がグッドラックってなんだよ? お前が幸運を与える立場だろうが。


「ええ。オレをこの世界に連れてきた元凶です」


「まさか神に触れる日がくるとはな。ありがたいことだ」


 胸に手を当てて神に祈るカインゼルさん。まあ、祈るのは自由。信じるのも自由。どうせ会うこともないんだから夢を見させてあげるとしよう。


「夕飯は皆で摂ってください。オレはホームで休ませてもらいます。今日はもうビール飲んで早く寝たいので。ビシャ。カインゼルさんたちになにがあったか軽くでいいから教えてくれ。詳しいことはオレから話すから」


「……タカト、戻ってくるよね……」


 今にも泣きそうなビシャ。いい関係を築いていると思うが、ここまで心配されるような関わりはなかったと思うんだがな。でも、心配してくれるのは嬉しいものだな。


「大丈夫。戻ってくるよ。ゴブリン駆除しないといけないからな」


 頭を撫でて安心させてやり、ホームに戻った──瞬間に膝から崩れ落ちてしまった。もう限界だわ……。


 このまま眠りに落ちてしまいたいが、それ以上にビールが飲みたい。キンキンに冷えたビールが飲みたい。寝るのはそれからだ。


 必死で中央ルームに向かい、ミリエルに頼んでビールを持ってきてもらった。


「ハァァァ! 美味い。生きてる喜びを感じるぜ!」


 このために生きてると言っても過言ではない。ビールは命の水だ。ってあれ? 水魔法属性だから水分を摂ってたら力が漲ってたのか?


「ミリエル。ラダリオン。心配させて悪かったな」


 オレを心配そうに見る二人に謝った。


「そして、仲間になってくれてありがとな。二人がいてくれるからこうして美味いビールが飲め……」


 こてんと力が抜け、そのまま深い眠りへと落ちてしまった。

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